top
name change
hey, wanna have some cookies?


少し前を歩く、長身の男。
特に何を話す事も無く、時折振り返っては「どっちだ?」と私に道順を聞いてくる。



柄の悪い人たちに路地裏で絡まれてしまったのはつい先程。
近道だからと大通りから路地裏へ入ったのが運の尽きだった。
息の荒い気持ち悪い男3人組にバッグを取られ、髪を引っ張られ、やばいこれもう犯されるんじゃない?なんて諦めた矢先、彼が現れた。
やっぱり私の運は尽きてなんてなかったんだ。
一瞬で3人を伸してしまったこの男は、私の目を一瞬で奪った。別に、最後の膝蹴りにきゅんとしたとか、そんなんじゃない。
男は私のバッグを拾い上げると付いてしまった土を払い、私の方を向いた。
目に入って来たのは立派な胸板、じゃなくて、胸いっぱいの刺青。どこかで見た事ある、と思ったのは一瞬。すぐにそれが白ひげ海賊団のものと気付く。彼らの縄張りとなっているこの島で彼らの事を知らない人はいない。彼らが今この島に上陸しているのを知らなかったこの男共はただの馬鹿か運が悪かっただけか。
ほら、と白ひげ海賊団の男は気怠げな目でバッグを私に渡し、背を向けて行ってしまう。が、彼は数歩先で止まって振り返ると、ただ一言、「送るよい」と言った。



そして今、白ひげ海賊団の彼に家まで送ってもらっている。
あまり喋らない彼に、すっかりお礼を言うタイミングを逃してしまった。



「、あのっ、」



ついに自宅まで辿り着いてしまって、少し前を行く彼に声をかける。
無表情とまではいかないけど、特に興味もないような顔で男は振り返る。



「なんだよい」
「家、ここです」



家の入り口を指差してそう言うと、男はゆっくりと私の家を見上げた。
そのまま体ごと私に向き直り、先程と変わらず気怠げな表情で少し厚い唇を動かす。



「今度から人通りの少ない道は使わない方がいいよい」



私よりも十数センチ高い彼を見上げながら、こくりと頷く。
それに満足そうな顔をして去ろうとしたので、あ、と小さく声が溢れた。そして考えるよりも先に私の手が彼の服の端を掴む。
冷静な頭で、何やってるんだ私、と自分につっこみを入れるけど、してしまったことは仕方ない。このまま離れてしまうと、もう彼に会う事は二度と無いと思う。もう少し、彼の事を知りたいと思ってしまったのだ。



「…どうした?」



服の端だけとはいえ、止められたのには変わりない。男は体半分だけ振り返ると私を見下ろす。
柄にも無く、少し緊張してしまっている。
けど、呼び止めてしまったし、話さなければ始まらない。



「あの、お礼に、お茶ごちそうします」
「…礼はいいよい」
「クッキーも、あるの。どう、ですか?」



一度断られたけど、今朝焼いたクッキーの事を思い出して彼の言葉に被せるように聞く。
にこりと口元の笑みは絶やさないようにしたが、顔は緊張で強ばる。男は眠そうな目を一層細めて私を見た。



「名前も知らねぇ会って間もない男を、簡単に家にあげるもんじゃないよい。さっきどんな目にあったか覚えてんだろ」
「でも、あなたが助けてくれました。お礼くらい、させてください」
「…知ってんだろい。俺は海賊だ。信用するべき相手じゃねぇ」
「大丈夫です。悪い人は人助けなんてしませんから。私はあなたを信用します」



はっきりとそう言いのけた私に、彼は軽く息を吐く。
そして、急に腰を屈めて私の顔に近づき、正面から強いまなざしを向ける。吃驚してどきんと胸が鳴った。



「どうなっても、知らねぇからな、」



先程とは違う、低い男の声で言われ、身体がぴりぴりと痺れたような感覚になり、どきどきと鼓動が早くなる。
けど、そんなこと悟られないように、私も余裕の表情で返す。



「どうせあなたが助けてくれなかったら彼奴らにやられていました。それに比べたら、あなたになら別に何されても構いません」



予想外の反応だったのか、男は一瞬目を見開いた後、ククと笑い肩を揺らした。
そしてそのまま私の家へと顎で促す。



「じゃあ、茶くらい出してもらうとするよい」
「、はい!」



すぐに彼を追い抜いて、家の鍵を開けた。

とっておきの紅茶とクッキーで彼を迎えるために。









(私、ミアっていいます。あなたは?)
(…マルコ)
(マルコさん!、あ、確かマルコさんの海賊団の隊長さんも同じ名前でしたよね。マルコさんもすごく強いですけど、隊長さんだともっと強いんですか?)
(………俺くらいだよい)
(ふーん。でもやっぱり皆さん強いんですねぇ )
(まぁ、そこそこな)
(あ、このクッキー、私焼いたんですよ!美味しいですか?)
(悪くは、ない、)
((やったー!))





| TEXT |




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -