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背中に悪戯せよ!


近くの海域でルーキー共が暴れてるという情報が入って来たため、念のため親父に報告を入れる。
あろう事かこの船、つまり親父の首、を狙っているらしい。血の気が多いのは海賊なら仕方ねぇが、頭が悪いのを相手にするのは些か疲れる。



「さーて、どこから来るのかねい」



未だ姿の見えない海賊達の顔を拝むため、甲板へと出る。
親父の手を煩わせないためにも俺が飛んでいってカタをつけて来てもいいが、どうしたものか。



「マールコー!」



そんな事を考えていると、後ろから元気な末妹の声。



「ミア、今日も相変わらず元気だねい」
「若いからねー!」



くふふと笑うミアは、悪気なしに毒を吐く時がある。
悪気がある時もあるがその時は拳骨だ。
だがまあ大人な俺は、悪気ない毒は大抵はスルーしてやっている。



「なんかあったのかい」



俺の胸辺りにあるミア頭を撫でながら聞くと、嬉しそうにニコッと笑って俺を見上げた。



「いひひ、あのね、マルコ!」



年齢に似合わずまだまだ無邪気なコイツは、悪戯さえしなけりゃ可愛い妹だ。
それはもうぐっしゃぐしゃに頭を撫でてやりたくなるくらいには可愛い。死んでもそんなことしねぇし言わねぇが。


首を傾け先を促してやると、ミアはもう一度俺を見てにっこり笑い、その顔を俺の胸に押し付けて細い腕を背中に回して来た。



「は、ミア!?」



普段絶対にしないミアの行動に些か焦る。
なんだいこりゃ。くそ可愛いじゃねぇかい。
と思った瞬間、横から視線を感じてちらり見ると、ずらりと並ぶ顔なじみ。一様ににやにやしている。
くそ、糠喜びしちまったぜ。



「マルコもぎゅーってして!」
「……これが今回の罰ゲームかい」
「あ!バレた!」


はっと顔を上げるミアに溜息を吐く。



「今度はどんな罰だい」
「んー、えっと、マルコにぎゅってする事?」
「………」



なんか隠してやがんな。目が泳いでんだよい。
ったくこのアホ妹はわかり易いことこの上ない。



「ねぇマルコ!お願いぎゅってしてーっ」



くそ。なんで今日はこんなに可愛く甘えてくるんだよい。
とにかく罰ゲームを終わらそうと必死のミアに、まあ可愛い妹の頼みだし抱きしめるくらい言う事聞いてやるかと、ミアの包容に応えてやる。
何か隠している事にはこの際目を瞑ってやろう。後でわかる事だろうしな。



「わぷ!わぁ、マルコ背中おっきー!」



ぎゅっと抱きしめてやると、腰の辺りからぺたぺたと背中を触ってくる。
ミアは先程よりも俺にギュウギュウと抱きつき密着度を高めている。これはこれで兄妹としていいものなのか。「マルコの背中おっきいから、私の手、回りきらないや」とかほざいているミアは他の男にも同じ事をいうのだろうか。いやそれは俺が断じて許さねぇ。兄として。
尚も、今度は腰の上辺り、背中をぺたぺたと触ってくるミアに、心の中で舌打をする。



「…マルコなんでこんなに背が高いの?」
「はあ?」
「むー…。だっこして」
「は!?」



全くもってこのガキが何を考えているのかわからねぇ。
もはや精神年齢5歳児を想像させるコイツの行動には溜息しかでねぇ。
体を離し両手を俺に向けてくるミアに「わかったよい」と返事をして、ミアを左腕に乗せる形で抱き上げた。



「う、わ!マルコすごい力持ち!」
「お前は軽すぎんだよい」



まあ褒められて悪い気はしねぇな。
今度は上から多いかぶさるような形で俺を抱きしめるミア。



「ふふ、やっぱりマルコの背中大きいな」



くすくすと笑いながらまたぺたぺたと背中を触ってくるミアがいつもの妹じゃなく見えて、少し焦る。
何考えてんだ俺、と気を紛らわせるために、水平線へと目をやった。



「!…やっとお出ましかい」



黙視出来る距離に例の海賊船が映る。
前に気を取られている俺には、その時ミアが後ろの奴らに満面の笑みで親指を立てている事なんて全く気付かなかった。



「おいミア、罰ゲームはあと何だい」
「え、これで終わりだよ」



ミアを甲板におろし、まさかこれで終わりじゃねぇだろうと聞くと、何とも腑抜けた答えが返って来て調子を狂わされる。



「…本当に抱きつくだけだったのか?」
「…、嫌だった?」
「いや、まあ、終わったんならいいけどよい…」


にひひと笑うミアの頭をひとつ撫でる。
さて、次は敵船を潰してくるか。



「マルコ、お前彼奴ら潰しに行くのか?」
「ああ、俺一人で十分だろい」
「気をつけていけよ」
「誰に向かって言ってんだよい」



近付いて来ている敵船を見ていると、後ろからイゾウとビスタが話しかけて来た。
が、今度はそれを遮るようにミアが焦った顔で話しかけてくる。



「え!マルコ行っちゃうの!?」
「…?なんか問題でもあんのかよい?」
「え?ううん、いや、でも、あ、あぶないじゃん!」
「心配してくれてんのかい」



へえ、ミアも人の心配することあんだねい。
まあそれにしちゃ妙にそわそわしてる気がしねぇでもないが…。
とりあえず、心配するなと声をかけて、俺は甲板から敵船に向けて飛んだ。
飛んだ瞬間に、「あああ、マルコっ!」と叫ぶミアの声が聞こえる。心配すんな。すぐ戻ってくるよい。

高く飛んだ瞬間、視界の端にエースとラクヨウとサッチが甲板で倒れて痙攣しているのが見えた。本当にあいつらは。またくだらない事でもして遊んでんだろう。
ったく、しっかり者の兄貴でいんのも疲れるよい。

小さく息を吐き、一気に敵船まで飛んで船首に降り立つ。
ミアとのやり取りをしている間に随分近くまで来たようだ。
モビーから家族の騒ぎ声が聞こえる。



「お前らかい。親父の首取ろうって馬鹿共は」



睨みを利かせてそう言えば、何人かはヒッと声を出して後ずさる。
どんだけ腕に自信のある奴らかと思えば、張り合いのねえ小物じゃねえか。



「俺達は白ひげを潰して新世界で名をあげてやるんだよ!!」



口々に叫ぶ耳にタコのその台詞に、首の後ろをかきながらどうしたものかと思う。
とりあえず、モビーに問題ないと伝えるか。

くるりと馬鹿共に背を向け、モビーを見やる。甲板からは見知った顔がこちらを静観中。
…と、思ったが、どうやら違うようだ。
ミアと1番隊の奴らは気まずそうなそして不安そうな顔でこっちを見ているし、隊長どもはにやにやと事の成り行きを見ている。先程甲板に転がっていた3人はここからは黙視出来ない。つまりまだ甲板に転がっているんだろう。
なんなんだ、と眉をひそめた時、後ろから声が聞こえた。



「お前俺らに背を向けるとは、舐め、て、んじゃ……ぶ、ぶふっ!!!」
「調子に、ば、ばな……!ぶわっはっはっは!!!」
「んだこれ!?バナナ!??だははははは!!!!!」



背を向けた瞬間攻撃してくるかと思いきや、戦闘態勢から急に腹を抱えて笑い出した背後の敵に疑問は広がるばかりだ。
自分だけ置いていかれたような意味の分からない状況に、次第に怒りが沸いてくる。



「てめぇら、何笑ってんだよい」



ドスを利かせて言ってみても、敵は笑うばかり。
次いで聞こえて来たモビーからの笑い声にも怒りが沸いてくる。意味がわからねぇ。



「黙れバナナ野郎!」
「てめぇみたいなふざけた野郎に負ける気なんて1ミリだってしねえよ!!」



急にやる気になった敵と聞き逃せねぇ言葉に、思わずバナナ野郎と言った男を蹴り倒す。
そしてゆっくりとのど元に手をやりそのまま持ち上げる。



「お前、もう一回言ってみろい」
「ヒッ、」
「強気の言葉は一回だけかァ?」
「なっ、仲間を離せっ!!」



後ろから切り掛かって来た背の低い男に蹴りを食らわせる。
船尾まで壁を突き破りながら飛んでいった奴を見て、周りも唖然とした表情を浮かべた。



「人が話してる時は黙って聞く。常識だろうが」



息が出来ずに死にそうになっていた男の首から手を離す。



「で、誰がなんだって?」



どさりと床に落ちた男の上に座って、目の前の男達に聞く。
戦意喪失とはまさにこの事か。興醒めだ。
少しして、震えながらも勇敢な男が前へ出る。死を急ぐとは潔いよい。



「お、お、お、お前が!自分で、自己主張してんだろうが!!」
「ああ?」



剣を前に振りかざしながら叫ぶ男に、眉間に皺を寄せて聞き返す。
すると男は「お前の服だよ!背中!!」と剣で俺を指した。


背中?


首を回して背中を確認する。



「………」



確かに。なんかいつもは見えねぇモンが見えた気がする。
一瞬ミアの笑顔が頭に過って、ちらりとモビーの方を見た。
十分近くなった距離からはミアの表情まで見える。
ガチリと合った視線に、ビクリと体全体を飛び上がらせたミアを見て、罰ゲームか、と悟る。
ひくりと引きつった俺の口元が、ミアを恐怖の入り口へと案内していることに気付いたらしい。
ここからでもミアの表情が硬くなっていくのがわかる。


とりあえず、状況把握は必要だ。
着慣れたシャツを脱ぎ捨てる。
さて、さっきまで世界一可愛いと思っていた妹はどんな悪戯をしてくれたのだろう。


ぱさりと脱いだシャツを目の前で広げた。


目に入って来たのは、それはもう鮮やかな黄色。
可愛らしいバナナの絵は、見事にでかでかとにシャツの後ろへ貼られている。
どうりで、背中をぺたぺたぺたぺた触ってきたはずだ。
そしてもうひとつ。
バナナの周りにご丁寧にも「おれはバナナだよい!よろしくだよい!」と書かれている。
俺を怒りの頂点へと導くには十分すぎる。



スローモーションのように、俺は再びミアを見た。
隣のビスタの腕に縋り付くように縮こまるミアににたりと口元が上がる。



「ミア、お前、そこから、1歩も動くんじゃねぇよい」



真っ青になっていくミアの顔に多少満足しながら、敵に向き直る。
既に逃げ腰のコイツらは「ヒィ、般若だ!」「助けてくれ!」と船の奥へと逃げ惑っている。



「さて。てめえらには、」
「ぎゃーっ!すみませんごめんなさい助けてください!!!」
「心配すんなよい。てめぇらにはこのシャツと一緒に海に沈んでもらう事にしたからねい」
「ええええ!??いやホント見逃してください!なんでもするんで!」
「なんでもかい。そりゃよかった。じゃあ今すぐその記憶を、この船ごと一緒に海の底に持ってってくれよい」



にこりと最後に笑いかけて、軽く宙へ飛び、渾身の一撃を船の真ん中へ落とす。
でけぇ音が響いた端でミアの悲鳴も聞こえた気がした。



さて、あの悪戯好きの妹をどう懲らしめてやろうかねい。









(びびびびびすたぁぁぁ!ここでしばらく匿ってっ)
(ははは、それはいいが、素直にマルコに謝った方がいいんじゃないか?結局逃げて来たんだろう?)
(だって怖い!あの顔想像するだけで震えが止まら、…!!(がたがたがた))
ミアー…出てこーい…
(ヒィィャァァァ!!びびびびすた聞いたアレ!?こここわすぎ!!(こそこそがたがたぶるぶる))
(そんな布団までかぶらなくてもいいんじゃないか?(マルコの奴、半分楽しんでいるな))
(もうマルコに罰ゲームはやだぁぁぁ(うえーん))





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