しらんぷり[1/1]
「三郎、相談のってもらっていい?」
「構いませんよ、どうせあの男のことでしょう?」
「あの男とか言わないでよ。仮にも私の好いてる人なんだから。」
「雅先輩に好かれるなんて可哀想な人ですね。」
「その口、縫ってあげましょうか?」
「遠慮します。」
……イライラ、ムカムカ、苦しい、切ない。 この感情はなんだろう。
前に雷蔵たちに相談した。 雷蔵は見守るような生暖かい視線をわたしに送りつつ、微笑んだ。 八左ヱ門はなんだそれ、とあっけらかんと笑っていた。 兵助は取り敢えず豆腐を食えばいいんじゃないか?と豆腐を差し出してきた。 勘右衛門は恋じゃない?とさらっと言った。
恋?生憎、わたしはそんな感情なんて知らないよ。
「ちょっと、三郎。聞いてるの?」
「聞いてますよ。」
あんな男、やめてしまえばいいのに。…なんて思わないさ。
なぜかって?決まってるだろう。 わたしには、そんなことを思う理由がないんだからな。
貴女を慕うのがこんなに辛いなら、あんな感情知りたくなかった。
「雅先輩、振られたら慰めてやりますよ。」
「ちょ、不吉なこと言わないで!」
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