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フランスパンを破壊せよ!




「ぎゃ、負けた!」



前々回の罰ゲームは嬉々として負けた。親父の膝に乗って幸せ気分だった時が懐かしい。
けど、今回の罰ゲームは勝ちたかった。というか、未だマルコから逃げ続けている私は負けるわけにはいかなかった。
じゃあ何でゲームに参加したかって。だってマルコいなかったしゲーム自体は楽しいんだもん!
くうう、と悔し紛れに地団駄を踏む。



「はっはっは、まあ頑張りたまえミアくん」



肩をばしばしと叩くエースを恨めし気に見る。
今回の罰ゲームは、フランスパンをぐちゃぐちゃにする事。
そう。つまり。4番隊隊長サッチの命を!ぐちゃぐちゃに!



「えーんビスタぁぁぁ!今日ご飯食べれなかったらどうしよう!!」
「ははは、俺のを分けてやろう」



泣きつく私を受け止めながらいつものようにビスタは笑う。
罰ゲームに関してビスタは絶対に助けてくれない。
ビスタだって死にたくないだろうけど、私だって、死にたくないよ。
普段は仲良く悪戯を考えてくれるサッチ。
何やっても大概の事は笑って許してくれるけど、実は私、知ってるんだ。
以前「サッチ隊長その髪型なくないっすか?」と新入りクルーが笑った翌日、同じクルーが「まじサッチ隊長のリーゼント格好いいっす!!」と震えながら言っていた事を。
他の人が罰ゲームを受けるんだったら私だって床に転げ回って笑って哀れんでいただろうけど、自分がするとなると話は180度変わってくる。


うーん。怖い。
これは少し作戦を立てなければ。



「皆絶対ちゃんとついて来てね!!」



後ろを振り返りながらついてくる隊長達に何度も念を押す。
いつもなら爆笑する隊長達も、今日の私がいつも以上に怖がっている事に気付いているのか、微笑ましく笑ってついてきてくれる。はっきり言ってその微笑ましい表情がうざい。だったら変われよ!



「心配しなくてもちゃんと見ててやるよ」
「絶対だよ!」
「こういうミアは妹らしくて可愛いな」
「罰ゲームしたら、私すぐ逃げるから、ちゃんとサッチ止めててね!」
「はいはい」



本当に他人事のようにのほほんと返事をする隊長達に不安が募る。
あああー!怖い!!サッチこわい!!


そんなこんなしている間にサッチのいるキッチンに辿り着く。本当に気が重い。



「なんだミア、腹でも減ったのか?」



いつものフレンドリーさで私に話しかけてくるサッチ。
でもすぐに他の隊長達が後ろについて来ているのを見て、ははーんと表情を変える。



「こりゃ、罰ゲームだな?」
「えへ、うん。」
「今回の被害者は俺ってわけか」
「そうなの、」



さてどうしようか。
私の作戦1。まずサッチをベタ褒めして隙を作る。
作戦2。目を瞑らせる。
作戦3。壊す!
作戦4。即逃げる。
作戦5。隊長達にサッチを止めてもらう。
作戦6。親父にかくまってもらう。
完璧!!



「サッチ、あのね」
「ミアちゃんは何の罰ゲームをしてくれるのかなー?」



にやにやと意地悪な顔を向けてくるフランスパン、いやサッチ。
とりあえず、笑顔を向ける。



「ま、まあ座ってよ」



サッチが私を追い辛いように、まずは椅子に座らせる。
私はもちろん立ったまま。その方が逃げ易いし、第一目の前にフランスパンがあるから実行し易い。



「サッチさ、これ、一応言っとくけど、罰ゲームだからね」
「おう。」
「私本当はこんなこと絶対したくないんだからね?」
「わかったわかった」
「サッチさ、いつも美味しい料理ありがとう」
「ん?おお」
「サッチの作る料理、すごい好きだよ」
「そりゃどうも」
「サッチ強いし、すごく頼りになるお兄ちゃんだと思ってる」
「……」
「んで、悪戯とか一緒にしてくれたり、サッチと遊ぶのは楽しい」
「…なんだぁ?今回の罰ゲームは俺をベタ褒めすることか?」



違ぇよ!これから来る恐怖の時間に備えてるんだよ!
とかそんな事を内心思っているけど、このひやひやした私の雰囲気を悟られないようににへへと笑う。


「ね、サッチ」
「何かなお姫さん?」



うひー、このフランスパンちょー機嫌いいよ!気持ち悪いよ!怖いよ!どうしよ!!
でも今日の罰ゲームはどれだけ私がサッチに隙を作れるかが運命の鍵。
伏し目がちに、目に涙をためて、サッチを見つめる。泣きまねの練習しててよかった。



「あの、目、瞑ってくれる?」
「…!」



照れたように視線を外すのを忘れない。
案の定サッチはにんまりとだらしなく口元を緩めて目を細める。
どこのエロいおっさんだよ!!
サッチにこんな目で見られるなんて心外!!気持ち悪いおっさんめ!!


が、まあ素直に目を瞑ったサッチに、時は来りと心を決める。
とりあえず、残念な顔で唇を突き出しているキモッチは見なかった事に。


どっくんどっくん。
ちらりと後ろについて来てくれている隊長達を見る。
頑張れー、と笑顔で伝えてくる。他人事だと思ってー!!



「サッチ、目、ちゃんと閉じててね」
「おう」



もう一度念を押して、ごくりと唾を飲み込み気合いを入れる。

そして、両手を上げ、力一杯、フランスパン、もといサッチのリーゼントをぐしゃりと掴んだ。



「ぎゃー!なにこれ!ハチミツ!??」



サッチのリーゼントを握りつぶす事には成功したものの、何で髪を固めているのかべっとりしたものが手に付いて手を離す。
けどすぐにエースの「ミア逃げろー!」という楽しそうな声が聞こえて、我に返る。ヤバい、逃げなきゃ死ぬ!

走り出す瞬間にちらりと目を横にやると、放心状態のサッチ。フランスパンなんて見る影も無い。よくてぐちゃぐちゃの焼きそばパン。あ、パンの原型もうないや。ぶふっ、。



「ごめんねサッチーー!」



叫びながら持てる力いっぱいで床を蹴る。
隊長達の横を通り過ぎて廊下に出て全速力で走る。走る。走る!



「ミア――――――!!!!出てきやがれぇぇぇ!!」



食堂の影等全く見えなくなった頃、サッチの地響きのような声が聞こえて来てびくりと震える。
どうしよう足がガクガクしてきた…!!
後ろなんて振り向いている暇はない。皆がサッチを止めていてくれる事を祈る。



やっとの思いで親父の部屋まで辿り着くと、ノックもせずにドアをあけ中に転がり込んだ。













(う、うえぇ、お、おや、おやじぃぃぃぃ!!)
(おいおい入ってくるなり泣き出すたァ唯事じゃねェな)
(ざっぢがごわいいぃぃぃぃ!!)
(順を追ってはなせ)
(うえーん、かくかくしかじか)
(グララララ、そりゃあ、お前が悪ィじゃねぇか)
(そんなぁぁ!!)
(が、そんな事で怒るたァ、サッチもまだまだガキだな)
(!、親父好きぃぃぃー!!)








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