繕い笑顔[1/1]
八左ヱ門の笑顔が好き。 おれの大好きな雅先輩がそう言った。 大好きに他意なんてない。先輩として、大好きって意味。
そして先輩は純粋に、笑った顔が好きと言った。
嬉しかった。だから、おれは先輩の前ではいつだって笑ってよう、って決めた。
三郎と喧嘩した日、食堂で雅先輩に会った。そのとき、おれの先輩に対する大好きは、先輩としてじゃなく、女の人としてに変わった。
「雅先輩!」
「八左ヱ門。…うーん、なんかあった?」
「……え?」
「悲しいって顔してる。」
「おれ、笑えてませんか?」
っかしいなー。いつも通りのハズなのに。 …って、そう思った。
「笑えてるよ。けど、私の好きな八左ヱ門の笑顔じゃない。私は楽しいときの八左ヱ門の笑顔が好きなの。」
だからね、と続ける先輩はおもむろにおれの頬に手を伸ばした。
「悲しいときは、笑わなくっていいんだよ。自然に出てくる笑顔は綺麗で、その人の人柄を表す、って私は思ってる。八左ヱ門のは、太陽みたい。」
おれの両頬を軽く引っ張りながら言う先輩の声はすごく優しくて、暖かかった。 その瞬間、おれは先輩に堕ちたんだ。
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