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one rainy night



何がどうなって、こういう状況になったのか。
ばくんばくんとなる心臓に、頭が真っ白になる。





到着した島で、イゾウ隊長に買い物に付き合えと言われて、断る理由もなかったので隊長についていった。
そしたら朝は晴れていたのに、急にバケツをひっくり返したような雨。
ずぶ濡れになりながら近くの店に駆け込み雨宿りをするも、雨はなかなか止んではくれない。どちらかというと酷くなる一方だった。
しばらく待ってみたけど、一向に止みそうにない雨に痺れを切らした隊長は近くで宿を取る事にした。私にも意見を聞いて来たけど、決定権なんてあるはずもないから、もちろん私はイゾウ隊長の案に肯定しか出来ない。船に帰れたらそれが一番だったけど、残念ながらここからだと結構な距離があったのだ。






そして今、私はイゾウ隊長と一緒の部屋にいる。
本当は別々の部屋を取ってくれる予定だったんだけど、この天気で急に混んでしまい、一室しか部屋が取れなかったのだ。


ぽたぽたと髪や服から水滴を垂らしながらイゾウ隊長は部屋の鍵をテーブルの上に置く。
私は部屋に入ってから、どうしていいかわからずドアの前で突っ立ったまま。ふたりともずぶ濡れで、床に小さな水たまりが出来ていく。



「ミア、先に風呂入って来な」



少し崩れた髪を撫で上げてイゾウ隊長は振り向きながら私にそう言う。でもそんな事私が出来るはずない。
ブンブンと手と首を同時に左右に振って断る。



「いえ、隊長が先に入ってください!風邪でもひいたら大変です」
「そりゃあお前さんも一緒だろうが」
「それに隊長より先にお風呂を頂くなんて出来ません」
「じゃあ隊長命令だ」
「でも、」
「下着透けてるぞ」



にやっと笑った隊長とその言葉にぎょっとして、自分の服を見る。



「……!!っ、さ、先にお風呂頂きますごめんなさい!」



顔から火が出るかと思うくらい熱くなって、どたばたとバスルームに駆け込む。ドアをバタンと背中越しに閉めて、そのままずるずると床へと座り込んだ。


恥ずかしい。最悪だ。


わああ、と顔を覆ってじたばたとしたけど、見られてしまったものはどうしようもない。
早くお風呂に入ってしまわないと、隊長を待たせているのだ。
バチンと両頬を叩き気合いを入れ、未だ熱い顔はそのままに、服を脱ぎ、シャワーを浴びた。

雨で冷えきった身体がじんわりと温まっていく。
素早く髪や身体を洗い、身体が温まった所で浴室を出た。濡れてしまった服は着れないのでしっかりと絞って水気を取る。そして備え付けのバスローブに袖を通す。

きゅ、とバスローブの前を結ぶと同時にもう一度気合いを入れ、濡れた服を持って、バスルームを出る。
部屋に入るとイゾウ隊長は丁度でんでん虫の受話器を置く所だった。きっと船に連絡を入れていたのだろう。



「あの、お風呂、ありがとうございました」
「ああ、早かったなァ」
「お湯溜めておいたので、イゾウ隊長はゆっくり入って来てください」
「悪いな」
「いえ」



そう言いながらイゾウ隊長の方へと歩み寄ったが、バスルームへと移動するため椅子から立ち上がった隊長の姿にびっくりして、また足を止める。どうしてよいかわからずに俯いてしまった。
きっと服も全部濡れてしまって気持ち悪かったんだと思う。だから、着物の袖部分だけ脱いで腰に巻き付けるのも、十分頷ける。けど、上半身裸は、私にはすこし刺激が強すぎた。エース隊長とかで見慣れていると言えばそうだけど、でもそれでも慣れていないものは慣れていないのだ。

ばくばくと心臓が鳴って、また動けなくなる。
俯いた視線の中で、無意味に床の木目を数えている。
隊長が私の横を通り過ぎて、バスルームのドアが閉まって、やっと力の抜けた私はすとんとその場に座った。



「わたし、今日、だいじょうぶかな、」



ぽつりと呟いた言葉は窓に打ち付ける雨音に消える。
ふう、と溜息を吐いて私は濡れた服を部屋の隅に干し始めた。




部屋の中で無意味にそわそわとしてしまう。
隊長がお風呂でゆっくり温まってくれているのならいい。というかむしろお風呂から出てこないでほしい。
イゾウ隊長は嫌いじゃないし、むしろ尊敬してる。でも私にとって男の人と部屋でふたりきりになるのは、これが初めてなのだ。船ではどんな状況でも基本的にはふたり以上でいたし、ふたりだったとしても外だった。だから、この状況は無駄に緊張してしまう。
特に、部屋にひとつしかないベッドを見てしまうと、どうしていいかわからなくなる。いや、別に私は床で寝ればいいだけの話なんだけど。隊長だし、間違いなんてあるはずないし。むしろ私にそんな魅力がないのはわかってるし。


落ち着きなくそわそわと部屋の中を行ったり来たりして、とりあえず部屋に備え付けのポットでお湯を沸かしてみた。お茶はないけど、紅茶ならあったのだ。
シュンシュンとお湯が沸いて来た所で、後ろのバスルームが開く音にびくりとする。
振り向いたら、イゾウ隊長は私と同じバスローブを着ていて、なんだかカップルみたいで申し訳なくなる。
いつもは綺麗に結い上がっている髪が下ろされて肩の横で緩く結ばれている。けどそこからは水が滴っていて、肩にかけられているタオルは意味をあまりなしていない。



「あ、の、紅茶しか、ないんですけど、飲みますか?」
「…頼む」



あまりにもいつもと違う見た目と雰囲気に、別の誰かといるみたいな感覚に陥って声が上擦ってしまった。
さして気にもしていないように返事をした隊長に少しだけほっとして、隊長に駆け寄る。



「服、干しておきます」
「ああ」



雑用の私はいつも隊長や隊員の服を洗っているので、慣れた手つきでそれを受け取る。
ぱたぱたと部屋の隅まで行くと、私の服の隣に幾分か大きい隊長のそれを干す。
そして先程沸かしておいたお湯の所に戻り、紅茶を準備して、先にテーブルについていた隊長に持っていく。



「どうぞ」
「ありがとな」



隊長に面と向かってお礼を言われるなんて初めてで、少し舞い上がってしまった。こんな紅茶ひとつで、隊長にお礼を言われるなんて!
にこにこと顔が緩んでしまうのは仕方がないと思う。
服も干してお茶も入れて、する事がなくなってしまった私は、まさか隊長と同じテーブルにつくわけにもいかず、またそわそわと隊長の隣に立ち尽くす。



「座んねェのかい」
「え、いえ!大丈夫です」
「そんなとこに突っ立ってられると、こっちが居心地悪ィぜ」
「あっ!そうですよね、!えと、じゃあ、隊長の髪拭かせていただいてもいいですか」
「………好きにしな」
「………、」



しまった、。
確かに髪から落ちる雫が、気にはなっていた。けど、言うつもりなんてなかった。
ほんのりと頬が熱くなったけど、言ってしまった事は取り消せない。
静かに紅茶をすする隊長の後ろに回り、肩にかけてあったタオルに手を伸ばす。



「……失礼します、」
「ああ」



隊長はあまりよく喋る人ではないけど、この雰囲気は少々堪え難い。
何か喋らなければ私が保たなくなってしまう。

ゆっくりと隊長の邪魔にならないように、横に流れていた髪を取り、髪をまとめていた紐を取る。



「あの、急にこんなこと言ってしまってすみません。水、ぽたぽた落ちてたのが気になってしまって…」
「別に、気にしちゃいねェよ」



タオルで髪を包むと、しっとりと濡れていくのがわかる。水分を吸収したタオルは私の手を少しだけ湿らせていく。
引っ張らないように、気をつけないと、。



「ミア」
「は、はい!」
「少し落ち着け」
「…っ、」



急に名前を呼ばれて何かと思ったら、落ち着けと言われた。
相変わらず隊長は前を向いたまま。



「す、すみません…」
「別に取って食やしねぇよ」
「え?…あはは、やだ隊長、そんなことあるわけないじゃないですか」
「……」



隊長ともあろう人が、私にそんな気起こすわけない。
一瞬目を丸くしてしまったけどイゾウ隊長のその一言に私の緊張も少しだけ解けて、「隊長でも冗談言うんですね」と笑って答えた。
さっきよりも気が楽になって、水気を取っていく手の動きも軽くなる。



「お前さんが居辛ぇなら、俺が出て行こうと思っていたが、そりゃあ必要なさそうだな」
「隊長が出て行くなんて!逆に私が出て行きますよ。」
「だからその必要はなくなったな、って言ったんだ」
「はい、私なら大丈夫です。…緊張しているのは本当ですけど、平気です。」



ぽつりとそう言うと、隊長は首を動かして私をちらりと見た。



「あ、実は私、外で男の人とふたりきりになるの、初めてなんです」
「……へぇ」
「でもそれが隊長でよかったです。安心出来ますから」
「安心ねぇ。そりゃあ、朝まで無事でいてから言いな」
「え?」



髪の隙間から、口元を上げた隊長が見えて、少しだけ焦る。
また、冗談ばっかり、。



「とぼけてんじゃねェよ。一緒に、寝るんだろ?」



挑戦的な目で私を見上げた隊長は、くいと親指でベッドを差した。
それを見て、やっと引いたと思った頬の熱がまた集まる。



「な、に、言ってるんですか隊長。私、床で寝ますよ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺はともかくミアはベッドだ」
「隊長がベッドです」
「じゃあ一緒だな」
「う、…」



ククと笑う隊長に、苦虫を噛潰す私。

キングサイズの大きなベッドだし、端っこで寝れば、大丈夫、かな。
隊長はこういうけど、嫌がる女を抱くような人ではない。というか私にそんな魅力は皆無だ。それに、私は隊長を100%信じている。



「……じゃあ、端っこだけ、お借りします、」



そう言った私に、隊長はまた喉を鳴らして笑った。










(隊長、じゃあ、ベッドの3分の1だけお借りしますね)
(もっとこっちくりゃあいいだろ(ニヤニヤ))
(大丈夫です!おやすみ、なさい!(行けるわけないじゃないですか!))
((面白ぇやつ))
((ね、眠れない…!!))




(すーすー)
((…おやすみ3分かよ))
(…んん、……さ、む(もぞもぞ))
(………)
((ぴと)……すーすー)
(…………チッ。(無防備すぎるだろ、))




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