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甲板掃除1ヶ月を懸けた密室5時間勝負!


こそこそと2番隊の隊員と甲板の端で作戦会議。


「エース隊長なんで負けんすか」
「仕方ねぇだろ。負けちまったんだから」
「俺達甲板掃除1ヶ月なんて絶対嫌ですからね」
「だから作戦会議してんだろ。いいか、てめぇら、俺がミアを連れ出したら絶対他の奴らを倉庫に近づけんじゃねぇぞ」
「もちろんス」
「5時間耐えればいいんだからな」
「エース隊長絶対誰にも見つからないでくださいよ」
「任せとけ!」


じゃ、とお互いの健闘を祈ってそれぞれ散っていく。
俺はビスタの部屋まで誰にも見つからないように移動だ。


ゲームで負けてしまった俺は今回の罰ゲーム実行者。被害者は前回の罰ゲーム後マルコから逃げまくっているミア。
罰の内容は、ミアを連れて5時間姿をくらます事。別に誰が探しにくるわけでもねーけど、この船に乗ってる誰かが俺達の姿を見た時点でアウトというなんとも難しい罰だ。全く、何人この船に乗ってると思ってやがる。
まーこれだけなら別に見つかろうがどうなろうが痛くも痒くもないんだが、今回は罰ゲーム失敗の罰がついてくるから話が別なのだ。つまり、これに失敗したら2番隊が甲板掃除を1ヶ月もしなけりゃならねぇ。もちろん隊員は大反対。で、さっきの会話に戻るってわけだ。




ビスタの部屋をノックして、ドアを開ける。
マルコから逃げるためミアがここにいつも以上に入り浸っているのは既に確認済みだ。



「ビスタ、わり、ミアかしてくんね?」
「エースか。ミア呼ばれてるぞ。」



もぞもぞとベッドの上の塊が動く。
ぴょこりと布団の隙間から顔を出したミアは巣穴から出て来た子うさぎみてぇだ。



「大変残念ではございますが現在ミアの貸出は行っておりません」
「そう言うなって。付き合えよ」
「ここから出ると、バナナ頭の青い鳥に殺されてしまうので、どうぞそっとしておいてください」
「マルコの奴、ミアがここにいるって知ってるぞ」
「はっ!?」
「今日当たり来るんじゃねぇ?」



本気でマルコが把握してないと思ってたのか。
まだまだ甘いな、と思いつつもこいつを誘い出すために言葉を並べる。
罰ゲーム開始時間まであと15分だ。それまでにミアを連れ出して誰にも見付からねぇように隠れなきゃならねぇ。



「俺今罰ゲーム中なんだけどよ。それがお前と一緒に誰にも見付からねぇように隠れることなんだ」
「誰にも見つからないように?」
「おう。だから、俺と来た方が特だと思うんだが」
「う……。絶対見つかんない?」
「ミアが騒がなきゃな」
「うー……、じゃあ行く!」



連れ出し成功。
素早く布団から出て俺に駆け寄る。



「ビスタ!ちょっと逃げてきます!」
「ああ、楽しんでこい」
「マルコが来たらもうここにはいないって言っててね」
「わかった」
「じゃあまたねー!」



きょろきょろと部屋の外を確認して一緒に出る。
ここで誰かに見つかっては後々面倒なので、こそこそと俺の後ろからついてくるミアを肩に抱き上げ、驚くミアに一言、「しっかり捕まってろ」と告げて走り出した。一瞬叫んだミアに「見つかるだろ」と言えば、必死に口を塞いで声が漏れないようにする。それを横目に、人がいない所を選んで走ったり飛んだりしながら目的の場所へと向かった。途中隊員の奴らに目配せをするのを忘れない。万事順調のようだ。



「っし、セーフ」



開始時間数分前、予定していた倉庫まで到着。周りをもう一度見渡し誰もいない事を確認して、ミアをその中へ押し込み自分も一緒に入る。



「せっま…!どこここ?」
「火薬庫の隣の倉庫」
「そんなとこに倉庫なんてあったっけ?」
「俺も知らなかった。から、ぜってー見つかんねぇって」
「…にしてもせまい」
「……文句言うならマルコに見つかるか?」



ミアが文句言うのもわかる。
最初にここを見つけた時は十分な広さだと思っていたが、俺が片手を伸ばせば簡単に反対の壁に触れる事が出来る程のこの空間は、倉庫というより掃除用具入れだ。2人入ると流石にせまく感じる。
2人入るってことを考えて無かったのは俺の落ち度だが、今更場所を変えるなんて出来ねぇ。既に罰ゲームは始まっている。



「てか今何時?」
「4時過ぎ」
「いつまで隠れてればいいの?」
「5時間」
「は!?ってことは9時までエースとここにいるの!?」
「すぐだって」



知ってたら来なかったのにと不満そうに見上げてくるが適当にそれをなだめる。
1ヶ月の甲板掃除がかかってんだ。絶対に見つかってなんてやるか。

倉庫の上の方にある丸窓から太陽の光が入る。
お互い両端の壁に背中をつけるように立つけど、意外と距離は近い。


とりあえず時間つぶしのため、俺とミアはくだらない話をするけど、そんなのは1時間も持たない。
先に音を上げたのはミア。



「エース。私選択を誤ったかも。超暇。」
「…俺もだ。見つけられたくはねぇけど、見つかる気配が全く無いのもなんか微妙だな」
「出る?」
「出ねぇ」
「だよねー」



いひひと笑うミアは足の重心を右足に変えて、右側の壁にもたれた。
と、ぐーと鳴る腹の音。そういや昼から何も食ってねぇ。



「私もおなかすいたー」
「なんか食ってくればよかったなー」
「エースなんか持ってないの?」
「なんもねぇ」



ぺろんとスボンのポケットを出して見せる。



「残念。」
「終わったらサッチに何か作ってもらおうぜ」
「いいねそれ!…あ、!」



何かに気付いたのかごそごそとポケットを探るミア。
すると、布に包まれた何かを出す。



「私最高!クッキー持ってた!」
「おお!」
「ビスタとお茶した時に、もしもの時のために取っておいたの」
「もしも?」
「マルコに見つかって逃げた時の非常食」
「なるほど」



はい、と言いながら掌の上に広げたクッキーをひとつ取って俺にくれる。一口で食ってしまったそれは、控えめな甘さでもっと欲しくなってしまう。



「エース食べんのはやっ!」
「腹減ってるから仕方ねぇだろ」
「もー。仕方ないな。もう一個だけあげるよ」
「サンキュ。て、お前あと一個しかねぇじゃん」
「私はいいの。エースお腹減ってるんでしょ。食べていいよ」



んだよ、こういう時だけ優しいのとか、やめろ。
俺が一口で食べたそれを、小さく噛み食べ始めたミアに、受け取ったクッキーを半分に割って渡す。



「ん。半分やる」
「……エースが食べ物を分けるなんて…」
「お前失礼だな」



まるで予想外、と目を丸くしたミアを小突いて不機嫌を現す。
ごめんと笑って俺の手から半分を受け取るミア。俺はもう半分をぽいと口に放り込む。


ミアがクッキーを食べ終わった頃、暇になったのかまたミア話しかけて来た。



「ねぇエースなんか話して。暇」
「なんか、ねぇ」
「なんでもいいよ」
「じゃ、俺の弟の話してやるよ!」
「耳タコ」
「…何でもいいって言ったじゃねぇかよ」



だらだらとくだらない話やどうでもいい話をする。
ミアと話してるとそんな話だって面白くなっちまうから不思議だ。
時折、外に人の気配がして、人差し指を口の前に立てて2人で目を合わせるのも、わかんねぇけどなんかくすぐったく感じる。



「なんか暗くなってきたね、」



外からの光もほとんど入らなくなり、目の前のミアの顔も薄暗くてわかり辛い。



「今何時くらいだろう」
「多分2時間は経ってんだろ。」
「あと3時間かぁ」
「…暗いの苦手か?」
「ちょっとね。」



はにかむように言ったミアに少しドキッとした。
それをかき消すように、ほら、と右手の人差し指に小さく炎を灯す。
一気に明るさが戻り、オレンジ色に照らされたミアの顔は嬉しそうな笑顔。が、すぐに慌てた顔になって俺の指を両手で包む。
焦って炎を消したら、また暗闇に戻ってしまった。さっきの明るさから、よりいっそう暗がりに落ちたみたいな感覚になる。



「おま、危ねぇだろ!火傷したらどうすんだ」
「エースこそ!ここ、火薬庫の隣!」
「あ。」
「…ばか。爆発したらあんたは大丈夫でも私は確実に死ぬんだからね」
「あほか、」



死なせねぇよ、俺が守ってやるから。

口をついて出そうになった言葉に、自分自身が驚いて戸惑う。なに考えてんだ俺。妹なんだ。守ってやるのは当然だ。でも、するりと外に出せなかった言葉は、なんだか妹を守るそれとは違う意味を含んでいる気がして。

気をつけてよね、と言って離れていったミアの手を、うっかり追ってしまいそうになった。

なんだこれ。なんか、異常に緊張する。



右の壁に寄りかかったり、左の壁に寄りかかったりを繰り返すミアなんてさっきまで気にならなかったのに、急に気になりだしてしまった。



「…そわそわすんな」
「え、ごめん。そわそわしてるわけじゃないんだけど…」
「じゃあなんだよ?」
「んー、ちょっと疲れた」
「…?ああ、立ってるからか」



俺は全然気にならなかったけど、流石に2時間以上も立ちっぱなしはミアには疲れるだろう。



「わり、気付かなかった。座るか?」
「そんなスペースないじゃん。私座ったらエースキツいと思う。」



確かに、誰かが座ってしまったら片方は直立してなきゃなんねぇだろうな。俺はそれでも構わねぇけど、ミアの性格的にこういう状況で自分だけ座るのは好きじゃないだろう。

大丈夫、と言ったミアに申し訳ない気持ちが込上げてくる。今出てったら、2番隊の奴らは怒るだろうな。



「別に俺は立ったままでも問題ねぇけど、ミアが座んねぇならもう出るか」
「何それ。罰ゲームは?」
「疲れさせてまでやる事じゃねぇし」
「えーやだよ。負けを認めたら海賊じゃありません!」
「はは、なんだそれ」



完全に暗闇になった中で、お互いの声だけが存在する。
ミアが疲れているなら、罰の罰になったって大きな問題ではない。隊の奴らには俺が頭下げれば済むしな。

さて、どうやって説得しようか、と考えていたら急にミアの焦った声が聞こえる。



「ちょ、エース?」
「?…どうした?」
「よかった、。…急に黙らないでよね」
「え、わり。」



なんだ?
いつもはこんな沈黙気にしないヤツなのに。
まさか、



「お前、怖いのか?」
「こ、こわく、ないし」
「…そういや暗いの苦手って言ってたな」
「……ちょっとだけね」
「やっぱ出るぞ」
「やだ出ない」
「別に罰受けんのミアじゃねぇんだから」
「でも負けってヤじゃん」
「否定はしねぇが」
「手ちょーだい」
「は?手?」



ミアは「うん」と返事して俺の方に身を乗り出す。ミアが動くのと同時に空気が動くのを感じて、その瞬間、俺の胸にミアの手が当たる。
ミアの動きくらい見えなくても読めるから、別に驚くことはねぇんだが、それとは別に心臓がぎゅってなった。わけわかんねぇ。



「なん、だよ。急に」
「手、どこ?」



ぺたぺたと俺に触ってくるミアに「ここだよ、」と乱暴にその手を取る。
バレてねぇだろうな、俺の心臓の音、。



「あ。よかった」



ふわりと空気が笑った。



「で、手がなんだよ」
「ん?こうしてたら怖くないかなって思って。」



ぎゅっと小さな手で握られた俺の手は急に熱を帯びて、意識しないと本当に火になってしまいそうだ。
いつも馬鹿ばっかやって一緒に笑い転げているが、こんなに、壊れてしまいそうだっただろうか。思った以上に小さくて柔らかいミアの手に戸惑う。


数時間前と同じ空間のはずなのに、数時間前と同じ状況のはずなのに。
なんで俺の心臓はこんなにばくばく言ってんだ。
可笑しいだろ。妹だぞ。


途切れる事なく、怖さを振り払うように尚も俺に話しかけるミアとは対照的に俺の口数は減っていく。


もう3時間はたっただろうか。
しばらくして、俺の心臓も落ち着いた頃、ミアが繋がっている方の俺の手を引っ張った。



「どうした?」
「ごめんエース。やっぱ疲れた」
「やっぱりな。早く言やあいいのによ」



意地っ張りめ。
なかなかこの2人きりの空間にも参っていた所だったので、すんなりと了承し、倉庫の扉へと手を伸ばす。



「あ、ちょっと待って。出たいんじゃないの」
「出るんじゃないのか?」
「だってあと1時間ちょっとでしょ?見つかってもいないのに出て行くなんてもったいないよ」
「でもミア疲れたって…」
「うん。だからいい事思いついたの」



にひひと笑ったミアは、俺を床に座るように促す。
とりあえず、言われた通りにすると、今度は俺の膝の上にミアが座る。



「じゃじゃーん!私ってあったま良い!」



ちょっと待て。
じゃじゃーんじゃねぇだろ。



「お前頭悪いだろ」
「え!ダメだった!?」
「いやダメとかそういうんじゃねーけど、よ」
「あ!重かったとか?」
「違ぇ」
「じゃあ何??」
「………いや、いい。」



五千歩譲って、ミアの疲れが解決したとしよう。
が、俺だって男だ。
妹だと言い聞かせても、ちらりと脳裏に浮かんでしまったのはこの間忍び込んだミアの部屋で見つけたピンクのブラ。
頼むから、邪念よ、消えろ。



「わー、エースってホント温かいね」
「…火だからな、」



ギューと背中に回される手。
地肌にすりよせられる頬。
胸にかかる吐息。
服越しに感じる柔らかい女のそれ。
そして暗闇。



「あーあーあーあーあー!」
「エースこわ!急に何?」
「…なんでもねぇ」



なんか、別の事考えねぇと、。
なんか、なんか。
ぐるぐると考えて、マルコが罰ゲームでズボン下ろされた時の事思い出したらなんか少し萎えた。よかった。



「……ん、あったか、」



甘ったるい声を出したミアに性懲りもなく心臓が鳴り、速攻で1マルコ2マルコと心の中で数える。
けど、なんか気付くとミアが異様に静かになっていて。



「??」
「…すぅすぅ…」
「………まじか。」



勘弁してくれ。
寝るな。
無防備だ。
男は狼なんだぞ。
いやちょっと待て俺。
妹だぞ。妹。
ないないない。絶対ない、
……



「………」



少しだけ、もたれかかる身体を抱きしめてしまったのは、ミアがずり落ちてしまわないよう支えるため、だ。











(エース隊長ー!開けますよー?(がちゃ)とっくに罰ゲームの時間過ぎてますけど、…って………)
(すうすう)
(ぐがーーー)
((ちょ、てめぇらカメラ持ってこい!!))
((うわ、なんだこれ!))
((カメラカメラ!!))
((あとでエース隊長に高値で売るぞ(にひひ)))
((お前、悪!!(爆笑)))








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