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恋せよ乙女!


私には好きな人がいます。
それは、同じ船に乗っている2番隊隊長のポートガス・D・エースさん。

太陽みたいな笑顔でいつも周りを明るく照らして、強くて頼りになって、よく寝てよく食べて、本当に見ていて飽きません。


でもきっと、エース隊長は私の事を好きではありません。
というか、おそらくこの大きな船の中で私の事が一番嫌いなんじゃないでしょうか。


根拠となる例をあげると、

一、
「お前相変わらずどんくさいよな」
バシリと肌が赤くなるくらい容赦なく背中をたたく。

二、
「お前ちょろちょろ動きずぎ。うぜぇ。ネズミか」
心底目障りだという目でにらんでくる。

三、
「自分とナース見比べた事あんのか?短い服着て太い足だしてんじゃねーよ。目が腐る」
こちらも見ずに深いため息。

などなど。
何度心臓をズタズタに切り裂かれた事か。
それでも、私の心臓には毛がびっしり生えていたようで、こんなに嫌われていても私の気持ちは変わっていない。
だって、彼の笑顔を見るたびに、声を聞くたびに、条件反射のように胸が高鳴るんだもん。


だから、こっそりずっと心の中に秘めておく事にしました。
しかたないですよね。だって、嫌いになれないんだもん。叶わないんだもん。
誰にも言わず、けど彼に会ってしまうと、きっとまた心臓にダメージを与えられてしまうので、これからはエース隊長を遠くから眺めておく事にしました。
それならエース隊長を煩わせないし、私も傷つかなくていい。

ここ1週間程はそうやって過ごしている。(ストーカーではないですよ!)
意外とこの生活は心穏やか。エース隊長も、皆の中で笑っていて楽しそう。
いつかあの笑顔が私に向けられたらって思っていた時もあったけど、今はこの現状の方が幸せだ。





「ミアちゃーーん!」
「サッチ隊長。どうしたんですか?」
「今船の横によ、プール作ったんだけど、泳がねぇ?今日暑ィし」
「え!いいですね。涼しそう」
「だろ。もう皆行ってるから。着替えてすぐ来いよ」
「はい!」


確かに今日は暑かったし、サッチ隊長のお誘いはとても魅力的です。
船の横に即席プール(といっても、結構しっかりしいて、サメとかが入って来れないようになってるものです。もし入ってきても皆さん強いから結局その日の夕食になっちゃうのですが。)を作るのは、夏島が近いとよくあること。


急いで部屋に戻り、お気に入りの白い水着に着替える。
きっと、エース隊長は来ないと思うし、私が行っても問題ないでしょう。(エース隊長泳げないですし!)
サッチ隊長から聞いていた場所に行くと、既にそこにはサッチ隊長を含むクルー達が泳ぎ始めていた。


「おー!ミア!おせーぞ!」「早く来いよ」と下から声を掛けてくれる仲間に手を振り、助走をつけて船の縁を蹴り、勢い良く海へダイブした。
結構な高さがあったけど、私だって海の子だもん!全然平気です!



「ぷはっ」
「お前あぶねーなぁ」


海から顔を出したところで、近くで泳いでいたらしいサッチ隊長がけたけたと笑ってご自慢のリーゼントを押さえた。
久しぶりの海は冷たくて相変わらず気持ちいい。


「サッチ隊長!あは、ごめんなさい!」


バタバタと水中で足を動かし、自身を浮かせながらサッチ隊長と向き合う。
足なんてもちろんつかないので、沈まないように体を浮かせ続けなければならない。これ、結構大変なんです。
浮き輪やエアマットに乗ってるクルーもいたから、疲れたら貸してもらおうと心に決める。


と、サッチ隊長から視線をずらしていたら、顔に思いっきり海水を掛けられてしまいました。


「〜〜〜ッッッ!!…、サッチ隊長!鼻!入りましたッッ!」


顔を片手で押さえながら、空いているもう片方でサッチ隊長に海水を掛け返す。
これくらい許されるはずです!


「、ぶはっっ!おまえ…!」


それからサッチ隊長との水掛大会が始まった。
でもさすがに何十分もしていると、私の手も足も限界で。サッチ隊長はまだまだ余裕みたいで少し悔しいですけど…。


「サッチたいちょー!ストップ!タイムですタイムっ!」
「なーに、負けを認めんのミアちゃん?」
「違いますよー。次に持ち越しです。私の体力がもう持ちません」


沈んじゃう、と辺りをきょろきょろ見回し、浮き輪を持っているクルーを探す。
でも、浮き輪クルーは結構離れたところにいるみたいで、私には多分そこまで泳ぐ気力がない。


「どうしよ…」
「なに、浮き輪欲しいの?」
「はい。けど、取りにいくの遠いなーって」
「別にいいじゃねーか。お兄様に掴まれば」


お兄様にあるまじきしたり顔でサッチ隊長は私に手を差し出した。


「ありがとうございます、浮き輪お兄様」


まあ、沈むよりはいいですよね、と私もサッチ隊長の手を掴む。



「おいミア!!!」



いやお前その呼び方は全然ときめかねぇよ、とこぼしていたサッチ隊長の言葉をかき消して、大好きなあの声が聞こえてきて私の心臓は飛び跳ねた。
反射的に船の上の方を見る。


…いました。


太陽の笑顔は消えて、眉間に皺を寄せ、とても不機嫌そうなエース隊長。
また、気に触るようなことを無意識にしていたのでしょうか。
まだ名前を呼ばれただけなのに、体が強ばってしまう。


「お前、ちょっと来い」


有無を言わせぬ低い声に、お前なんかしたのか?とサッチ隊長に耳打ちされる。


「早くしろよ!」
「はっ、はいっ!」


サッチ隊長への返事の代わりに、目線で謝り、急いで船の上にあがる。
船の縁に足をかけ、エース隊長の前に降り立つ。
と同時にバサリと大きめのタオルが頭に掛けられた。


「??」
「、来いっ」
「あっ」


右手を引っ張られ、転びそうになりながらついていく。
途中、タオルが落ちそうになり、慌てて体に巻き付けて左手で押さえる。
そんな私の動きも全く気にせず、ずんずんと進んでいくエース隊長。


「あ、あ、あの、どこに…?」
「うるせぇよ」
「……、」


本当に、私は何をしてしまったのでしょうか。
こんなに怒らせるような事……


陽の当たる船外から船内へと移り、廊下をずんずんと歩いていく。
すると見慣れた部屋の前で急にエース隊長が止まり、私の右手も解放された。


「わたしの、部屋?」


回れ右でぐるりと私の方を向いたエース隊長に、体がビクンと反応してしまう。
未だ、眉間の皺がとれることはなくて、私は自然とうつむいてしまう。
さっきまでエース隊長に触れられていた右手首が赤くなっているのを、視界の端で確認して、さらに気持ちが沈んでいく。


「………おまえさ、」
「、はい」


どうしよう。
何を言われるのか、怖くて顔が上げられない…


「…本っ当にむかつくんだけど」
「……ッ」



泣くな、泣くな…!



「こんな格好して、アホじゃねーの?」
「…、に、似合わないですよね…」



はは、と今出来る精一杯の笑顔で、返答する。
でも、だめです。やっぱり顔が引きつってしまう。



「………だれも似合わねーとは言ってねーけど」



……………え?



「けどもう着るな。目障りだ」



視線をそらし、ぶっきらぼうに言葉を投げられる。
けど、さっきエース隊長から言われた言葉が頭から離れなくて、。
今までさんざん言われてきたマイナスな言葉もさっきの一言でプラスになってしまうくらい、嬉しくなった。



「はぁ……ホント、お前見てると腹立つわ」



ガリガリと頭を掻くエース隊長。

エース隊長、もう、遅いですよ。
プラスになりきれないさっきの一言でも、私の心は嬉しくなって、プラスに変えてしまったんですから。
それに、私、エース隊長に確認しなくてはいけない事が出来てしまいました。
返答次第によっては、私まだまだがんばれると思うんです。



「あの、エース隊長。…一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「あ?なんだよ」
「あの、今日、その、……なんで私にむかついたんですか?」
「そんなの…知らねーよ。


 つーか、


 ……お前と、サッチが遊んでるの見たらむかついたんだよ!
 それに、お前最近オレの所こねぇし…」



そんな、
それって……



「とにかく!お前はもう泳ぐんじゃねぇ。部屋入ってさっさと着替えろ!」



わかったな!とそう叫んで、エース隊長は私を置いて船外へともどっていった。






ねぇ、エース隊長。
それって、私、少しは期待していいってことですか?





とりあえず、着替えて私の心臓が落ち着いたら、
キッチンから甘いおやつを貰って、会いにいきますね。


待っててください、エース隊長!
やっぱり私、まだまだあなたのことあきらめきれません!




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