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ポッキー ゲームをせよ!


「あらら、イゾウが負けちゃった」
「イゾウとラクヨウか。見たいような見たくないような」
「いやでもこれは罰ゲームだぞ」
「チッ」



上から私、エース、ナミュールそして今回罰ゲームが決まったイゾウである。
ちなみに今回の被害者は7番隊隊長のラクヨウ。
私は早い段階で罰ゲームから逃れる事が出来たので、罰が誰になろうが気にしない。あとは罰を受ける人を見て笑うだけだ。

実は、皆今回だけは私を負かしたかったらしい。
だって罰ゲームがポッキーゲームだから。
最近グランドラインで人気が出た新商品のお菓子ポッキー。そしてそれとともに流行りだしたのがこのポッキーゲーム。細長い棒状のポッキーの両端をくわえて同時に食べ進むゲームなのだ。恋人同士の間ではうっかりキスなんかもありえちゃう。
つまり、私が勝つ、イコール、男同士のポッキーゲームになると言うわけで。私が勝ち抜けた後は「誰がラクヨウなんかと」と皆すごい気迫で勝負をしていた。
誰だって男同士であんな顔を近づけるなんてしたくない。気持ち悪い事この上ないからね。まぁ私は笑うだけだけど。くふふ。これぞ勝者の笑み!はっはっは!



「ミアにやけすぎ」
「おっーと。ごめんエース。あまりにも1位抜け出来たのが嬉しくて」
「マジお前番狂わせだからなー。今回程ミアに負けてほしいと思った事は無かったぜ?」



私が勝ち抜けた後の本気勝負で勝ったエースに、にひひと笑いを向ける。
エースも勝者の笑みか、にひひと笑い返してくれる。
さて敗者のイゾウはどんだけ私たちを笑わせてくれるのだろうか。



気を利かせた隊長の誰かが「ラクヨウは食堂だぞ」とイゾウに教えてあげてて、イゾウも仕方ないと言うように、開けかけのポッキーの袋を乱暴に取る。

ちょっと、そんなに乱暴にすると折れるじゃないの。気持ちはわかるけど。くふっふっふ。

袋の中身は5本。
他は開けた瞬間にエースが食べちゃったから、残りはそれしか無いのだ。
罰ゲームはポッキーがなくなるまでポッキーゲーム、だから、イゾウは5回もあの酒臭いラクヨウと顔を近づけなきゃならない。うははは、かーわーいーそー!!


歩き出したイゾウを追って、ぞろぞろと列を作って付いていく私プラス隊長達。
自分が勝ってほっとしている隊長達の顔は気色悪いくらいにまにましている。そういう私もきっと同じような顔をしているんだろうけど。



嫌な事はさっさと終わらせるタイプのイゾウは、足早に食堂に入ると、案の定酒を飲んでいたラクヨウの前の席にどかりと腰を下ろした。
私たちも遅れないようにその周りにわらわらと集まり座る。



「……んだお前ら?」



眉をゆがめてこの異常な状況に若干引き気味のラクヨウ。口の端から酒が溢れてる。ウヒー、気持ち悪!イゾウかわいそー!!あっはっは!



「ラクヨウ、悪ィが俺の罰ゲームに付き合ってもらうぞ」
「ああ、罰ゲームか。なるほどな」



イゾウの一言にラクヨウは頷く。
最近は罰ゲームだと言えば、被害者になった人はとりあえず妙な状況も納得してくれるようになった。



「お前が負けるなんて珍しいじゃねぇか。で、罰ゲームはなんなんだ?」
「……」
「?」
「……これだ」



手に持っていたポッキーの袋をラクヨウの前に投げる。
なんだこりゃ、と袋を手に取り中を見るラクヨウに、サッチが横から「ポッキーゲームだよ、ラクヨウ」とにまにま顔で教えてやる。
が、「ポッキーゲームって何だ?」と首を傾けたラクヨウはイゾウへと視線だけで尋ねる 。



「…要は、俺とラクヨウでそれを食やあいいんだ。」
「なんだ。そんな事か。簡単な罰ゲームでよかったな、イゾウ!」
「…簡単か?」



ラクヨウの言葉を鼻で笑ったイゾウは、ラクヨウからポッキーの袋を奪い取り、1本するりと取り出す。
そのままポッキーの端をくわえてラクヨウを見た。



「オラ、食えよ」
「は?」



ぽかんとした表情でイゾウを見るラクヨウは私たちの予想通りで、ブフッっとそこかしこから吹き出す声が聞こえた。かくいう私もその一人だけど。



「ラクヨウ、ポッキーゲームってね、2人で1本を食べるゲームなんだよ!」



優しく教えてあげた私に、周りも合わせてはやし立てる。
それに絶望を見たような顔のラクヨウをプラスしてまた周りが盛り上がった。
二人を囲むポッキーコールに、ラクヨウも諦めたのか、はたまた「罰ゲームは絶対」という言葉を知っているからか、しぶしぶイゾウの方へと向き直る。
イゾウはというと、先程と同じようにポッキーをくわえたまま歯で支えて上下に揺らしている。ラクヨウが前まで来ると、ぴたりとそれを止めた。
ラクヨウがゴクリと唾を飲む。うん、きもい。
そして、ゆっくりと口を開けて、ラクヨウがポッキーの反対側を噛んだ。
ポキッと軽快な音がしてポッキーが半分に割れる。
それと同時に「あー!!」と私たちの叫び声。



「るせぇな、静かにしてろ」
「だってイゾウ!今のは無いよー!」
「そーだそーだ。ポッキーゲームになってねーぞ!」



口々に飛ぶ外野からのブーイングに、眉をしかめたイゾウはもう1本ポッキーを取る。



「ラクヨウ、今度は折るんじゃねぇぞ」
「はああ!?まだやんのかよ!?」
「あと4回だ」



肩を落とすラクヨウは、渋々とイゾウのくわえるポッキーの端っこを口に含んだ。二人の距離は10センチも無い。お互い近付きたくないのか、そのままの状態が数秒続く。
何となく、この異質な状況に周りの私も隊長達もしんと静まり、ごくりと喉を鳴らした。

先に動いたのはイゾウだ。
しんと静まり返る食堂に、ポキポキと軽快な音が響く。
どんどん近付いていくイゾウとラクヨウの距離に周りも息を呑む。

だが、ポッキーの半分を過ぎた所で、ラクヨウの限界が来たらしい。
最初口に入れてから1ミリも動かなかったラクヨウがバキンとポッキーを割る。



「ちょっと待て!いくら罰ゲームでもこれはおかしいだろうが!!」
「罰ゲームは絶対でーす!」
「ラクヨウ残念でしたー!」
「でもイゾウすげぇな」
「なんつーか、潔い。つーか禁断って感じ」
「ドキドキしちまったぜ」
「ぶふ、なんだそれ。やめろよ気色悪ィ」



1回目がしょぼすぎたため、イゾウが積極的だった今回は皆大盛り上がりだ。
わいわいと盛り上がる外野に、イゾウがニヤリと不敵に笑ったので、一瞬で皆が黙った。



「へぇ、てめえら、そういうのが好みかい」



3本目のポッキーを手で弄びながら、ゆったりと椅子に座ってこちらを見る。
余裕のある目で見渡されて、誰一人言葉を発する事が出来ない。
頼むから、このイゾウにドキってしてしまったのは、女である私だけでいてほしい。



「ラクヨウ、3本目だ」
「つーかお前はそれでいいのかよ」
「罰だと思うからいけねぇんだろうが」
「罰じゃなきゃなんだこれは。つーか俺は被害者だろうが。お前の方が余裕ってどういう事だよ」
「楽しみゃいいんだよ」
「楽しめるか!!」



しっかりイゾウにつっこんだラクヨウは、そのままどかりと椅子に座り直す。
テーブルを挟んだ場所に座っているイゾウは、一度私たちを見渡し、目を細めて口角をあげた。妖艶ってこの事をいうのかな。なんだか大人な世界に入り込んだようでまたドキッとした。


視線だけなのに一瞬で私たちを黙らせたイゾウは、椅子から目の前のテーブルに乗りラクヨウを見下ろすように胡座をかいて座る。
必然的に見上げる形になるラクヨウに、ゆっくりとポッキーをくわえて近付く。
誰かがごくりと唾を飲み込んだのが聞こえた。

口の先までポッキーをもってこられたラクヨウは、渋々という顔でポッキーの先っちょに口を付けた。
それを見たイゾウはまた口元を上げ、ラクヨウの目を見る。
近距離で野郎の顔なんて見たくないラクヨウは目を逸らしていたが、一向に動かないイゾウを不思議に思ったのか、ちらりと目を上げた。途端、がっちりと合う視線。まさか目が合うとは思っていなかったのか、ラクヨウの肩が面白いくらいビクリとした。けど、笑う人なんて一人もいなくて。皆イゾウの行動に釘付けだ。
ラクヨウはそわそわと目線を泳がせるが、結局帰ってくるのはイゾウの目。瞬きもせずに見つめるイゾウは、きっと見た者を離さない力でも持っているんだろう。
それにしても、若干頬を赤らめているラクヨウは本当に気持ち悪い。


満足気な表情で、先程とは違い、ゆっくりとポキン、ポキン、と噛んでいく音が聞こえる。
音が響く度に、どきどきとしていく。何て言うか、イゾウが、色っぽい。
見下ろしているから、睫毛が少しだけ伏せていて目線がすごく綺麗。ゆっくり動く口も、弧を描く唇も、ちらりと見える胸板も、イゾウの全部から色っぽさが出ている気がする。
ただの罰ゲームのはずなのに、なんだかいけない物を見ている気分になってくるのが不思議だ。頬が少しだけ熱い。
多分周りも同じなんだと思う。何も言わないけど、そわそわと目を逸らしたり、ごくりと唾を飲み込んだり。喋る人なんて誰もいない。


尚も視線を逸らさないイゾウに、あと数センチの距離にいる二人は見つめ合う。
男同士、妙に気持ち悪い絵なのに、目が離せないのはイゾウが作るこの雰囲気のせいだろう。
ラクヨウが背を逸らして後ろに逃げようとしたけど、すかさずイゾウがラクヨウの服を掴んで引き寄せる。そんな仕草にもドキッとしてしまって、思わず漏れそうになった声を抑えた。




ポキン、ポキン、



「〜〜〜〜〜!!!」



本当にあと少しで唇が触れ合う、と言う所で皆知らず知らずに息を呑んだ。
が、ラクヨウがもう無理とばかりに声にならない悲鳴をあげて、イゾウが唇すれすれの所でポキンと繋がりを切った。



「………イゾウ、頼むから俺で遊ぶな」
「はっはっは、周りは盛り上がってるみてェだぞ」



床に四つん這いになって疲れた表情をしているラクヨウに、豪快に笑うイゾウ。
皆おおー!とか異様に変な盛り上がりを見せていて少し怖い。
けど、さっきの余韻にざわざわそわそわとしている人たちもいて、私は若干こっち寄り。



「後2本残ってるぜ、ラクヨウ」
「頼むから普通にしてくれ。色気放つな」
「てめぇら男相手に気持ち悪ィくらい呆けた面してたからなァ」
「テメェの色気がハンパねぇからだろうが。俺ァこういうのはナースみてぇな可愛い女の子としてぇんだよ!」



やけくそとばかりに言い放つラクヨウに、横から体当たりをかます。
うお、と隊長らしからぬ声でよろけるラクヨウに、頬を膨らまして抗議した。



「目の前に可愛い女の子がいるのにナースとしたいってどういう事よラクヨウ!?」
「んだよミア。いつも変な罰ゲームばっか考えやがって」
「今回は私じゃないもんラクヨウのバーカ」
「うっせぇ、ケツの青いガキには興味ねーんだよ」
「別に青くないっつーの変態ラクヨウ!」



おでこを人差し指で押され、よろめいた身体を支えながら額を撫でてイーッと顔を向ける。



「オイ、ラクヨウ。4本目だ」



もう勘弁してくれという表情のラクヨウに追い打ちをかけるように言うイゾウ。
ざまーみろラクヨウめ!



「頼むから、早く終わらせてくれ」



ラクヨウはイゾウの手から4本目のポッキーを奪い、3分の2程を口に含んだ。
ズルだと思ったけど、周りも同じ事を思ったみたいでラクヨウはブーイング攻撃を受ける。
そんな事なんて気にしない二人は私たちの反応を待つ事もなく、先程と同様、ぽきぽきと端を食べ始めた。けど、そのとき船が急にガクンと揺れて二人がバランスを崩す。



「「―――――!!!」」
「「「「「あーーーー!!!!!」」」」」



バランスを崩したと同時に脆くも割れてしまったポッキーとは対称に、二人の唇が重なる。
ほんの一瞬。されど一瞬。
私も見たし、皆も見た。
瞬間的にお互いが1メートルくらい離れて、口元を覆う。

イゾウはともかく、ラクヨウの落ち込み具合がハンパ無い。ぷくくく。


私も隊長達も、突然の事にあっけにとられていたけど、イゾウのばつの悪そうな顔とラクヨウの落ち込みぶりに食堂は爆笑の渦へと変わる。
口々に「ラクヨウどんまい!」とか「いいことあるって」とか、うげーおげーと言っているラクヨウの肩を叩く。そして何故かラクヨウを胴上げまで始めてしまった。



「ラクヨウ頑張れー!」
「うっせーだまれー!」
「ラクヨウ負けんなー!!」
「俺の気持ちがわかってたまるかチクショー!」



と妙なかけ声をあげながらラクヨウを胴上げする隊長達にいちいち叫び返すラクヨウ。
食堂が一種のお祭り騒ぎみたいになって、私も手を叩きながら笑う。
巻き込まれたら嫌なので、隊長達の後ろでそれを見ていると、イゾウがどかりと後ろの椅子に座ったのが見えた。
皆盛り上がってるし、あっちは放っておいても良さそう。こっちを気にしている人なんて一人もいない。



「なんかラクヨウの罰ゲームみたいになっちゃったね」
「十分俺も罰ゲームだろ」



うげ、と舌を出しながら訴えるイゾウに、くすくすと堪えきれない笑いが漏れる。
するとイゾウは5本目のポッキーを袋から取り出し私に向けた。



「?」
「あいつらあの調子じゃ、これの事も忘れてんだろ。本当は欲しかったんだろ?」
「!」



確かに、ポッキーいいなぁって思ってた。
イゾウは意地悪な時もあるけど、よく気付く優しいお兄ちゃんでもあるのだ。
ちらりと盛り上がっている隊長達を見て、満面の笑みで「うん!」と頷いた。

満足そうにイゾウも笑うと、ほら、と口の前にポッキーを差し出す。
ためらう事も無くそれにぱくりと食いつくと、控えめなチョコの味が口に広がる。



「……いぞー全部くれるんじゃないの?」
「このまま食え」


くわえたら離してくれると思っていた手をイゾウは離してくれなくて、相変わらずも私の口とイゾウの手はポッキーを通して繋がったまま。
意味が分からず、とりあえずそのままポキポキと食べる。美味しさは変わらないので別に問題ない。
半分を過ぎた所でイゾウが急に手を離したから、口をもぐもぐしながら「なんだろう」とイゾウを見ると大きな手でくしゃりと髪を撫でられる。


そして次の瞬間、私の唇ごと残りのポッキーを食べられた。



「???!」



一瞬何が起きたかわからなくて、咀嚼するのも忘れる 。
まん丸く見開いた目でイゾウを見上げることしか出来ない。



「口直しだ。ビスタには言うんじゃねェぞ」



口角を上げたイゾウは、また私の髪をくしゃりと撫で、盛り上がる隊長達を残して食堂を出て行った。




、どうしよう。
ファーストキスをお兄ちゃんに奪われてしまった、。




その場に立ち尽くす事しか出来ない私は、口の中に残るポッキーを未だ飲み込めずにいた。











(うお!そんな所に突っ立って何やってんだミア?)
(え、えーす…)
(顔真っ赤だぞ?大丈夫か?)
(う、うん)
(そういやイゾウは?)
(かかかかえった、よ)





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