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make a wish!


「ねぇ、船長」
「なんだ」
「今日、誕生日らしいですね」
「あ?…ああ」



一度聞き返した船長は、さも興味ないというように、視線を本に戻してぺらりとページを捲る。
誕生日といえば一年に一度の大イベント。私だったら自分から皆に言いふらしてプレゼントを催促した挙句、コックに好きなものをたくさん作ってもらう。もちろん特大ケーキつき。

でも、この船の船長さんはあまりそういうのに興味がないみたい。
もったいない!折角の誕生日なのに。一年に一度、わがまま言っていい日なのに。



「何か欲しいものとかないんですか?」
「ねぇな」
「もったいないですよー。折角の誕生日なのに」



船長はちらりとこちらを見た後、読んでいた本をパタンと閉じて、改めてこちらを向いた。
ゆったりと座るソファから伸びる長い足を組み替える。



「なぜ生まれた日に拘る?」
「生まれた日だからですよ。特別な日なんです。船長に、生まれてきてくれてありがとう、って感謝する日ですよ。」
「感謝ねぇ。恨まれることなら沢山してきたがな」
「またそういうこと言う。いいんですよ。私とか、クルーの皆は船長がいないとダメなんですから」



不敵につり上がった口元が、彼の気分がいいことを教えてくれる。



「なにか、ないんですか?してほしいこととか…」
「そうだな…」
「あ、ケーキ作ってあげましょうか?ローソク立ててお祝いしましょうよ?」
「ガキくせぇ」
「むー。じゃあ何がいいですか?」



不貞腐れたように私は船長に言う。何を隠そう、ケーキを食べたかったのは私だ。
そんな私を見て、船長は珍しく優しく笑った。なに、ちょっとドキッとするじゃん。



「手に入れたいものは自分でどうにかするからな」
「ですよね」
「だが、今日その手間が省けるんなら、ミアの言う特別な日ってのにのっかってみるのもいいかもな」
「そうですよ!何がいいですか?」
「お前にしか出来ないことだ」
「な、なんでしょう?出来るかわかりませんが、全力を尽くします」



私にしか出来ないこと、との前置きに、少し緊張してしまう。
ごくりと小さく唾を飲み、船長の次の言葉を待った。



「いい加減、俺のものになれ」



どきん、と心臓が飛び跳ねた。



「だ、だめです」
「全力を尽くすんじゃなかったのか?」



船長は気分を害することもなく、余裕の笑みで先を続ける。
船長のことは嫌いじゃない。むしろ、好き。大好き。愛してる。
でも、だめなのだ。船長と、そういう関係になってはだめなのだ。



「そ、それより、やっぱり皆でパーティしましょうよ!」
「ミアはいつもそうだな。俺の誘いをはぐらかす。その癖、暇があれば俺の所に来る」
「はぐらかしてるつもりじゃ、…」
「嫌いか?」



射抜くような目で見つめられる。
いつもはふざけてごまかすのに、なぜか今回だけは逃げられない気がして身体が竦む。



「船長のことは、嫌いじゃ、な」
「男として、嫌いか?」



好きです。船長のこと。異性として。
でも、この一線を越えてしまうと、だめな気がする。



「…今日は何の日だ」
「……?船長の、誕生日…」



急に質問を変えられて、戸惑いながらも答える。
すると船長は満足げに「そうだ」と言って、ソファから立ち上がり私の方へと歩み寄ってきた。
目の前に立ち見下ろされて、緊張で身構えてしまう。



「プレゼントもパーティも興味ねぇ。だが変わりに、ミアの正直な気持ちを言え」



至近距離で合わさった視線はなかなか離れない。
正直に。それが船長の誕生日のお願い。

どきどきとしながら、そこまで言うなら、と覚悟を決める。



「わ、私、独占欲強いんです」
「あ?」



予想していなかったのか、船長は顔を歪めて聞き返した。



「あの、だから、…船長、もてるじゃないですか」
「………」
「あの、つまり、船長が私のことそういう風に思ってくれているのは、凄く嬉しいですし、毎回言ってくれるたびに、正直、舞い上がってしまいます。」



ちらりと船長の様子を確認する。
眉間に皺を寄せながらも、とりあえずは聞こうとしてくれているのだろう。
静かに先を促され、私はぎゅっと手を握り締めて言葉を続けた。



「でも、私、すぐ嫉妬しちゃったりするから、船長がもてると、たぶん、我慢できないと思うんですよね。だから船長も、すぐに私のこと嫌になっちゃうと思うんです」



またちらりと船長を確認すると、今度は眉間の皺を数本増やしてから深く、それは深く、溜息をついた。
やっぱりあきれちゃったんだ、と思い、居たたまれなさに船長の前でそわそわと挙動不審に動いてしまう。
すると、意外にも先ほどと変わらない優しい声で船長は呟いた。



「つまり、そんなくだらねぇ理由で俺は断られ続けてたってわけか」
「く、くだらなくなんか、」



私にとっては十分大きな問題だったので、くだらなくなんてこれぽっちもない。
そう伝えようとしたのに、船長の骨ばった長い指で頬を撫でられて、言葉が続かなくなった。



「他の女には興味ねぇ」
「っ、」



馬鹿な私の心臓は性懲りもなくまた激しく動き出す。
血の巡りが良くなって、頬も紅潮していく。



「悪いが、俺の方が独占欲は強いぞ?」



頬に当てられたままの手はそのまま流れて、船長は指の先で私の耳を撫でた。
ぞわりとした感覚が背筋を上っていく。



「もう一度言う。俺のものになれ」



寿命が10年分縮むくらいに高速で鳴り続ける私の心臓はさらに速度を増してしまって。
場の雰囲気に流されてしまったとか、煩い心臓に判断が鈍ってしまったとか、それは分からないけど、断る理由を塗りつぶされた私は、この時ただ頷くことしか出来なかった。

にやりと満足げに笑った船長は、耳に当てられていた手を私の後頭部に回し顔を近づける。

キスされる、。

そう思った瞬間、唇と唇が触れるか触れないかの距離で、船長は止まってしまった。



「???」



すでにいっぱいいっぱいな状況に動くことも出来ず至近距離の船長を見つめる。



「まだ、大事な言葉もらってねぇな」



唇に感じる船長の吐息が、二人の距離があとほんの数センチだということを証明する。



「あ、わたし、」



私の息も、船長にかかってしまっているのかな、と無駄に緊張してしまう。
気持ちを伝えるのも、今日は船長の誕生日だし、勇気を出そう。



「…船長が、好き、です」



じっと見つめ合っていた船長の目が満足気になって、先を続けようとしたのを感じ、あわてて「あと、」と止める。
怪訝そうに見つめ返した船長の目を、愛しさを込めて見つめ返し、今日しか言えない言葉を伝えた。



「お誕生日、おめでとうございます」



フッと優しく笑った船長は、今度こそ、私との距離を完全に埋めた。
ゆっくりと目を閉じて、もう一度、心の中で呟く。




−お誕生日おめでとうございます。船長大好きです。








(ふぎゃ!ど、どこ触ってるんですか!?)
(どこって胸だろ)
(だだだだだめですよ!!なに考えてるんですか!?)
(……ミアをくれるんじゃなかったのか?)
(そんなこと言ってません!!)
(チッ)
((舌打ち!?)もしかして、体目当て……)
(くだらねーこと考えてんじゃねぇよ(バシッ))
(いたっ!…だって船長が…)
(大丈夫だ。期待はしてなかったからな。気長に待ってやるよ)
((期待してないって、なんか複雑……))




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