富松作兵衛[1/1]
「富松せんぱーい、食満せんぱーい!あ、桜崎先輩もいるー!」
「私はおまけかなにかか一年坊主ども。」
「雅!なんてこと言うんだ!!」
「あ?黙れよショタコンが。」
「あぁっ、食満先輩!?」
食満先輩がそばにあった木に向かって体育座りをし始めてしまった。 雅先輩は食満先輩にあんなことを言って大丈夫なのか? 落ち込んでるみたいだけど実際はすげぇ怒ってたりしねぇかな。 あー、食満先輩まじ怖ぇ。
「とりっくおあとりーとです!」
は?なに、え?
「おーちょっと待ってろよ、お前ら。」
「はぁーい。」
「おっと、こんなところに甘味がたくさん。おやつに食べようと思ったが仕方がない。お前らにもわけてやろう。」
「わーい、やったぁ!」
食満先輩が復活してる。 砂煙あげながら長屋の方に走っていったようだ。
「作兵衛、お前もなにか甘味をやれ。悪戯されるぞ。」
「い、悪戯?」
なんだそれ。おれ、そんなん知らねぇぞ。 そんなことより甘味なんて持ってるわけがねぇ。
「…なんだ作兵衛。お前なにも持ってないのか。」
「はぁ。」
「留三郎があんなにうきうきしていたじゃないか。」
うきうき?確かにいやに笑顔だったり鼻唄をしたりしていたが…。
そうか、あれはうきうきしてたのか。 おれはまたなんか恐ろしいことでも考えてるのかと思った。
「あいつは一年のことになるとキモくなるからな。」
「いや、そうっすかね。」
「うん。なるなる。てことでここは先輩が大切な後輩に助け船をだしてやろう。」
どうだ、乗るか?と悪戯っぽく言うから首を縦に振れば、笑う先輩にやっぱ女だな、と思った。
雅先輩は普段から男っぽいし、口調も男っぽいし、行動も男っぽいし…、つかそのへんの男より男前だ。 なんかいろいろ自信なくす。
「お前らいつまで作兵衛眺めてんだ。言っとくがその甘味は私とこいつからだ。」
えー、っと不満を漏らす一年たちとは対照的に笑う先輩。
二人で食べる予定だったんだ。 そう言うと、ね?と話を振られた。
いや、ね?じゃねぇっすよ。
「だからそれは私たちからだ。あとは留三郎のを貰え。」
「はーいっ。」
「もうすぐ戻ってくるんじゃないか?迎えに行ってやれ、喜ぶぞ。」
甘味が目当てなのか食満先輩が目当てなのか知らないが、一目散に駆け出す一年。 遠くから行ってきまーす、と聞こえてきた。……遅ぇよ。
「作兵衛、とりっくおあとりーとって言ってみろ。」
「とりっく、おあ、とりーと…?」
「よし、ぎこちないがまぁいい。これをやろう。余り物で悪いな。」
「え、ちょ…。」
……あ。差し出された包みの中にはおれの一番好きな甘味。
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