摂津のきり丸[1/1]
「雅先輩!」
私を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる彼。 今日はハロウィンに漕ぎ着けて好きって言わせてみせる。でも、その前にちょっと悪戯をね…。
「先輩先輩、ねぇ先輩ってば!」
返事をしないでいたら、これでもかというくらい装束を思い切り引っ張られた。 ぐらりとバランスを崩し、よろけるときり丸の拗ねたような顔が目の端にとまった。
「なんで無視するんすか!」
「だってー、悪戯のつもりだったんだもん。」
「い、悪戯って…。」
不思議そうにするきり丸に"ハロウィン"とだけ告げておいた。 図書委員だし、委員長は長次だしなにかしら知ってるだろう。 そう思っていたら案の定、あぁ!と声をあげていた。
良かった。説明の手間が省けたみたい。
「でもそれなら先輩だって。」
「朝にお団子とお饅頭あげたじゃん。」
「しんべヱに食べられたんでノーカンっすよ。」
「いやそんなこと知らないし。」
あぁあ、もう!!しんべヱの馬鹿ーっ! なんで、…なんで食べちゃうの!?なんで乱太郎は止めなかったの!?
てか…、
「彼女からの貰い物は死守しろよ!」
「しんべヱから食い物を奪うのは至難の技なんで。」
「このやろっ…!」
これでおあいこっすよ。 いつも通りに生意気に笑うもんだから、私もいつも通りにいこうと思う。いつも通りに、口車にうまくのせればいい。
「じゃあ、私の"好き"をたくさんあげる!」
「は、ちょ、なに言ってんすか。」
「え、いらないの?」
「欲しいですけど…。」
無意識だったのか言い終わってから時間差で耳まで真っ赤にする。
「うん、あげる。だからきり丸も私になにかちょーだい。」
「……。」
「くれないの?あ、私きり丸の愛とか欲しいなぁ。」
「……。」
うー、あー、と頭を抱えてしゃがみこんだきり丸はなにかと葛藤しているようだ。 あげるとかの言葉とかな。私ちょーだい、って言ったもんね。
「…れ…あ…ます。」
「え、なに?」
「おれの愛あげますっ!!」
「お、おおう。」
「だから!おれの愛をあ、げ、ま、すっ!!」
はぁはぁと肩で息をすると言い切ったぜ感を出しながら座り込んだ。 どんだけあげる、って言いたくなかったんだよ。
「…も、絶対言わねぇ。」
「はいはい。ありがとー、大事にするね?」
小さくうずくまる姿が可愛くて、ついぽろっと笑みが溢れた。
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