偶然を装ったり[1/1]



「あら、善法寺くん。」

「こんにちは、桜崎さん。」

「また穴に落ちてるのね。」

「はは、参っちゃうよね…。でも桜崎さんが通りかかってくれて良かったよ。誰も通らなくてさ、困ってたんだ。」


嘘。ほんとは留三郎も通った。文次郎も、小平太も、後輩も五、六人は通った。
みんな、手をかしてくれたけどぼくが断った。
だって、ここは君がいつも通る場所だから。こうしてれば、君は声を掛けてくれるから。


「大丈夫?手、かしましょうか?」


桜崎さんは優しいから、いつもそう言うんだ。
初めて会ったときと、全く同じシチュエーションで。


「うん、ありがと。」


だからぼくも初めて会ったときと同じようにかえす。


「偶然って続くものね。」

「そうだね。また、助けてくれる?」

「あら、私と会うのが前提なの?…いいわよ、会えたらね。」

「うん。」


会えるよ。だって、これは偶然じゃないんだから。
ぼくが必然に変えたんだもの。


「じゃ、またね。」

「えぇ、気を付けてね?」


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