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内緒の告白




一週間前、人生初の告白をされた。
5番隊の隊員さんで、すごくいい人だった。
でも私には好きな人がいたから、凄く嬉しかったし申し訳なかったけど、断った。隊員さんは悲しそうな顔をしたけど、笑って私の恋を応援してくれた。


そして、私なんかに告白してくれる隊員さんのその勇気を見て、私も自分の気持ちを伝えなきゃって思った。
告白って、とても勇気のいるものだから、今まで告白しようなんて考えもしなくて。
想うだけでも恐れ多い相手なのに、告白なんておこがましいとさえ思ってた。
でも告白されてわかった。言わなきゃ始まらないし伝わらない。もしそれで終わってしまっても、きっと後悔はしない。むしろ本来私なんて好きになんてなってもらえない対象なのだ。伝えられるだけでも満足だ。


だから私はこの想いを今日こそは伝えようと、勇気を振り絞ってあの人の元へと駆けた。



「あ、イゾウ隊長!」
「なんだ、ミアじゃねぇか。どうした?」
「あ、あの、イゾウ隊長、今お時間…」
「ん?あ、おいエース!てめぇ昨日俺んとこの隊員の分のメシ食ったらしいじゃねえか」
「え、あ、あの、いぞうたいちょ…」
「うわイゾウ!悪ィわざとじゃねぇんだって!」
「態とじゃなけりゃあどうやってあんだけの量食うんだ!って逃がすか阿呆が!!」
「……イゾウ隊長…」



でもあれから、何度イゾウ隊長に話しかけても誰かの邪魔が入ったり、うまくかわされたり。



「イゾウ隊長、あのお話があるんですけど!」
「やけに積極的じゃねぇか、どうした?」
「はい!あ、あの!私、!………な、なんでもありません………」
「クク、折角聞いてやるってんのに、変な奴だな」



痺れを切らして強気で言ってみて、やっと聞いてくれるって嬉しくなったのに、いざ告白しようとしたら食堂の真ん中だったり。(所構わず付きまとった私が馬鹿だったんだけど)



やっと二人きりになって今だ!って思ったら、


「昨日サッチがナースに言い寄って玉砕したらしいぜ」


って、心底楽しそうな顔でタイムリーに私の心を砕くようなことを言ったり。
サッチ隊長ほどのお方が振られてるのに、私なんかがうまくいくはずない。
いや、うまくいくなんて端から思ってないけど。



そういうことが何度か続いて、心が折れそうになっていたとき、ふと気付いた。
きっと、イゾウ隊長は私の気持ちに気付いている。気付いた上で話をそらしている。
それって、きっと、私とは隊長と隊員のままでいたいって言うことなんだと思う。
所詮、同じ隊とはいえ雑用係の私が隊長を好きになるなんて、あってはいけないことだったんだ。


甲板の後ろ、誰にも気付かれない隅の方で肩を落とす。
わいわいと元気な声が聞こえる甲板を見ながらイゾウ隊長のことを想う。



もう、あきらめようかな。



伝えなきゃ始まらないって思ったけど、伝えられないならどうしようもない。
正確には伝えられないんじゃなくて、伝えさせてもらえないのだけど。

ふと視界の端に先日私のことを好きと言ってくれた5番隊の隊員さんが見えた。

彼を好きになれたら、きっと私は幸せになれるんだろうな。
…、彼なら、この気持ち忘れさせてくれるかな。

馬鹿なことを思ってるってわかってる。彼の優しさにつけこむなんて、最低だ。
でも、わかってるけど、足は勝手に彼に向かって歩を進めだした。



「おいミア」



低く落ち着いた声に名前を呼ばれると同時に、後ろからおなかに手をまわされ抱き止められる。
一瞬の間をおいて、それがイゾウ隊長だとわかると私の頭はパニックになった。



「たっ、隊長!?」



じたばたと暴れ距離を置こうとする私をいとも簡単に押さえつけ、おなかに回された手は先ほどよりも強く私を拘束する。



「お前今何しようとしてたかわかってんのか?」



どきりと心臓が跳ねた。
見られてた。あのクルーのところに行こうとしたとこ。

ばくばくと鳴る心臓は、それが見つかってしまったからなのか、後ろから抱きすくめられて喋るたびにイゾウ隊長の吐息が私の首筋にかかるからなのかはわからない。



どうしよう。どうしよう、どうしたらいい?



「…あいつのとこに行くのか?可哀想になァ、お前さんに利用されて」



クク、と笑い、イゾウ隊長は楽しそうに私の耳元でそう言う。
確かに、私は彼を利用しようとした。正論を言われて顔が熱くなったけど、イゾウ隊長にだけはそんなこと思われたくなくて、言われたくなくて。少しでもいい子に見られたい私は「違います!」と反論する。



「じゃあなんだ?飯事でもしに行く気だったのかい」
「、それは…」



口篭る私に畳み掛けるようにイゾウ隊長は囁く。



「お前さんが惚れてんのは俺だろう」



唇が触れるか触れないかの距離。耳元に息がかかる。
頭の中でイゾウ隊長の言葉が何度も響く。
言わせてくれないのに、なんでイゾウ隊長が言うの、。
言葉なんて出てこなくて、代わりに真っ赤になった顔を俯かせる。

どうしようやだやだやだ逃げたい…!!

ぐるぐると無駄な思考を繰り返しながら、お腹にまわされたびくともしない腕を睨んだ。



「そういや、俺に言いたい事あったんだろ?聞いてやるよ」



もう、頭がついていかない。
何で今なの?

拘束していた腕が急になくなり、身体を反転させられる。
解放されたと思ったのに、気付いたらイゾウ隊長が目の前にいた。
逃げようと思ったのに、後ろは壁、両側にはイゾウ隊長の腕があって、逃げられない。

やだ怖い近い熱い逃げたい…!

状況判断も出来なくなるくらいに私には余裕がなかった。



「どうした?早くしねェと俺の気が変わっちまうかもな」



片腕を折ったため、ぐんと近くなったイゾウ隊長に激しく心臓が鳴る。
もう片方の手は私の髪を弄り始めた。


私の知っているイゾウ隊長はこんなこと言うような人じゃない。
いつも優しくて、格好良くて、小さなことにも気がついて…。こんなに意地悪な態度を取るような人じゃなかったはずだ。
でもそれでも身体は正直で。私の脈は速くなる。やっぱり、すきなのだ。

だけどこんな状況で気持ちを伝えることは不可能に近い。
だって、口元を緩めて妖艶な笑みを浮かべているこの人は、私の反応を見て楽しんでいるだけなのだ。



「も、知って、るじゃ、ない、ですか…」



なんでこんなことするんですか、?
必死にひねり出した声は言葉になっていない。けど言い直す気にもなれない。



「本人から聞いてねぇことに確証はもてねぇな」



もういやだ。逃げたい、
私に、イゾウ隊長が好きだと言わせて、何がしたいの?
言ったら、どうなるの?その後私はどうなるの?

またぐるぐるとした思考に引き戻され何も話せなくなる。



「やっぱり俺の勘違いだったか?」



ククと喉で笑うイゾウ隊長はきっとそんなことなんて思っていない。
私の髪を弄っていた手が止まり、俯いている私の耳に落ちた髪をさらりとかけた。
その仕草だけでもばくりと鳴ってしまう心臓は、きっと病気なんじゃないだろうか。



「じゃあ仕方ねぇな。引き止めて悪かった」



永遠に続くかとも思われたその時間は意外にもあっさりと終わってしまって。
私の上に落とされた影がなくなり、イゾウ隊長は甲板の方へと歩きだす。

ゆっくりと離れていく背中がざわざわと私の胸を掻き乱した。
さっきまで逃げたいと思ってたのに、やっと意地悪なイゾウ隊長から解放されると思ったのに。
おかしいな、なんか嫌だ。

行ってほしくない。
イゾウ隊長、いやです、行かないで、
行かないで…!



「や、です!!」



ポロリと目から涙が零れた。
気付いたら私は数歩先のイゾウ隊長に駆け寄って、着物の袖を掴んでいた。
無言で振り向いたイゾウ隊長は、それはもう満足そうな笑みを向けていて。
また意地悪言われるかもしれない、と思ったけど、それでもいい。
それでもイゾウ隊長の傍にいれることの方が嬉しい。


「…なにが嫌なんだ?」



にやりと口角を上げ、振り向いたまま腕を組んだイゾウ隊長は私に訊ねた。
けど、その質問に答える余裕は今の私にはない。
言うんだ。
言わなきゃ、私の気持ち。



「あの、あの…!」



汗をかいた手を握り締める。



「わたし、た、隊長のこと、」



体中の血がめぐってるのがわかるくらい、あついし、どきどきしている。
でも、しっかり伝えるんだ。



「ずっとずっと、」



悲しいわけじゃない。
高ぶった感情の所為でまたポロリとひとつ涙が零れ落ちた。



「す、好きでした…!」



胸の中にずっと秘めていた想いを伝える。
顔が熱くて、心臓がうるさくで、でも伝えられた奇跡に少しだけほっとする。



「……そうかい」



私の今の気持ちとは正反対の、低く落ち着いた声が聞こえて、まっすぐにイゾウ隊長を見ると、さっきまでの笑みは消えていて、そうかと、その一言だけが返ってくる。
わかってたけど。イゾウ隊長にはただそれだけのことだって、わかってたけど、。
それでも心は痛くて。
こんな私見せたくなかったけど、制御のきかない涙がぽろぽろと零れだす。


いいんだ。
伝えるだけで、満足だったはずだ。
これ以上何かを望むなんて、欲張りすぎる。



「…過去形か?」
「え、?」
「過去形なのか?」



言われた意味がわからなくて、出てくる涙はそのままに聞き返す。
もう一度繰り返された言葉を頭の中で反芻した。



“ずっとずっと、好きでした!”



はっとし、イゾウ隊長を見上げる。
そして、そのまま、もう一度、今度は正しく伝えた。



「いまも!今も好き、です!!」



ぐす、と鼻をならしながら叫ぶように言う。



「ずっと、好き、です…」
「…少し、虐めすぎたみてぇだな」



イゾウ隊長は、いつもの優しい顔でフッと笑い、頬の涙を片手で拭ってくれた。
声音もいつもの優しいのに戻ってくれて、ほっと息を吐く。

と同時に、イゾウ隊長の顔が近づいてきて、何も考える暇もなく、もう片方の頬の涙をぺろりと舐め取られた。

呆然としている私の目を見て、にやりと笑ったイゾウ隊長は意地悪な顔に戻っていて。
あれ、さっきの優しいイゾウ隊長は、見間違い?と思ったら、今度は柔らかくて温かいイゾウ隊長の唇が、私の唇に触れた。



「よく出来たご褒美だ」


口元を上げながらぺろりと唇を舐めたイゾウ隊長は、それだけ言うと今度こそ甲板へと歩いていった。

へたりとその場に座り込み、呆然とイゾウ隊長の背中を見続ける。

いったい、何が起こったのだろうか。
これから、私はどうすればいいのだろうか。



やっぱり、イゾウ隊長は意地悪だ。



しばらくは戻りそうにない私の赤い頬と、力が入らない身体に、すぐにでも部屋に帰ってしまいたい私は途方にくれた。






(応えてやるよ、お前の気持ち。が、虐めんのもまだ捨て難ぇな)










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