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今日は朝からなんだか忙しくてイゾウに会うこともままならない。
いつもお昼までに1回は会えるのに、と海の彼方を双眼鏡で見ながらため息を吐いた。

今日は本当に散々だ。
朝はいつもどおり自分の部屋で起きて、親父におはようって挨拶しにいった。その後、朝から天気がよかったので溜まった洗濯物を洗っていたら、俺のも、と隊員たちから次々と押し付けられて。そして増えた洗濯物をやっとのことで終わらせて、やったーお昼ご飯!と思いきやマルコに頼まれていた仕事をすっかり忘れていたことに気付いて。それからバナナ片手にマルコの仕事を片付けて、本人に会えなかったからマルコの机の上にそれを置き、今は当番だった見張り台に立っている。

海の彼方に沈みそうな夕日に、忙しいと一日が過ぎるのが早いなぁ、なんて感傷に浸る。
見張り台から見える甲板ではいつも通り予告もなくいきなり始まった宴で家族の皆がどんちゃん騒いでいる。楽しそうなみんなを見るのは好きなので、自然と顔も緩んだ。
ふとその中にイゾウを見つけて、こんなに人がいて離れてるのにすぐにイゾウを見つけられる自分に苦笑いになる。隊長たちに囲まれて酒を煽るイゾウはいつもより少しだけ機嫌がよさそうだ。



「いいなー、みんな。楽しそう」



ブランケットを肩にかけなおしながら呟く。見張り台は風が強いから日が沈むとすぐに寒くなる。
それにしても、今日はイゾウはよく絡まれる日みたいだ。基本はマイペースにゆっくり酒を飲むイゾウだけど、今日は隊長たちに肩を組まれたり、無理やり酒を飲まされたり。なかなか見ることのない姿は見物だ。



「あ、」



イゾウと目が合った、。
声も聞こえないほど離れているのに、絡まる視線に鼓動が早くなる。
永遠と勘違いしそうなその一瞬の時間の後、イゾウはいつもの笑みを浮かべ、顎をくいと動かし「ちゃんと仕事しろ」と目で訴えた。
若干乙女な考えになっていた私は、むうと眉を潜める。私はイゾウと目が合ったこと嬉しかったのにな。
イゾウに向かってべーっと舌を出し、ぷいと反対を向いて双眼鏡を覗く作業に戻る。あーあ。今の私絶対可愛くなかったな、。失敗。

あと数時間、見張りがんばろう。
そしたら、イゾウに会いにいこう。



「うー、寒い、。」



すっかり暗くなった空に輝く星を見ながらポツリとぼやく。
見張りの時って独り言が多くなるから嫌だ。



「おーい、交代だぞ」



同じ隊のクルーが見張り台への階段から顔を覗かせる。



「待ってましたー!ありがとう!」



そろそろ本気でおなかがすいてきたところだった。
さすがにお昼のバナナだけでは身が持たない。
体に巻いていたブランケットを手渡し、二言三言声をかけて階段を下りる。

とりあえず、食堂に行って何か食べるものをもらおう。
甲板に行って何かもらってもいいけど、今日は疲れたからあんまり絡まれたくない。
そのまま部屋に帰って寝たいのが本音だ。
イゾウには会いたかったけど、一目見れたしまた明日会えばいいかと自分を納得させる。


食堂に入ると誰もいなくて、キッチンに入って適当に何かつまむ。
ついでに私専用のオレンジジュースをコップに注ぎ一気に喉に流し込んだ。



「お、ミアじゃねぇか。見ねぇと思ったらこんなトコでなにしてんの」



両手に空の皿を器用に持って、食堂へと入ってきたサッチに声をかけられる。
勝手にキッチンのものをつまんで怒られる、とどきりとしたけど、サッチはさして気にしてはいないようでほっと息を吐く。



「おなかすいちゃって。忙しくてお昼からまともなもの食べてないの」



へらりと笑って答えると、サッチは呆れたような顔で「なんか作ってやるから待ってろ」と食堂の椅子を指差した。味が保障されているサッチにご飯作ってもらえるなんてラッキーだ。素直にキッチンから出て食堂の椅子に腰掛ける。もう一杯オレンジジュースを注いでくるのは忘れない。

数分しかたってないのに、一口サイズの可愛いサンドイッチがお皿に乗って出てきて感嘆の声をあげた。



「サッチありがとう!!」
「残りもんで悪ィな」
「それ言わなきゃバレないのに。おいしそー!」



いただきます、と手を合わせて早速一つ目を口に入れる。
本来空腹を満たすためだけのそれは、サッチの手にかかるとそれだけじゃ終わらない。口に広がる美味しさににんまりと顔を緩めた。
そんな私をサッチも嬉しそうに見て、私の前に腰掛ける。



「美味そうに食うなァ」
「だって美味しいもん」
「そういやお前こんなトコにいていいのか?宴にもいなかっただろ」
「見張り当番だったんだもん。宴も、疲れてるから今日はいいや」
「ふーん、じゃあミアは先に祝ってたのか。どうりで宴にもいないと思ったぜ」
「ん?祝うって何を?」
「え?」
「え…??」



何個目かのサンドイッチを口に入れる直前の状態で、時が止まったかのようにサッチと目を合わせる。
なんかお祝いすることなんてあったっけ?
とりあえず、とまっていた手を動かし、サンドイッチをもぐもぐと胃の中へ入れていく。



「お前、…まさかとは思うが、この宴が何の宴か、知ってるよな?」
「何の宴なの?またいつもみたいに誰かが飲みたいからとかかと思った」
「……まじか」



うおおおお、と呻きながらテーブルに突っ伏するサッチ。
最後のサンドイッチを胃につめながら、何の宴なの?と再度聞くと、サッチはリーゼントの横から哀れむような目で見上げた。



「…イゾウの誕生日」
「………は!?」



目が点になるってこのことだと思う。



「やっぱ、知らなかったのか…」
「ちょ、じょじょじょ冗談ややややめてよ」



挙動不審を隠しきれてない私をサッチは尚も哀れむような目で見てくる。
ちょっとマジで悪い冗談!私そんなのイゾウから聞いてないし。てかイゾウの誕生日自体知らないし…!?
やばい、彼女としてこれは終わっている…。心が沈没する。

と、ふと今が夜遅いことを思い出す。
沈むより先に、イゾウに会わなきゃ。



「サッチ、今何時!?」
「あー、…お。まだ間に合うぞ、23:45だ」
「ありがとう、私イゾウのとこ行く!、あ、これ、」
「俺が片付けとくっつーの。ミアは早く行け」
「っ、ありがと!サンドイッチ美味しかった!」



勢いよく食堂を飛び出し、甲板へ向かって駆ける。
あと15分。短い、けど、間に合わないことはない、はず!
甲板に出ると、転がる酒瓶に陽気な笑い声。声をかけてくれる家族に適当に返事をしながら、さっきイゾウを見た場所へと急ぐ。だけどそこにはビスタ隊長とラクヨウ、数人のクルーしかいなくて、イゾウの姿は見あたらなかった。



「すみません、ビスタ隊長」
「ミアか、どうした?飲むか?」
「いえ、あの、イゾウどこに行きましたか?」
「イゾウなら部屋に帰ったぞ?」
「あ、ありがとうございます!」



返事を聞くと同時にまた走り出す。後ろからラクヨウの呂律の回らない声が聞こえてきたがそれも無視。
今のでたぶん5分はロスしてしまった。船を全力疾走なんてホント笑える。


膝に手をつき、イゾウの部屋の前で息を整える。
多分あと、5分ちょっとで日付が変わってしまう。
お願いだから、ここにいて、。


静かにドアをノックすると、イゾウの短い返事が聞こえて来てほっと息を吐く。
ゆっくりとドアを開けると、布団に寝そべった状態のイゾウと目が合った。
珍しく酔いが回っているのか、頬の辺りが少し赤く、目も怠そうに開けている。



「だ、大丈夫…?」



思わず出て来た言葉に、のそりと起き上がったイゾウは「飲み過ぎだ」と呟いた。
後ろ手でドアを閉めると、イゾウがこちらをじっと見つめている事に気付く。上気した肌が妙な色気を放っている。



「今日はもう来ねぇかと思ったぜ」
「今日、イゾウの誕生日って本当?」
「ああ」
「私、聞いてないんだけど」
「そりゃ、言ってねェからな」



拗ねたようにそう言うと、イゾウはくつりと喉を鳴らし面白そうに答えた。



「私なんにもあげるもの用意してない、。」
「俺がそれを気にするタマか?」



別に誕生日を教えてくれなかったのを怒ってるわけじゃない。
けど、皆知ってたのに彼女の私だけ知らなかったのが気に食わないのだ。



「で?俺に何か言いたかったんじゃねぇのか?」



イゾウの言葉にはっとし、時計を見ると12時1分前。



「あっ、!イゾウ、誕生日おめでとう!」



ぎゅっと両手を胸の前で握って心を込めて伝える。
満足そうに笑んだイゾウは片手でちょいちょいと私を呼ぶ。
引き寄せられるようにそばに行くと、イゾウはそのまま私を抱きしめた。



「ふふ。本当はね、今日ずっと会いたかったの」
「偶然。俺もだ」



ふわりと香るイゾウの匂いと、いつもより少しだけ高い体温に、私はそっと目を閉じた。











(まさか本当に何も用意してねェわけじゃねぇよな?)
(え!イゾウさっき気にしないって言った…!)
(確かに言ったが、今日に限ってミアは1日中会いに来なかったしなァ)
(だ、だって忙しかったし、イゾウ誕生日だって知らなかったし…(おろおろ))
(かと思ったら、5分の面会だけかい?)
(う……(こ、これはイゾウがなんか企んでる時の目…!))
(そうだなァ…)
(な、何をして差し上げましょうか…)
(今日1日、俺の言う事に肯定だけで返事しろ(ニィ))
(そんなの無…!!(ドサッ))
(いいな?)
(………はい(あ、キスされる…))





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