手紙を盗み出して朗読せよ!
モビーディックに数ある部屋の中の一室にこそこそと入り込む。
「へへっ、忍び込むなんて、簡単だっつーの」
俺は今、ミアの部屋に無断で入っている。
どうやら最近、ミアが隠れて誰かに手紙を書いているらしいのだ。
というわけで、今回の罰ゲームは、ミアの部屋に忍び込み、手紙を盗み出して、且つ、それを甲板で待っている皆の前で読む事。
まあ今回はプライベートに関わるから、読んで問題有りと判断した場合は、読み上げるのは免除となる。どっちにしたって俺は読めるんだ。役得だろ。ん、あれ。何で役得なんだ?あぁ、弱みが握れるからか。役得だな。
ゆっくりと室内を見渡し、意外と綺麗に整理されている事に驚く。
まずは机の辺りから探そう。
今ミアは食堂でナース達とお茶をしているから、すぐに戻ってくる確率は極めて低い。
バタバタと引き出しを開けて、元の場所に戻して、を繰り返す。
一応ミアも女だし、手紙らしき物以外は、とりあえず見ないようにする。
サッチがちらっと見た情報だと、ピンクの封筒に入れているらしいので、とりあえずピンク色を中心に探してみる。
「ねぇなぁ…。」
一通り机の回りを探しても見つからず、もう一度部屋を見回す。
ミアのことだから、とんでもねーとこに隠してそうだな。
ふとベッドの横のクローゼットが目についたため、そちらへ移動する。
クローゼットを開け中を確認するが特に変わったところはない。
ついでに掛けられている服をかき分けてみても、ピンク色なんて見当たらない。
仕方がないので、クローゼットに内装されている引き出しを開けてみる。
「うお!ピンク!」
はっとして勢いで掴んでみるが、それは探していた物ではなくて。
ぴろりと自分の手から垂れるそれは間違ってなくてもミアのブラだった。
「………、あいつ、意外に可愛いの着てんだな」
肩紐を掴みぷらぷらと垂れているそれは、淡いピンクで控えめにフリルがついており真ん中にはリボンがあしらわれている。
「………」
じっと見てしまって、頭をふって邪念を飛ばす。いや、別にミアに対して邪念なんて元々ねーけどよ!
するとふと視界の端、引き出しの奥に、別のピンクを見つけた。
あ、と思って反対の手でそれを取り、まじまじと見つめる。可愛らしい花の絵が乗っているピンクのそれは間違いなく俺が探していた物だ。
にっと笑みを浮かべて、中を確認しようとしたその時、がちゃりと開かないはずのドアが開く。
吃驚して振り返り、急いで手紙を自分の後ろへと隠した。
ドアの横に口を開けたまま立っていたのは紛れも無くこの部屋の主のミアだった。
「よ、よぉ!」
やばい、見つかった。
とりあえず、挨拶をしてみる。が、ミアは先程と表情は変わらぬまま、ある一点を見ていた。
そしてゆっくりと手を挙げ、俺の方を指差すと、信じられないというように言葉を発した。
「エ、エース…あんた、な、なに持ってんの?」
「な、何も持ってねぇよ?」
ちゃんと手紙は後ろに隠してるし、見えねぇはず。
しかしミアはどこ見てんだ?
ミアが見ているのが俺の左手、つまり手紙を握りしめている方からすると、若干右側に寄っているように思うのだ。
不思議に思い、自分の右手を確認すると、先程間違って引っぱりだしてしまったミアのブラをこれでもかと言う程握りしめていた。
一気に汗が噴き出す。
「ちょ、いや、これにはわけが…」
「エース、あ、あんた……」
「マジで、誤解だ、。とりあえず、落ち着け…?」
な?と冷や汗たっぷりの笑顔でミアに話しかける。
だがミアはふるふると頭を横に振ると、踵を返して甲板の方へと駆け出していった。
「エースのばかあああぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」
「ちょっと待てーーーーー!!!!!!」
このまま甲板になんて行かれたら、非情にまずい。
ほぼ全員、隊長たちが待っているのだ。
とりあえず物的証拠となるブラを投げ捨て、俺はミアを全力で追いかけた。
ミアを追って甲板へ行くと、丁度ミアがビスタへ飛びついているところで、遅かったかと舌打をする。
「うわぁぁぁんビスターーー!!」
「どうしたミア?エースに何か取られたのか?」
「マジで誤解だミア!ちょっと落ち着けって!」
ビスタは俺が手紙を取ってくる事を知っているから、落ち着いてミアに問いかける。
でももちろんミアは俺が手紙を取った事をまだ知らない。
そして俺はミアが言葉を発する前に誤解を解かなくては今日の夕飯にありつけねぇ。
とりあえず、話を聞いてもらわねぇと、とミアに話しかける。
けどそんな俺の努力も虚しく、ミアは情け容赦なしに大声でビスタに泣きついた。
「エースが私の部屋に勝手に入って下着盗ったーー!!」
「盗ってねぇだろ!!?」
語弊が気になり思わず訂正を入れてしまったが、ひやりとした空気を感じ、前にいる隊長達を見る。
とりあえず、ほとんどの隊長達から冷めた目で見つめられているのが分かったが、端っこに座って一番静かにしていると思っていたイゾウの懐からちらりと銃が見えて、一気に冷や汗をかく。
「ちょ、イゾウ、銃しまえよ!マジでミアもふざけてんじゃねーよ!」
夕飯の心配の前に命の心配かよ。あれは事故だっつーの!
「………ふざけてない。エース勝手に私の部屋に入って、クローゼット引っ掻き回して、私のブラ握りしめてた……」
ビスタの胸の中からじと目でこちらを見て、ミアはさっきの状況を淡々と伝えた。
「エース、お前……」
「さすがにそれはやりすぎだろう」
「若くても許されねーことはあるんだぜ?」
クリエルにビスタ、そしてサッチ。うるせーアレは不可抗力だ!
汚名はぜってー晴らす!
「だから!俺がミアの部屋に入ったのは罰ゲームだっつの!」
「……罰ゲーム?」
少しは聞く気になったか。アホミア。
「そうだ。これ見つけるために。お前が紛らわしいとこに入れとくのがいけないんだろ」
ある意味俺は被害者だ。
ミアはじっと俺の手の中にある手紙を見ると、だんだんと頬を染めていった。
「ちょ、それ、何でエースが!?」
「俺の罰ゲーム。これをここで読み上げる事」
「はああああ!??」
俺の言葉を聞くや否や、ビスタの胸から飛び出し、手紙を奪い返そうとする。
ひらりとそれを避けるなんて、俺には朝飯前だ。
にやりと口元を上げ、ミアから逃げ回りながら、封筒を開ける。
「じゃー読むぜー!」
「ちょっとマジでやめて!」
「いーじゃねーか。減るもんじゃねーし」
「よくない!エース本当に怒るからね!!」
「罰ゲームは絶対なの、知ってんだろ」
意地悪に笑って、床を蹴ってミアが登って来れない高さに足を下ろす。
後ろを追いかけて来ていたミアが下でぎゃーぎゃー騒いでいたが、構わず折り畳まれていた便せんを開けた。
さっと中に目を通す。
さすがに俺も、何でも構わず読む程酷ぇ男じゃねぇ。
けど、手紙の一行目を見て、無意識に眉をよせた。
別に、俺の名前を期待していたわけじゃねぇ。落胆なんて、してねーよ。
でもなんか面白くない。
最後まで軽く読み流して、下にいるミアを見る。
涙目で返してと訴えるミアに、なんでかわかんねーけど、少しだけ不満を感じた。
「………」
「おいエースどうした?」
黙りこんだ俺を不思議に思ってラクヨウが声をかけてきた。
「…やっぱ読まねぇ」
「ここまでお膳立てしておいてか!?」
「すげー個人的なことだから。読むのは違反なんだろ?」
「まーなァ。判断はお前に任せるが。」
顔を見合わせる隊長達はそのままに、俺は甲板の縁までジャンプした。
そして、そのまま手紙を4つに破り、海へ捨てる。
「ああ!!エース酷い!」
後ろを追って来たミアに文句を言われるけど、気にしねぇ。
気に入らねぇもんは仕方ないだろ。
「…、でも読まないでいてくれてありがとう」
「別に」
アホか。
お前にありがとうって言われる覚えはねぇよ。
今回お前は被害者だしな。
「なぁ、今度は手紙俺に書けよ」
「え?」
「手紙、俺に書け」
別に、ミアから手紙が欲しいわけじゃねーけど、あいつが貰えて俺が貰えねぇのが嫌なだけだ。まあ、あいつが貰えるはずだったものは俺が今破り捨ててやったけど。
とりあえずそれだけミアに伝えると、ミアを置いて隊長達の方へと歩き出した。
手紙の内容なんて、もう覚えてねーよ。
だから早く俺宛の手紙、書けよ。
“ビスタへ
なんとなく、お手紙書いてみたよ!
なぜかって?
だってビスタは家族の中でも一番大好きなお兄ちゃんだもん。
他のアホ隊長みたいに、意地悪しないし、いつも優しいし、甘い紅茶淹れてくれるし、私の話もちゃんと聞いてくれるし、怒ると怖いけど、本当に間違った事した時しか怒らないもんね。
ビスタがいると毎日が楽しいよ!
今度島についたら一緒にお出かけしたいな。
一緒に可愛いカフェでランチして美味しい紅茶飲んで、デザートにアイスクリーム食べたい!
ビスタ予約しとくから、ちゃーんと1日くらい空けててね。
いつもありがとう。
ビスタ大好きだよ!
ミア”(で?下着ドロ君。手紙何て書いてあったの?)
(うるせーサッチ。教えねーよ)
(ええぇ、せめて誰宛かだけでも教えろよ)
(やだ)
((やだってこの子は…自分宛じゃなかったから拗ねてんのかねぇ。若いなァ))
(そう言わずに誰宛かくらい教えろよい)
(教えねーっつってんだろクソマルコ)
(まあまあ二人とも。エースが読まないって判断したんだ。誰だっていいだろう)
(うっせービスタ!お前にはぜってーぜってー教えねぇからな!!)
((((あ、ビスタ宛だったのか…))))
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