猪名寺乱太郎[1/1]
久し振りに町に来てみた。 そしたらなんと目の前から歩いてくるのは、いつも手当てしてくれる保健委員の乱太郎じゃないか。
なんて運命。これは声を掛けないと!
「おーい、乱太郎ー。」
「あっ、先輩っ!」
手をあげてここだよアピールをしながら名前を呼んだ。 それに気付いた乱太郎は嬉しそうに駆け出した。
あ、馬鹿。不運のくせにいきなり走ったりしたら…、
「わっ!」
あぁもう、言わんこっちゃない! べちゃっ、と豪快にこけた乱太郎に慌てて駆け寄る。
「ちょっとちょっと大丈夫?」
「は、はい。」
差し出した私の手を掴んでゆっくり起き上がる。
「あーあー、擦りむいちゃってるね。痛くない?平気?」
「大丈夫です、慣れてますから。」
笑顔で慣れてるとか言わないでなんか切ない。 なんか落とし穴に五連続で落ちてもいつものことだ、と笑ってた伊作を思い出した。
「そ、そう。ところで乱太郎、甘味って好き?」
「好きですよ。どうかされたんですか?」
「せっかく外で会えたんだから一緒に食べに行かない?」
「わ、わたしでいいんですか?」
「いつものお礼だよ。」
「ありがとうございます!」
照れ臭そうに頬を緩めて笑うと、よくしんべヱたちと行くという甘味処に連れて行ってくれた。 たどり着いたそこでメニューを見れば、南瓜アイスと南瓜団子というのが目に止まった。
時代錯誤だ?そんなものは知りません。 横を見ると乱太郎も南瓜なんたらが気になっているようだ。
「ねぇ乱太郎、この南瓜アイスと南瓜団子を一つずつ頼んで半分こしない?」
「はいっ!」
私の提案に元気の良い返事が返ってきた。さすが、は組。
店員を呼んで例の二つを注文した。 ついでにどこから南瓜の発想がきたのかも聞いてみた。 店員曰く、異国の行事ではろうぃんとかいうのかららしい。
はろうぃんってなんだ。 あとで誰かに聞いてみよう。
「お待たせいたしました。」
「あ、ありがとうございます。」
思いの外早く持ってきてくれた。 アイスの方はもろ南瓜って感じの橙色で、団子の方は南瓜餡がのっていてなんか美味しそう。
「雅先輩、あーんしてください。」
「……。あ、あー…ん。」
なんという不意討ち。 ていうか団子をあーんはきついだろう。でも笑顔が輝いてるから拒否できない。
「美味しいですか?」
「うん。じゃ、乱太郎にもあーんしたげる。」
アイスを掬って口を開けるように促す。 今日が楽しいと思えるのは"はろうぃん"とかいう行事のおかげなのだろうか。
6/10
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