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今日はナースのお姉様方がお化粧をしてくれると言う事で、ナース室に行っていた。
色々な成り行きで、ナース服を着て、お化粧をして、髪も巻いてもらって。今まで着た事も無いくらい短いスカートには居心地の悪さしか覚えなかったが、初めてするお化粧や髪型に、イゾウも可愛いって思ってくれるかな、とどきどきと胸を鳴らす。

ナースさんにも可愛いって言ってもらえて、とても嬉しくて、でも半信半疑だった私のために、ナースさんが鏡を探してくれていたとき、敵襲を知らせる鐘が鳴り響いた。

久しぶりのその音に血が滾っていく。
今日はどこの隊が担当だったっけ。やばい、思い出せない。2番隊だったら、いいなぁ。戦いたくて体がうずうずする。
すぐにでも見に行きたいけど、折角ナースのお姉様方が私のために時間を開けてくれたのだ。失礼なことなんて出来ない。でも、今日の当番は2番隊だという一言を聞いて、私の頭は完全に戦闘モードへと切り替えられた。


一言ナースさん達へお礼を告げて、転がり出るように部屋を後にする。
久々の戦闘だ。腕がなる。

なんだかいつもより走りにくい気がしたが、そんなの構ってられない。
軽い足取りで甲板へと出ると、既にそこには2番隊以外のクルーが集まっていて、敵船に乗り込んで戦闘を始めているであろう2番隊に向かって声援や野次を飛ばしていた。
いつものこの風景に、テンションがマックスに上がる。



「ちょっとエースー!先に始めちゃうなんてずるい!!」



そう言って、敵船の方に向けて走り出す。
途中、他のクルーの驚いた顔が見えてはてなマークを浮かべる。あ、そうか。私が戦闘に遅れるなんてありえないもんね。クスリと笑みが漏れ、船の淵に足をかけて勢い良く敵船に向かってジャンプする。
空中から敵船の状況を見て把握する。結構な数が甲板に出ていて2番隊と戦っていた。
すとん、と甲板に着地し、それと同時に両サイドにいた敵に蹴りをお見舞いする。んん、上々!



「ごめん皆!遅れた!」
「おせーよバカミア!」
「お前が来る前に終わっちまうとこだったぜ!」



気の知れた隊員達に敵を薙倒しながら一言謝ると、応戦しながら顔も見ずに返事をくれる。私だけじゃない、皆久しぶりの戦闘を楽しみにしていたのだ。



「おい、なんでこんな所にナースが、………?」



甲板の反対側からエースが飛んで来るのが見えたので、とりあえず向かって来る敵の顔面に拳を入れて、エースに向かって手を振る。
途中まで怖い顔してこっちに来ていたけど、私の目の前で止まると、エースは口をあんぐり開けて固まってしまった。敵船でそんなアホ面晒すの、エースくらいだよ。あまりの間抜け面に吹き出してしまう。



「なにその顔。面白いんだけど」



右から来る敵に蹴りを入れながらエースに話しかける。
エースはそのままの間抜け面で私に受け答えた。



「え、いや。うちのナースがいると思って、とりあえず船にと思ったんだが……。お前、ミアだよな?」
「はぁ?何わけ分かんないこと言ってんの?あ、ちょっと、!」



丁度エースの後ろから斬り掛かろうとしている敵がいたので、エースの肩に手を乗せそのまま飛び上がって相手の頭に踵から蹴りを食らわす。
エースならこんなのすぐに避けられるの分かってるけど、あまりのアホ面に避ける気もないようだったので、代わりに敵を伸した。
それでもエースは変わらぬ表情でこちらを見ていて。全く、やる気あるの!?



「エース!なにぼーっとしてんの!戦闘中よ?」
「ああ…」
「って、マーティン危ないっ!」



またもぼけっとこちらを見ているクルーの後ろから敵が斬り掛かろうとしていたのが見えて、素早く移動し、回し蹴りで相手を沈める。と思ったら別のクルーもエースに負けない間抜け面で隙を作っていたので、そちらも薙倒す。



「ちょっと、皆どうしちゃったの!?隙作りすぎ!」
「「「「「いやお前がどうしたんだよ!!??」」」」」



ノリツッコミのような皆の反応に、逆に私が悪い事している気分になって押されてしまう。



「な、なによ皆して…」
「いや何って、その格好……」
「格好…?」



はたと気付く。
ナース服に、ニーハイブーツ。
気付いた瞬間に、焼け死ぬかと思うくらいボッと顔が熱くなった。
今日はやけに足技が出しやすいなぁと思っていたが、それもそのはず。厚底効果で足のリーチが少し伸びたのに加え、短いスカートなのだ。足が回し易いはずだ。つまり、色々と、見えていた可能性が高い。



「や、わ……ちょ、見ないで」



急に恥ずかしくなり、短いスカートをこれでもかと下に引っ張る。あまり効果はないようだったが、少しでも隠したかったのだ。

でもここは敵船の上。個人の事情なんて知った事ではない。
敵が容赦なくアホ面のクルーに切り掛かろうとしたのが見えて、体術では間に合わないと思い、腰のベルトの常備されている銃へと手を伸ばす。が、いつもの感触が見つからず、同時にしまった、と顔を歪めた。銃は、ナース室で着替えたときに置いてきてしまっていたのだ。



チッと舌打し、一か八か駆け出そうとしたそのとき、聞き慣れた銃の音が敵の頭を貫いた。
まさか、と思って後ろを振り向くと、そこには、ここにいるはずもないイゾウが立っていて。
さっきの銃はやっぱりイゾウだったんだと理解する。



「おいおめぇら、雑魚だからって手ぇ抜きすぎだぞ」



当たり前のように、敵船の甲板に乗り、イゾウはこちらへ歩いてきた。
2番隊の皆も、イゾウの一言にはっとしたのか、また戦闘を開始する。



「ちょ、イゾウ!なんでここにいるの?今日は2番隊の当番だよ!」
「お前さんはこの期に及んで戦闘第一かい」
「だめだめ!16番隊の番じゃないんだから、手出しちゃ、だめだからね!」
「俺が手ぇ出すのはこいつらじゃねェよ。俺の目的はお前だ」
「は?」



がっしりと腕を掴まれ、ずるずると船室まで引っ張られる。



「おいエース。この船まだ沈めるなよ。あと、中には誰も入れるな」
「あー。はいはい。もう好きにしてくれ」



がしがしと頭を掻きエースはこちらに哀れみの目を向ける。
ちょっと、何でそんな目で見るのよ!

なおも引っ張られる腕に反抗したかったが、イゾウの雰囲気が少しピリッとしていたため、おとなしくそれに従う。
船内に入り、バタンとドアが閉められる。船内は甲板と比べてしんと静まり返っていた。きっとこの船の全員で甲板に出て戦っていたんだろう。
あーあ。もっと戦いたかったなぁ。



「もっと戦いたかったか?」



顔に出ていただろうか。思っていた事を言い当てられてどきりとする。
ブーツのせいでいつもより近いイゾウの顔から目を逸らせない。



「こんな格好で、なぁ?」



すす、とスカートとブーツの間の足にイゾウの手が這う。
背中がゾクリと粟立って背筋がピンと伸びた私に、くつりとイゾウは喉を鳴らした。



「化粧もしちまって」
「あ、」



顎を持ち上げられじっくりと顔を見られる。
急に、背が高くなったからキスがし易くなるわ、と言ったナースの言葉を思い出し、顔が火照った。



「皆に見てほしかったのかい」



皆に見てほしくてしたわけじゃない、とブンブン首を横に振る。
私がお化粧をしようと思ったのも、普段慣れない事をしようと思ったのも、全部イゾウのためだ。イゾウに可愛いって思われたかったからだ。
勘違いしてほしくなくて、それだけは伝えなきゃ、と口を開く。



「違うよ、。イゾウに、見てほしかった」
「じゃあ、来る場所が違うんじゃねェのかい」
「ご、ごめん。だって敵船が来るとは思わなかったんだもん」
「俺より先に他の奴らに見せたのは、気に食わねぇな」



すぐ近くでドンと大きな音がして、体がびくりと跳ねる。
何かと思ったら、イゾウが後ろ手でドアの向こうを銃で撃ったところだった。
イゾウは視線も逸らさず私を見ていたから、ドアの向こうに敵が近づいてきていることなんて、全く気付かなかった。
吃驚してドアの向こうを見ていたら、またぐいっと顎を持ち上げられ、無理矢理視線を合わせられる。



「お前さんは俺を見てりゃあいいんだよ」



どくりと体全体が脈打った。
イゾウはそのまま手を横にずらし、親指で私の唇を強くなぞる。



「綺麗に紅も引いちまってなぁ?」



親指は唇を離れ、そのまま頬へと平行線をなぞる。
あ、きっと、口紅が頬まで付いてしまった、。



「こんなの、喰ってくれっていってるようなもんだろうが」
「、っ、」



返答の言葉も許さず、噛み付くようなキスをされる。
何度も、何度も、角度を変えて行われるそれは、私の息を奪い、酸素を奪い、思考を奪い、何も考えられなくする。すぐ外で行われているはずの戦闘の怒号もなにも耳に入ってこない。



するりと私の髪に通されたイゾウの手にも、ぽとりと落ちたナースキャップにも、私は気付く事は無かった。










(つーか外片付いたんだけど……)
(あの二人出てこねぇな…)
(誰か呼びにいけよ)
(怖ぇぇ!行くかよ!どんな罰ゲームだ!)





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