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言葉遣い




自室のベッドに寝転がり深いため息を吐く。


全く以て、着付けが出来ない。
浴衣はなんとか着れたのに、着物だと何で着るものが増えるんだろう。
あっちとめて、こっち押さえて、ぐるぐるぐるぐる
私の頭もぐるぐるぐるぐる


はぁぁぁ、二度目の溜息が出るけど、イゾウさんのためにもうちょっと頑張ってみよう。


しゅんとしつつも、同じくアホウドリ通販で買った「古き良き女性達」という本を見る。
受け取ったその日のうちに読破してしまった。私のバイブルである。

そこには色々な女性像が書かれていて、とても勉強になった。
でもいきなり全部は無理なので、とりあえずはひとつずつクリアしていく事にする。



この本には古き良きが何か書かれている。
たくさんする事はあるけど、私がまず第一に気をつけなければならないのは「言葉遣い」だと思った。
今まで気にした事なんてなかったけど、思ったままに口に出す私にはこれをマスターする事が第一だと思ったのだ。

本によると、「女性は言葉遣いだけでも、ぐんと印象が変わり、女らしさが増す」というのだ。
ポイントは落ち着いてゆっくりと喋ること。語尾は伸ばさない事。そして微笑む、だ。
加えて、決して怒らない。いや、怒ってもいいらしいけど、叫んだり、声を荒立てるのはNGみたい。
そして、一番大事なのは感謝の気持ちを忘れない事。それを言葉に出す事。
感謝の気持ちを言葉にするのはすぐに出来ると思うけど、他の2つが結構ハードルが高そう。


けど、イゾウさんのため!頑張るのだ!


とりあえずは襤褸を出さないために敬語が無難だと思い、これからは誰に対しても敬語で通す事にした。



基本何事にも形から入る私だけど、今日は残念ながら着物が着れなかったので、あまり着ないふんわりとしたワンピースに袖を通す。
いつもはショートパンツとかだから、ちょっとすーすーするけど、我慢だ。
鏡を見て気合いを入れて。


よし!今日から頑張るぞ!!




「みなさん、おはようございます!」



食堂に入って元気よく挨拶をする。
いつもならすぐに挨拶を返してくれるクルーだけど、今日はこっちを見て固まったまま。
食堂は一瞬の静寂に包まれる。



あらら?びっくりしてるびっくりしてる。
これだけで女度アップなの?すごいな、古き良き!



「お、おう」
「おはよう」



はっと我に返ったクルーがしどろもどろに私に挨拶して来たのをきっかけに、またがやがやと食堂が騒がしくなる。
私はクルー達の驚いた顔に上機嫌になって、朝食を取りにサッチの所まで移動した。



「おはようございますサッチ」
「え、ああ、はよ…」



不信感丸出しの顔にパンチを決め込みたくなるけど、がまんがまん!
古き良きは怒らないが鉄則。
むかつくサッチにも、笑顔で話しかける。



「今日の朝食はなんですか?あ、ハムエッグ!私これ大好きなんです」
「そ、そうか、…。ミアお前、熱でもあんのか…?」
「はぁ?熱?…あ。熱なんてありませんよ、うふふ」
「???」



やばいやばい。声を荒げてしまうところだった。
怪訝な顔をしているサッチから適当に朝食を受け取り、トレーを持つ。
あ、感謝の気持ちも忘れずに。



「では私はこれで。いつも美味しい食事を、ありがとうございます」
「……!!ちょ、イゾォォォォォォォォ!????」



何でそこでイゾウさんを呼ぶのよ。ホント失礼なやつ!
急に寒くなったのか腕を高速で擦るサッチ。よく見れば首の辺りに鳥肌が見える。
そんな反応しなくてもいいのに。あーサッチ蹴り倒したい。けど、がまんがまん、。

そのままサッチを放置して席につき、食事を始める。
サッチはうざきもいけど、サッチのハムエッグは絶品だ。



「ミアちゃん隣いい?」
「ハルタさん。おはようございます。」
「おはよー」



返事する前に座ってんじゃん。
そこはイゾウさんの席だっつーの。まだ食堂には来てないけど。



「あのさ、今日どうしちゃったの?頭でも打った?」



このくそちび王子め。



「うふふ、違いますよ」
「…ホント、きもいからやめてくんない?」
「え、ハルタさんそれは酷くないですか?」
「だってホントだもん。」
「そんなぁー…」



あ、語尾伸ばしちゃった。
古き良きの言葉遣いって、人と話してるとつい忘れてしまって、意外と難しい。これは、1日2日じゃマスターできなそうだなぁ…



「あ、わかった。もしかして、この間話してたヤツ実行してるの?」
「わかりました?だって皆私に女らしさがないって言うんだもん。あ、だめだ、また素がでちゃった」
「へぇー。僕は無理だと思うけどなぁ。ミアちゃんに女らしさ。」
「人が頑張ってるのに、なんでそんな事言うんですか…」
「まぁ面白そうだからいいけど」
「えへへ、応援しててくださいね。私絶対イゾウさんにもっと好きになってもらいます」



ぐっと力強く拳を握って、ハルタさんに意気込む。
あ、拳を握るのは古き良きではNGなのかな?とふと考えて、その拳を解いてフォークを握り小さく切ったハムエッグを口に放り投げた。



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