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先日お化粧の仕方を教えて、なんて可愛い事を言って来た戦闘大好き2番隊の女の子、ミアちゃん。
元はいいのに、全くお洒落に興味ないみたいで、私たちナースの中でもどうにかなんないのかと話題に出ていたのだ。
そのミアちゃんが、何があったのかは知らないけど、急に私たちのところにきてそんな可愛らしいお願いをして来たものだから、私たちナースはこのチャンスを逃すものかと沸き立った。結局私たちのギラギラの目にミアちゃんが恐れをなして、お化粧講座は後日改めて、と言う事になったのだ。

そして今日がその日。



「あ、あのあの、あの、私、どど、どうしたら…?」
「ミアちゃんは座ってればいいのよー!」
「そうそう、今日は初日なんだから、習うとか思わずに、私たちに任せて!」



お化粧教える前に、今日はどんなのがミアちゃんに似合うのか色々試すのだ。まぁつまりは私たちのオモチャになるわけだけど。
ガチガチに緊張してるのが見て取れるミアちゃんに、戦闘では大の男もなぎ倒すのに、と笑いが漏れる。



「あ、折角だからお化粧の前に着替えちゃおうよ」
「それもそうね、折角可愛くなってもいつものその格好じゃ、雰囲気も半減だものね」
「えぇ!?服も着替えるんですか!?」
「誰かミアちゃんに合う服持ってるー?」



ミアちゃんの言葉も無視して、わいわいとナース達で盛り上がる。
結局、可愛い服を一枚も持っていないミアちゃんは(これもどうかと思うけど)、私たちの予備のナース服を着せる事にした。残念ながら私たちの私服は、胸の部分が余ってしまったのだ。それに比べてナース服なら誰が入ってきてもいいように、とりあえず全部のサイズが揃えられている。



「あら、似合うじゃない、ナース服!」
「この際ミアちゃんもナースになっちゃいなさいよ!」
「わわわわ、み、短いですスカート…!すーすーします…!!」
「いつもパンツだものね、ミアちゃんは」
「でも女の子らしさぐんと上がったわよ。これならイゾウ隊長も惚れ直すわ」
「え!ほんとですか!」



ぱぁっと輝くような笑顔で聞き返すミアちゃんは本当に可愛くて、私たちは次々に可愛い!!と抱きつき頬擦りをする。
こんな可愛い子がイゾウ隊長の彼女なんて、イゾウ隊長も幸せ者だ。



「それにしても、ヒール結構高いですね」
「すぐ慣れるわ」
「そうそう。それでちょっとは身長高くなったから、イゾウ隊長とキスしやすくなるわよ」
「んな、!!そ、え!?ちょ…!」



完全に私たちに遊ばれているミアちゃんは、一気に赤くなった顔を両手で覆う。本当に可愛いんだから!

着替えも終わったので、早速お化粧に移る。
ミアちゃんのお肌はすべすべで、化粧ののりもよくってうらやましい限り。
こっちの色が似合うんじゃない?でもイゾウ隊長はこっちのが好きそう、とわいわいきゃっきゃっと盛り上がる私たちは全く海賊船に乗っている人とは思えない。

たっぷり時間をかけて女の子になっていくミアちゃん。
おとなしく椅子に座り、お化粧が済むのを待っている。
可愛く仕上がっていくミアちゃんの隣で、私はさらさらの髪の毛を巻いていく。



「ミアちゃん髪の毛巻くの初めて?」
「あ、はい!初めてです。いつも無造作ヘアなんで!」
「無造作ヘアなんて…。今度からちゃんとお手入れしなきゃだめよ?」
「お手入れですか…。面倒そうですね」
「女の子が面倒なんて言っちゃダメ!」
「ご、ごめんなさい」



しゅんとする姿も可愛い。
私にもこんな可愛い時期があったかしら、とミアちゃんと同じ歳だった頃を思い出す。



「ふふふ、じゃあ今度私のとっておきのシャンプーあげるわ」
「え!本当ですか?」
「それだけでも違うんだから。潮風は髪をすぐ傷めちゃうでしょう?」
「わー!嬉しいです!ありがとうございます」



髪もふんわりと巻き終わり、お化粧の方もどうやら終わったみたいだった。
いつものミアちゃんも可愛いけれど、お洒落をしたミアちゃんは大人の魅力が増したみたい。
最後に、私たちとお揃いのナースキャップを頭につけてあげる。



「私たち、天才かも…!!」
「ミアちゃん、すっごく可愛い」
「ほ、本当ですか!?信じがたい、ですけど…」
「ちょっと鏡どこ、鏡!」
「同じ服でもここまで可愛くなるのねぇ…。私たちも頑張らなきゃ!」



この感動をミアちゃんにも伝えるため、皆で鏡を探していた時、かんかんかーん!と敵襲を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
流石2番隊、鐘の音を聞いた瞬間に目の色が変わる。けどこの船が負けることなんて、万に一つもないわけで。私たちも焦る事無くのんびりと対応する。



「敵襲なんて珍しいわね」
「それより鏡よー。どこー?」



ミアちゃんは私たちが鏡を探すのを律儀に座って待っている。けど、そわそわとしているのが見て取れて苦笑が漏れる。見に行きたいんだろうなぁ、戦闘。
と、そこまで考えたときに、ふと今日の戦闘の当番を思い出した。



「そういえばミアちゃん。今日の戦闘って2番隊の担当じゃなかった?」
「え!そうでしたっけ!?」
「多分、そうだったと思うけど…」



返答するよりも早く、ミアちゃんはがばりと席を立ち、扉へと向かう。



「あの、ありがとうございました!私、ちょっと敵船つぶしてきます!!」



きっと、敵船が来たと分かった時から戦闘のことで頭がいっぱいで、自分が今どんな格好してるかだなんて、完全に忘れてしまっているんだと思う。
私人なんて殴った事ありません、というような可愛い出で立ちで、全く正反対のことを告げて、ミアちゃんはぺこりと頭を下げて部屋を出て行く。

あっと言う間の出来事で止める間もなく、私たちナースは唖然と顔を見合わせる。



「……あのまま行っちゃったわね」
「すごいお披露目会になりそうね……」
「まぁ、楽しそうよね」
「皆の反応、見てみたいしね」



にやりと顔を見合わせて笑った私たちは、すぐさま扉を開けて、既に姿も見えないミアちゃんが向かったであろう甲板へと走り出した。

























「ちょっとエースー!先に始めちゃうなんてずるい!!」



甲板へと到着したと同時に、ミアちゃんの可愛らしい声が聞こえる。
タンッと船の淵を蹴り飛んでいったナース服の子に、口元が緩む。あぁ、あの子、やっぱりあのまま敵船に行っちゃった。

数分遅れて私たちも先程ミアちゃんが船を飛び降りた場所にたどりつき、息も絶え絶えに敵船を見る。船の中をこんなに走ったことなんて、今までないかも。特に敵船を私たちが見に来ることなんて、ほとんどない。
それにしても、ミアちゃんの跳躍力には驚きを隠せない。ここから敵船までは結構あって、私たちなら1メートルも飛ばずに海に落ちる事は確実だ。



「お、おい!お前ら!さっきナースが敵船に乗り込んでったけど、大丈夫なのか!?」
「俺たち止めようとしたんだけどよ、まさかナースが敵船に乗り込むなんて思わなくて、止めきれなかったんだよ」
「つーかアレ、新入りか?見た事無い顔だったけど…」



私たちが来たのが分かると、周りにいる2番隊以外のクルー(つまり戦闘を楽しみに来た暇なクルー達)が焦り顔で話しかけて来る。
本日2度目。ナース皆で顔を見合わせぷっと吹き出した。
はてなマークを浮かべるクルーに、あれ、とミアちゃんを指差した。



「戦うナースさん。格好いいでしょう?」
「まぁ、ナースじゃなくて、2番隊の隊員だけどね」



くすくすと笑う私たちに半信半疑でクルーはまた目線を敵船に戻す。
回し蹴りに肘鉄、踵落としと見事に敵を沈めていくミアちゃん。可愛いけど、やっぱり戦ってる時の方が輝いている気がする。



「……あの戦い方」
「………ああ。」
「……まさか、ミア、か?」



やっと気付いたみたい。
笑いを堪えきれない私たちとは反対に、クルーの皆はえーーーー!と一斉に驚く。
中には頬を染めて、いやまぁいいんじゃないか、とか言っているクルーや、ナース服で回し蹴りは最高だな、とか言っているクルーもいて、大成功、としたり顔の私たち。
なんで見えそうで見えねぇんだよ、とちょっと的外れな事を言っているクルーもいたけど、それはスルー。






「お前さんら、俺のモンに結構な事してくれたじゃねぇか」



ふと隣から声が聞こえてきて、振り向いたら16番隊の隊長さんがいた。いつの間に来ていたのか、全く気付かなかった。



「本当はイゾウ隊長に一番に見せるはずだったんですけど。まさかの敵襲に、ミアちゃん走って出て行っちゃって」
「アイツは戦闘となると周りが見えなくなるからなァ」



イゾウ隊長は周りの反応とはかけ離れた落ち着いた態度でそう言った。



「お気に召しませんでしたか?」
「いや。ミアがお前さんらに頼んだんだろう?」
「それは、そうですけど…」
「いい仕事をしたとは思うが、こりゃあ、あまり気分のいいお披露目の仕方じゃねぇなぁ」



そう言ったイゾウ隊長は、先程のミアちゃんと同じように、船の淵に足をかけ、敵船へと乗り込んでいった。



あらら?
もしかして、これは、思った以上に大成功なんじゃないかしら?



本日3度目。
ナースの皆と顔を見合わせて、やったぁ!とハイタッチをした。






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