綾部喜八郎[1/1]



「せんぱーい、とりっくおあとりーと。」


いきなり聞こえてきたうまく言えてない横文字の言葉。


「どこで覚えてきた。」

「立花先輩でーす。」


でーすーよーねー。
朝会ったときにやついてると思ってたらこういうことか。

そういえば…、昨日"はろうぃん"について語られたな。
なるほど、仕組みやがったな仙蔵め。


「残念でした、菓子なんて持ってないよ。ていうか"とりっくおあとりーと"じゃなくて"trick or treat"ね。」

「おやまぁ。雅先輩知ってたんですか。」

「仙ちゃんに耳にたこができるほど聞かされたんで。主にトリックオアトリートの部分。」

「たこ?…タコ、壺。」

「そのタコじゃない!」

「そうだ、タコ壺掘りましょう先輩。」

「いや、だから…。って、なんでそうなる。」


マイペースに私の腕を引いて堀りかけの穴まで歩いていった喜八郎は手鋤を渡してきた。


「テッコちゃんです。」

「…で?」

「堀ましょー。」


黙りこくっていると可愛い後輩を無視しないでくださーい、と身長差のせいか若干上目遣いで言われた。
あんだけ穴に落とされたら委員会の後輩でも憎しみが募るわ!


「せーんぱーい。」

「なにさ。」

「掘ってくれないなら、ぼく先輩に苛められたって言いながら学園内をうろつきます。」

「なんでまた…。」

「悪戯ですからー。」

「持ってないんだから仕方ないでしょ。そもそも喜八郎って甘いもの好きだっけ?」

「だから堀ましょー、って言ってるんです。」

「菓子の代わりがタコ壺なの?」

「違います。雅先輩と二人の時間です。」

「そんなんでいいのか。」

「じゃあもう一つ貰いまーす。」


図々しいな、お前。

やっとのことで喜八郎の満足するタコ壺が出来上がった。
慣れないことをしたもんだから疲れた。明日は筋肉痛だな、と考えながら穴の中に座り込む。
すると喜八郎はなにを思ってか私の上にまたがるようにして降りてきた。


「雅先輩雅先輩。」

「なに。」


ゆっくりと彼の目を見れば、顔をがっちり掴まれ凝視される。
顔が近づいてきたなー、と考えていたら口になにかが触れ息苦しさに襲われた。
しばらくしてやっとこさ離れた彼になにをするんだ!と噛み付くように怒鳴ると飄々と悪びれもなく答えてきた。


「接吻。もう一つはこれでいいです。」


…こ、このマセガキっ!


9/10

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