おはようとおやすみ
最近よく思う。
なんでこんな女に惚れちまったんだろう、と。
「うわ吃驚した!マルコの髪が全部抜け落ちる夢見た!!」
人のベッドを占領していた女が急にガバリと勢い良く起き上がった。
寝起き早々、第一声がこれだ。
この女が、俺の女。
それなりに惚れ込んでの付き合いなので、別に不満はねぇが、なんつーか、無意識に溜息が出た。
「え、なにマルコ。いきなり溜息とか酷くない?」
「おはよーさん」
「うん、おはよー」
付き合いたての頃は、寝起きでも「えへへおはようマルコ、ちゅー」とかなんか可愛い時期もあった。
が、いまはこれだ。時とは恐ろしい。
あの恥じらいや可愛らしさは今では皆無。平気で人のベッド占領するし、言葉も選ばねぇ。
「マルコ寝てないの?本当にハゲるよ?」
けらけらと笑うミアをどつきたくなった。
てめぇがベッド占領してたせいがろうが。
「書類チェック溜まってたからねぃ」
「ふーん。おつかれさまー。寝ないの?」
「もう朝だろい」
「少しは寝なよ。あとで起こしてあげる」
俺が寝れない状況を作った本人がよく言うよい。
だが、確かに徹夜はキツいな。数時間、寝るか。
「朝食終わる前に起こしてくれ」
「りょーかい」
にっこり笑ったミアは飛び起きてベッドの端に足を伸ばして座る。
「?」
「膝枕してあげる」
ぽすぽすと自分の膝の上をたたいて早くと急かすミアに、少しは可愛さも残ってたんじゃねぇかと口角を上げた。
ごろりと横になる。
ミアの膝の上は心地よく、疲れも溜まっていたため早くも睡魔が襲って来た。
「あ、マルコ、たんじょーびおめでとう!」
そういや、今日は俺の誕生日だったか。
目を瞑ったまま、受け答える。
「ありがとよい」
「今年で何歳?」
「聞くな」
「いひひ、まるこおじさん」
「……」
あまりおじさんを傷つけるもんじゃないよい
「ふふ、ハゲてもずっと好きだから安心してねマルコ」
「はいはいどーもねぃ」
「でも夢では不死鳥の力でもハゲはなおってなかったから、気をつけてね!」
「………。肝に銘じとくよい」
全く、一言余計なんだこの馬鹿は。
眠りに落ちる一瞬前に、「マルコ、おやすみのちゅー」と聞こえてきて口元が緩んだ。降ってきた慣れた感触に軽く応えて、それから俺は意識を手放した。
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