気付いて、…やっぱり気付かないで[1/1]
「あら、体育委員のみなさん。」
「雅!どうだ、一緒に走るか?」
雅先輩が七松先輩に声を掛けたことにより、ようやく足を止めることができた。
「いや、いいよ。」
「そうか。行くぞー、お前ら!いけいけどんどーん!」
「……って、ちょっと待て。」
「ん?」
「ん?じゃねーよ。ほら、君たちに水をやろう。遠慮しないで飲みな。」
雅先輩はお優しい方だ。そして、わたしが秘かに想いを寄せている方でもある。この想いが叶えば、と常日頃から思っている。
彼女は、きっと自分が鍛練の合間に飲む予定だったのであろう水を、へばっている下級生に惜しみ無く飲ませている。
「ありがとうございます。」
「生き返りましたぁ。」
「美味しかったです!」
「雅!わたしも水が欲しい!」
雅先輩は金吾たちのお礼の言葉のあとに発せられた七松先輩の言葉に、ため息をつきつつも余っていた水を差し出す。
「ごめん、滝夜叉丸の分なくなっちゃった。私の飲み掛けしか残ってないけど、良かったら飲んで?」
「え、いいんですか?」
「うん。喉、乾いてるでしょ?」
「……いただきます。」
これは、間接的にだが、接吻をしたことになるのではなかろうか。 反射的に顔が赤くなっていくのがわかる。 まわりに見られでもしたら、わたしの気持ちがバレてしまう。
どうか、誰もわたしの顔の赤さに気付きませんように。
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