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お背中流します!


「うわー!!男風呂ひろーい!!」



男風呂に入った途端、キラキラとした目でそう叫んだのは私、ミア。
別に間違って男風呂に入ったわけではない。そうこれは歴とした罰ゲームなのだ。

今回の罰ゲームは「お背中流します」、だ。しかもサッチの。全然嬉しくない。
でも大浴場に入った途端、そんな気持ちもふっとぶ。初めて入った男風呂は思ったよりも広くて快適だった。女風呂もそこそこだけど、人数が少ないからこんなに大きくはない。



「ちょいちょいミアさん、俺のこと忘れてね?」
「あ。ごめん。完全に忘れてた」



後ろから声をかけて来たサッチは素っ裸プラス腰にタオルを一枚巻いている。ついでに言うと、もし万が一私がサッチの汚いモノを目に入れる事になったら、斬り落としてもらうようビスタに交渉済みだ。俺の剣にも斬るものは選ばせてやりたいが、ミアのためなら仕方ない、とサッチを見たビスタの目が本気だったから、サッチも馬鹿な事はしないだろう。



「貸し切り最高だねー」
「本当に背中流すだけで終わりそうなのはミアの残念な所だけどな」
「ホント妹に何期待してんのよキモチワルイ…」
「だからその目やめなさい」



軽蔑の眼差しを向けるとサッチにデコピンされた。
すりすりとおでこをさすりながら、ふたりでシャワーのある所へ行く。前にサッチを座らせて、私は自分を覆っているバスタオルをもう一度キツく巻き直した。



「サッチ背中流す前に髪洗うでしょ?」
「おー」
「じゃーついでだし洗ったげる。」
「ラッキ」



シャワーを出してサッチの髪を濡らしてゆく。



「フランスパンがふやけていく」
「食ってみ」
「断る」



いひひと笑ってとけていくフランスパンを眺める。実に面白い。
しっかりと髪を濡らして、シャンプーを手に取り泡立てる。爪を立てないように気をつけながらサッチの頭に手を這わせた。



「気持ちいいですかー?」
「おお。人に髪洗ってもらうとか何年ぶりだろ」
「50年ぶりくらいじゃない?」
「ちょっと待ってミアちゃん俺を何歳だと思ってるわけ?」
「いひひじょーだんだって」



気持ち良さそうに目を瞑るサッチに洗ってあげてるこっちも気分が良くなる。



「サッチが完全に髪下ろしたとこ見るなんて何年ぶりだろ」
「30年ぶりくらいじゃね?」
「ちょっとサッチこそ私の事いくつと思ってんのよ」
「さっきの仕返しー」



サッチはにひ、と笑って私の見上げる。罰ゲームにあるまじき和んだ雰囲気に、男風呂のど真ん中に一人女子というのに気が緩んでしまう。まあ男風呂と言っても罰ゲーム用に貸し切り状態だけど。あ、だからより危険なのか。サッチだし。



「お前今失礼な事考えてただろ」
「うん」
「正直だな」
「正直な妹の方が可愛気があるでしょ」
「言うじゃねぇの」
「はい泡流しまーす」



サッチの意地悪な声が聞こえたので有無を言わさず会話を切る。
シャワーで髪の泡をすべて流して、次は罰ゲームの背中流し。私が付けていたクリップを1つかしてあげて、サッチの髪をまとめてあげた。ぶふふ、なんか女の子みたいで笑える。



「石鹸とって」
「ほい」
「ん、ありがと」



ボディタオルに石けんを付けてごしごしと泡立てていく。もっこもこに泡立ててから、サッチの背中に触れようとしたら、くるりとサッチが後ろを振り向いてばちりと目が合った。



「…、なに?」
「一言忘れてますよ、オジョーサン?」
「……お背中流します」
「だからその目やめろって」



ぶはっと笑ったサッチはまた前を向いた。
ボディタオルを握り直し、サッチの背中に触れる。
サッチの背中は綺麗。傷なんてない。それはきっと他のみんなも同じだろうけど。
私のとは比べ物にならない大きな背中に、ほんのちょっとだけどきどきする。そしてほんのちょっとだけ、サッチに「いつもお疲れ様」って言いたくなった。
男らしいがっちりとした背中をじっと眺めながらゆっくりと手を動かしボディタオルを滑らせていく。

以前女子会をした時に、ナースの子がサッチの事好きって言っていたのを思い出して、何となく納得してしまった。サッチの事、クソ兄貴としか思ってなかったけど、なんか分かんないけど、おっきな背中見てるだけなのに、男の人に見えてしまう。



「罪な男め」
「え、惚れた?」
「惚れるか!自意識過剰!」
「急に言うからなんかと思った」



彼女達は隊長達が私の事を妹としてしか見ていないのを知っているから、どんな罰ゲームをしても笑ってくれる。それに私も隊長達の事を兄としてしか見ていない事は明白だ。…明白だ。大事だから2度言ってみた。なんとなく。

ごしごしと強めに背中を擦る。サッチはサッチで前を洗う。効率いいな。



「どうせなら親父の背中流してあげたかった」
「喜ぶんじゃねぇ?」
「ホントにそう思う!?」
「おう」
「うひひひ、じゃあ今度頼んでみよう」



もし親父のおっきな背中を流せたら、ベイちゃんに自慢しよう。
背中の次はサッチの腕を取りそこも綺麗にしてあげる。



「ミアさー」
「ん?」
「思ったより胸あんだな」
「……イエローカード」
「レッドになったらどうなるわけ?」
「ビスタに報告」
「そりゃ勘弁だな」



降参、と反対の手を挙げてサッチは笑う。
全く、バスタオルまで巻いてるってのにサッチの頭はいつもお花畑だ。

話しているうちにすっかり洗い終わってしまって、泡だらけのサッチにお湯をかける。



「はい、罰ゲーム完了ー!」
「意外と簡単だったな」
「ねー。今度は皆でお風呂入ってもいいかもね」
「やめとけ。死ぬヤツが若干1名いる。」
「誰」
「可哀想だから黙秘権を行使する。」
「そこまで言っといて!?」
「デザートにティラミスやるから忘れろ」
「忘れた!!」



やった!ティラミス!!
嬉しくってつい飛び跳ねたら、まだ残っていた泡の上に乗ってしまって、あっけなくもつるりと滑る。うぎゃ、と女の子らしくない悲鳴を上げて、大浴場の床とご対面。かと思ったら、サッチが素早く立ち上がって私の腕を掴む。
寸での所で体を打ち付ける事はしなかったものの、私を覆ってたバスタオルが弾みでぱらりと落ちる。



「…サッチありがと」
「…………用意周到だな」



私の腕を掴んだままサッチは微妙な顔をした。
万が一のときのため、下には水着を着ていたのだ。ホントに着てて良かった。ビスタの助言に感謝だ。

ほっと一息はいて、サッチの手を取り体勢を立て直す。



「あっ、」
「あ。」



と、今度はサッチのタオルがはらりと落ちる。
何この時間差。
マジで勘弁してほしい。
何か視界に入って来た。



「いっ、いやぁぁぁああぁああぁああぁぁぁぁ!!!!!」
「ぐほぉっ…!!」



頭の中が真っ白になってパニックになって、サッチを殴り飛ばして大浴場を後にする。



どどどどどどうしようなんかみたなんかあった!
頭がぐるぐるする。どうしよう。助けて誰か!!










(うお!ミアどうしんだ、水着姿で走り回って)
(ナ、ナミュール…!!う、うえぇぇぇぇーん!!!(だきっ))
((ええぇ!?)ど、どうした?)
(わ、わたしもうお嫁に行けないー!!)
(((おいおいどうした?)))((ぞろぞろ))
(なんかミアが嫁に行けないって泣いてるんだが…(おろおろ))
(そういやこいつサッチと風呂で罰ゲームだったよな)
(はぁ!?サッチと風呂!?)
(ミア、何があった!?)
(ぐすっ…み、みんなも、あ、あんな……!!うえーーん!!)
(((えええ!?ミア!??)))
(もうやだ、おとこのひとこわいーーー!!(二度とみたくない!!))
(((サッチのヤローなにしやがったー!!)))
(みんなビスタに斬り落とされちゃえーうわぁぁぁん!!)
(((ゾクッッ…!!)))





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