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プリン物語



朝しようと思ってた事が上手くいかなかった時って、何もする気が起きない。

私にとって今日がその日で。

今日は久しぶりに学校も無いバイトも無いエースもいない本当の本当に一人を満喫出来る日のはずだった。
だから、部屋の模様替えをして、溜まった洗濯物をして、午後からはバイトで疲れているであろうエースのために少し手の込んだ料理でも作ってあげようと思ってた。



そんな1日を気持ちよく始めるために、昨日わざわざ買っておいた私の大好物のプリンが、朝起きたら冷蔵庫からなくなっていた。


きっと、私が起きる前にバイトに行ってしまったエースが犯人。




「あーあ。私のプリン!!」




苛立たし気に投げたクッションは、エースと二人で買ったもの。
ほぼ半同棲のようになってしまった私たちの部屋。


ごろりとソファに横になって、先程飽きて投げてしまったゲームのコントローラーをまた手に取る。
再び音を鳴らし始めたテレビの画面を拗ねた顔で見ながら、カチカチと親指だけが高速で動く。


計画的に気持ちよく1日を始めるはずだったのに、朝からごろごろとゲームばかりしている。プリンひとつで予定が大きく狂ってしまった。



暗くなり始めてた窓の外を見て、今日も無駄な1日を過ごしてしまった、と溜息が出る。
エースもきっと、もうすぐ帰ってくる。
絶対第一声は「腹減ったー!」だ。いつもそうだから。




しばらく同じ体勢でゲームをしていると、玄関の鍵を開ける音がした。
帰って来たな、バカエース!



「腹減ったー!」


予想通りの第一声。
続いて部屋のドアを開ける音。



「ミアただいま」



背中越しに言われたけど、振り返ってなんかやんない。
私はゲームに忙しいんだ。



「……。」



いつもは笑っておかえりっていう私だけど、今日は許さん。
プリンの恨みは大きい。



「なあミア、オカエリは?」



上着を脱ぎもせず、私の後ろへやって来てソファ越しに抱きしめる。
それでも無視。エースの方なんて、ちらりとも見てやんない。



「ははっ、お前やっぱ怒ってんだな」



予想に反して笑ったエースは、ほら、と私の前にコンビニの袋を見せる。



「…なに?」
「おみやげ」



やっと口を開いた私は、コントローラーのボタンを押してゲームを一時停止。お馴染みの絵が入った袋を受け取る。



「わ、プリン!」



中を確認すると、今朝なくなったものより一回り大きいサイズのプリンがひとつ。
思わず怒っていた事も忘れてエースを見る。



「機嫌直んの早すぎ」



また笑ったエースは上から私のおでこにキスを落とす。



「俺がお前の食っちまったから怒ってたんだろ?」
「わかってるなら勝手に人の物食べないでよね」
「悪ィ。冷蔵庫開けたらあいつが食べてくれっつってたからよ」
「あの子は私に食べてほしかったんですー」
「代わりにこいつやるから、許せよ」
「んー、どうしよっかな」



プリンひとつで機嫌が良くなる。何て簡単なんだ。
ふふ、と笑って特大のプリンを冷蔵庫に持っていく。



「食べちゃダメだからね」
「気をつけマス」
「私のご飯の後のデザートだから。エースは罰としてそれを隣で見てるがいいよ」
「へいへい」
「…へへ、仕方ないから今朝の事は許してあげる!」
「おう。ただいまミア」
「うん、おかえりエース!」










((もぐもぐ)おいしー!)
(……(うまそう))
(あれ、そう言えばエース、バイト代入る前で金欠って言ってなかった?)
(おう。俺の所持金あと54円)
(………エース)
(ん?)
(半分こしよっか!(にこ))
(、!(きゅーん!))




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