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白馬に乗って遊んでろ!


さっきまでわいわいしていた食堂がしーんと静まる。
ゲームの結果、負けたのはまさかのジョズ。

今回の被害者はハルタ。
そして罰ゲームの内容は、ハルタに向かって以下を言う事。
1. ハルタンこっち向いて!
2. この似非王子!!
3. 白馬に乗って遊んでろ!!



いやもうホント、罰ゲームする前から心配になってきた。
案の定サッチとエースは想像だけで笑い転げているし、他の隊長達もどうなるのか想像もつかないという顔をしている。

でも「罰ゲームは絶対」がルール。
ジョズが嫌がろうが私たちが不安がろうがしなければならない。
ごめん、ジョズ。変な罰ゲーム考えちゃって…。



「負けてしまったな。じゃあ、行ってくるか。12番隊は今甲板で鍛錬だったよな」



当の本人はさして気にする事も無いように、スタスタと甲板へと歩いていく。
そしてそれが逆に私たちの心配を煽るのだ。



「サッチー、なんか心配になってきたんだけど」
「いやー、ジョズがハルタンって言うのか。ぶくく、想像しただけで笑えるわ」



まだ笑いをやめないサッチにほら行くよと言って腕を引っ張る。
ジョズの後をついていって数分。
お日様の光が眩しい甲板へと出る。



「じゃ、頑張ってね!」
「ああ、すぐ戻る」



ポン、とジョズの背中を押して送り出したら、私とサッチは物陰に隠れて様子を見る。
他の隊長達は甲板の反対側で観察するようだ。隊長達はバケモノなので、ちょっと遠くにいても大体何喋ってるのかわかるみたい。けど私はちゃんと普通の人間なので、近くじゃないと聞こえない。



「俺も普通の人間だっつーの」
「あ。聞こえてた?」
「だだ漏れ」
「えへ、ごめん」



適当にサッチに謝り、今回の被害者のハルタを見ると、しっかりと隊員達を指導している模様。
実践形式なのか、隊員が次々にハルタに仕掛けていて、それをハルタがこうしたらいいああしたらいいと教えながら倒していっている。流れるように止まる事なく続けられるそれは、見ていて飽きない。相手は12番隊の隊員皆なのに、息を切らす事無く対応しているハルタは、やはり隊長格で、流石としか言いようがない。



「あ、ジョズもうすぐ話しかけんじゃねぇ?」
「全く迷いがないあたり、ジョズすごいよね」



ずんずんとハルタの方へ進んでいくジョズを見て、ある意味感心する。
ハルタの後ろ辺りで止まり、ジョズがハルタに声をかけた。会話を漏らさないように、耳をすませる。



“ハルタ、鍛錬中にすまない。少しいいか?”
“このままでいい?”
“ああ。ゲームで負けてしまってな。3つハルタに言わなければならないことがあるんだ”
“罰ゲーム?ジョズ負けたの?”
“ああ”
“ふーん。珍しいね。いいよー。なに?”



ハルタは尚も隊員からの攻撃を剣で防ぎ且つ薙ぎ倒しながら、ジョズの言葉に返事をする。



「…なんであんなにスムーズにいくのかな」
「いやいやいやまだわかんねぇぞ。罰ワードを言ってねぇからな」
「ジョズ、マジで言うのかな?想像出来ないんだけど」
「ぷくく、想像してみろって!マジ笑えるから!」



また堪えきれずに吹き出したサッチに、黙って聞こえない!と一喝してまた耳をすませる。
ちゃんと言えるかな、と心配ばかりしていたが、そんな心配など物ともしないようにジョズは口を開く。




“ハルタンこっちむいて”




…ジョズの一言は想像以上に破壊力を持っていた。
何の脈絡もなく、それこそさっきと同じ表情で堂々と言い切ったジョズに、ハルタに攻撃を仕掛けていた隊員達全員がずっこけた。
よく見ると地面にうずくまってぴくぴくと震えている。ああ、笑いを堪えているなあれは。

かくいう私たちも、サッチなんて腹筋崩壊するんじゃないかってくらい、爆笑を通り越して声を出さずに笑っているし、私はジョズの真面目な表情と言葉がミスマッチすぎて、妙にシュールで、ぶくくくと笑いを堪えきれていない。



「ちょ、サッチ、わ、笑い、すぎ…!」
「おま、おまえだって…!」



ヒィヒィ言っているキモサッチは置いておいて、当の被害者ハルタを観察する。
攻撃を受け流そうと剣を構えたまま動かずに、顔だけジョズの方へ向けて何とも言い表せない妙な顔をしている。呆れているような、怒ってるような、何とも言えない表情。
しばらくすると、剣を下ろしてジョズに体ごと向き直った。隊員達はまだ床で震えている。うん、やっぱり近い分だけ衝撃がすごかったんだ。プフフッ。

でもまだあと2ワード残っている。
ちらりと甲板の反対側を確認したら、ラクヨウとエースが床で瀕死の状態だった。マルコとイゾウは顔を伏せて肩をふるわせていて、他の隊長達は明後日の方向向いて咳払いしたりなんか無駄な動きをしている。
と、顔は笑顔だけど目が笑っていないハルタが口を開きそうな雰囲気だったので深呼吸して笑いを抑え、また耳を澄ませた。


“ジョズ、二度と僕の事そうやって呼ばないでね”
“安心しろ。俺も呼びたくない”
“で、あとふたつは何?”
“ああ、2つ目が、”
“ちょっと待って。嫌な予感するから一気に2つ言っていいよ”
“わかった。じゃあ言うぞ?”
“うん”



甲板にいる全員がごくりと唾を飲んだ。



“この似非王子。白馬に乗って遊んでろ”



てっきり甲板中が爆笑の渦になると思っていたけど、ジョズが言葉を発した瞬間、ぶわんと甲板の空気が一気に変わった。げ、やべ。と隣から聞こえる。



「ちょ、サッチ今の何?」
「ハルタンキレたかも」
「え!マジで!」



もう一度ハルタの方を見る。
表情は先程と変わらず笑顔(目は据わっている)のままだ。
つられてジョズにも目を向ける。こちらも先程と変わらずいつものジョズだ。



“ジョズさ、この罰ゲーム誰が考えたか知ってるでしょ?”
“ん?ああ。”



私とサッチが同時にヒッと息を呑んだ。



「ちょ、ジョズまじで言うなよ」
「ジョズお願い何でもするから言わないでー!」



二人でお願いポーズをしながらジョズを見る。



“それさ、サッチとエースとミア、誰?”



ハルタ怖い!バレてる何で!?と二人で顔を見合わせた。
二人の額からだらりと汗が流れる。
次に何が起こるのかわからなくて、ドキドキとしながら再びジョズを見た。



“そうだな。3割サッチ、7割ミアってとこだ。エースは今回何も言ってないな”



死んだ。
ジョズのばか!もう嫌い!!



「サッチ、やばいよ!逃げた方がいいよ!」



さあ二人で手を取って逃げよう、とサッチの方を振り向いたけど、さっきまでいたはずのサッチが見当たらない。
きょろきょろと周りを見るけど、やっぱりサッチはいなくて。ハッとして甲板の反対側を見たけど、他の隊長達もみんな忽然と姿を消していて、逃げられたんだと気付く。
私を置いて逃げるサッチに殺意が沸くと同時に、ビスタまで逃げるなんてと悲しくなった。

けど今は私も逃げる事を優先しなければ。

そろりそろりと一番近くの船内へと続くドアへと手をかける。
かちゃりとドアノブを回して、よし、と呟いたそのとき、左頬に風を感じた。
ビィィィンと響く音に、おそるおそる目線だけ左へと向けると、木製のドアには銀色に輝く刃が突き刺さっている。確認しなくても分かる。ハルタの剣だ。
ばくんばくんと心臓が嫌な音を立てる。動いたら、殺られる。ドアノブに掛けたままの手には汗がびっしりだ。

こつん、こつん、と後ろからハルタが近づいてくる音が聞こえる。
正直、下手なホラーより怖い。

足音が真後ろで止まったかと思うと、何の前触れも無く剣が一気に抜かれて、再び左頬を通った風にヒィと小さな悲鳴が漏れる。



「ミアさ、被害者に選ぶ人、間違ってんじゃない?」



ぎぎぎぎ、とゆっくりと首を回す。
そこには口元が綺麗に弧を描いた笑顔のハルタがいて。金縛りみたいに体が動かなくなった。



「怪我、しなくてよかったね」



左頬をするりと撫でられ、にこりと笑顔を向けられる。
私もつられて引きつった笑みを浮かべた。



「あんまりオイタがすぎると、いくら優しいお兄ちゃんでも怒っちゃうんだよ?」



首を傾けて言われても、この状況では可愛いとは思えない。
手汗が酷くて、心臓が恐怖で壊れそう。
一歩、後ろに下がったら、背中がドアにとんと当たった。
するとそれにつられるようにハルタも一歩私との距離を詰めて、右腕を私の右側の壁につける。必然的に近くなった距離に、尚も逸らされない視線に、戸惑う。



「だから、ちゃんとごめんなさい言えるよね?」



それでも極度の緊張で言葉が出てこない私は、あーとかうーとか意味の無い音しか発音できない。



「それとも、この口塞いで本当に言えなくしてあげようか?」



すっと、左手で優しく唇に触れるハルタに、顔に熱が集まって俯いてしまう。
冗談だってわかってるけど、至近距離で言われて恥ずかしくなってしまった。
ハルタに、ごめんなさい、言わなきゃ。怖いハルタは嫌だもん。
勇気を出して、顔を上げた。
するとさっきの怖いハルタじゃなくて、いつものハルタがそこにいて、少しだけほっとする。



「酷い事、罰ゲームにしちゃって、ごめんなさい。悪ふざけがすぎました。」



ちらりとハルタの様子を確認して、もう一度謝る。



「ハルタ、ごめんね?」



申し訳程度にぺこんと頭を下げると、ハルタに髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でられた。



「ん、許してあげる。」



最後にぽふぽふと頭を撫でられて、ハルタはいつもの優しい笑顔を向けてくれた。
なんだか嬉しくなって、私の口元も緩む。

優しいハルタはたんぽぽみたい。
なんか悪い事しちゃったなと思って、もう一度、ハルタごめんね、とハルタの腰に抱きついた。



「ミアが抱きついてくるなんて珍しいね」



ぎゅーっと抱きしめ返しながらまた頭をぽふぽふ撫でてくれるハルタに、存分に甘えてみる。



「だって、ハルタが優しいと嬉しい」
「ミアは悪戯さえしなければ、可愛いのに」
「悪戯、面白いよ。ダメなの?」
「僕に被害が無ければいいよ」
「ふふ、わかった。ハルタにはもう悪い事しない」
「いい子だね」



撫でてくれる頭が気持ちよくて、もう少しだけ、こうしていようと思った。












(おー。ジョズおつかれー)
(ああ。俺に被害が無くてよかった)
(ホント、お前はラッキーだよい)
(で、ビスタは何で沈んでるんだ?)
(アレだよい。)
(アレ?ハルタとミアか?)
(そうそう。ハルタにミアを取られてへこんでんだよ)
(なるほど。)





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