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slow snow relationship


さくりさくりと雪の中を進む。
銀世界の中、ふわりと舞う粉雪が頬を掠めて赤くなった鼻をツンとさせる。
後ろに続くのは二人の足跡だけ。
深く巻いたマフラーを鼻の上まで持ち上げた。



「シャチ、寒い…」



隣を歩くシャチは白い息を吐きながら、仕方ねぇな、と今度は愛用のキャスケット帽子を私にかぶせる。
少し大きめのそれは、私の頭をすっぽり隠し、冷たい雪から守ってくれる。


雪国をなめていたのは本当。
でも手袋をしてこなかったのは下心。



「ありがと、」



お礼を言いながらも、船を降りてから求めていたものとはかけ離れた行動に自然とむすっとした表情になる。
さっきから私が寒いというたびに、シャチは大きめのジャケットをかけてくれて、マフラーをくれて、そして今度は帽子をくれた。
でも私はシャチと手をつなぎたいだけ。
別にシャチに寒い思いをしてもらいたいわけじゃない。いつものつなぎだけになったシャチは本当に寒そう。



「なにその顔」



ひひ、と赤くなった鼻と頬を緩ませて、シャチは私のほっぺたをむにゅと挟む。



「別に、」



ぷい、と目を逸らしてしまう私はなんて可愛くないんだろう。
彼氏の防寒着を根こそぎ取って、更に何を求めるというのだ。



「ミアはホントに寒さに弱いのな」
「うるちゃい」



むにむにと挟まれる頬に阻まれて上手くしゃべれない。



「素直に言えばいいのによ」
「なに、」
「どこが寒いか、言ってみ?」



意地悪く笑うシャチに、反抗したくなる。
別にどこも寒くないもんと言いそうになったけど、サングラス越しのシャチの目が優しかったから何も言えなくなって、つい、むうっと口を尖らせてしまう。



「ん?」
「…………て」
「手?」
「ん。手。寒い」



もう一度シャチはひひと笑って、ほら、と手を差し出してくれる。
ずっと待っていたそれにどきどきしながら、自分の手を重ねてみた。
シャチの手は思ったよりもずっと大きくて、ごつごつしてて、温かい。

じんわりと広がる心の痺れに、頬を緩めた。



「手袋くらいしてくれば良かっただろ」
「別に忘れてたわけじゃないもん」
「じゃあなんで?」
「だって、…わざとだもん」
「おう、知ってる」



また意地悪く笑ったシャチにきゅんとしてしまった心はどうしたらいいだろう。
どちらともなく重なったままの手を交差させてぎゅっと握ると、シャチはそのまま自分のつなぎのポケットへと誘導する。ポケットの中はひやりとしたけど、すぐにシャチの体温で温かくなる。


さくりさくりとまた先へと足を動かす。
さっきと違うのは、ふたりの手が繋がってしまったこと。
そして私の心臓がどきどきと音を立てていること。



「シャチ、知ってたの?私が、手、繋ぎたかったって」
「ミアは顔に出やすいからな」
「じゃあ何で今まで、繋いでくれなかったの」
「意地悪してみた」
「意地悪で自分が寒くなるとか、ばかじゃん」



くすくすと笑いながらシャチのマフラーで口元を隠す。



「いーんだよ。オレ寒くねーし」
「やせ我慢」
「違ぇーよ。オレ、寒いとこは結構平気なの」



鼻の頭を赤くさせて白い息を吐きながら言われたって、説得力ないよ。
でもシャチは寒いところ出身だって言ってたから、もしかしたら本当かもしれない。



「寒くなったら、言ってね。私が温めてあげる」
「……期待しとく」



にぃと、ちょっといやらしい目で見てきたシャチを小突いた。
私たち、キスもまだでしょうが。


まぁ、シャチとだったらいつかはって思ってるけど。
でも今は、手を繋ぐだけでどきどきの私に免じて、このままゆっくりの関係でいさせてほしい。










(お前ら付き合って何ヶ月だ?)
(1ヵ月半スけど…。なんすかキャプテン藪から棒に。)
(お前の男としての機能が正常かどうか心配になっただけだ)
(正常っすよ!正常だから苦しんでるんですよ…!!(ずーん))
((不憫だな。))





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