鉢屋三郎[1/1]



「さっぶろー。」

「…っ!あれ、その面…。」


雷蔵くんに頼んで持ってきてもらった狐の面を被り、思い切り三郎の背中を押した。どのくらい思い切りかというと、どーん!って効果音が似合いそうなくらい。


「えへ。三郎の拝借しちゃった。」

「すみません先輩、全然可愛くないで、いってぇ!」

「女の子にそんなこと言っちゃいけませーん。」


なんてことを言うんだ全く。
先輩は女じゃないとかぼそっと聞こえた。よし、もう一発いくか。


「あんたは鬼だっ!」

「黙れ変態。それより、お菓子くれなきゃ悪戯を全力でさせていただきます。」


まるで石化したように動かない三郎に悪戯をご所望ですかそうですか、と言うとわたしはこんな人を先輩とは認めない、と呟かれた。
失礼だな、本当に。


「…で、結局なんなんですか。」

「いやぁ、私も受け売りなんだけどね、仮装して"お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!"とかなんとか言うとお菓子がもらえるらしいんだよね。」

「あぁ、それで面を。」

「はい。だから菓子くれない?」

「持ってるわけないでしょう。」

「え、なに。悪戯してください雅先輩、だって?」

「ちがっ、」

「三郎って一年のときはぁ、」

「わーー!わーー!」

「煩い三郎。」


隣でキャンキャンと喚く三郎を一瞥して続きを言おうと口を開いたが、三郎のほうがほんの少し言葉を発するのが速かった。


「雅先輩、今から暇はありますか?まぁ、こんなことしてるんですからあるんですよね。」

「ちょ、私の意見聞けよ。あとね、六年生を敬いなさいな。」

「貴女以外は敬ってますが。」

「……。えーとね、このあとだよね?うん。空いてる空いてる、暇。」


なんだかいたたまれない気持ちになって話を反らすと、それに対して冷静に突っ込まれた。


「甘味食べに行きますよ。」

「いやに仕切るね、三郎くんよ。そんなに私とデートが、」

「悪戯より菓子を選んだだけです。黒歴史をばらまかせてたまるか。自惚れんな。」

「お前がな。」


昔は雅先輩、雅先輩、ってついてきて可愛かったのにこんな憎たらしく育って。
最近じゃ敬語も使われないときあるしね。


「じゃ、着替えたら門で。」


さっさと行ってしまった三郎を慌てて呼び止め、面を返すと突っ返された。

わたしだと思って愛でてくださいよ、だって。語尾に"(笑)"がついてたよ絶対。
憎しみながらぶっ壊すね、呪いでもかかるかしら。
そう言ったらやっぱり返してくれ、と言われた。

ぶっちゃけ、そんなことより甘味が楽しみで仕方ない。



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