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エースに引き留められた手が痛い。
エースは私と話がしたいと言った。
けど、この後に及んで私はまた口を閉ざす。
なんて卑怯ものなの。
でも、こんな状況私には耐えられない。どうせ終わるなら、このまま行かせてほしい。


掴まれた手を振りほどき、今度こそドアに手をかける。



「すきだ」



不意に聞こえてきた声は、この場には不釣合いな遠い昔に耳元で囁かれたそれで。
時が止まったような感覚に、私の手も動きを止めた。

その瞬間を逃すまいと、エースの指が私の後髪をするりと掴む。私が動けばすぐにこぼれ落ちてしまうだろうそれは、今の私とエースを繋ぐ唯一のものに思えて、私は一歩たりともその場から動けなくなった。



「俺はミアのことが好きだ。大事だし、守りてぇ。ミアが俺の事もう好きじゃないなら、それでも構わねぇ。でも、その前に、ちゃんと、話がしたい。」



私、エースのこと好きじゃないなんて、一言も言ってない。
私はエースのこと大好きなのに、なんでそんなこと思うの?


するりと私の髪がエースの指からこぼれ落ちる。振り返った私は、言葉を発する事もせず、今日初めて、エースの目を見つめ返した。そして、哀しみがうつるその目を見て気付く。私が最後にしっかりとエースの目を見たのっていつだっただろう。こんなに哀しそうな目をさせていたのに気づかなかったなんて。

エースの目を見てたら、急に線が繋がった気がした。
エースを遠ざけてたのは私だ。嫌われるのが怖くて、本音を伝えるのを避けた。エースはいつもみたいに接してくれていたのに、卑屈になって素直にそれを受け取らなかったのは私。
すごくシンプルな事。
今、エースが伝えてくれたみたいに、私も伝えなきゃダメだ。
素直にならなきゃ、私達終わっちゃう。



「エース…」
「ミア。俺、お前のことすげぇ好きだし、ミアのことなら何でも分かるって思ってた。けど、今のミアは正直よくわかんねぇ。あんま笑ってくれなくなったし。言いたいことも呑み込んてるみてぇだし…」
「エース、私ね、」



言わなきゃ伝わらない。
嫌われてしまうかもしれないけど、私の気持ち、伝えなきゃ二人とも前に進めない。



「私、エースのこと、すき。凄くすき!」



思っていることをそのまま伝えるだけなのに、いやに緊張してじわりと変な汗をかく。



「だから、その、…嫉妬、してた…。」
「嫉妬…?」



繰り返し小さく呟かれたエースの言葉に、こくりと頷く。



「エースが皆と仲良くなるから。…ナースさん達とも仲いいみたいだし。その、エースが皆と仲良くなるのは私もすごく嬉しいの!嬉しいんだけど、二人でいれる時間も減っちゃったし、さ、寂しかったの…。隊長になるのも本当は嬉しかったのに、また一緒にいれる時間が減ると思うと素直に喜べなかった…。ごめんね、性格悪くて!」



言ってて私って心が狭いなと悲しくなってきて、最後は誤魔化すように苦笑いで伝える。
エースはぽかんとした顔をしていたが、次第にずるずると頭を抱えて座りこんだ。



「あ、あきれちゃったよね、ごめんね?」



エースの反応に不安になって、とりあえず謝罪の言葉が口をつく。
するとエースは抱え込んだ腕の間から顔をちらりと覗かせて私を見上げた。



「それさ、何のごめん?」
「え?」
「俺、ミアに謝られることされてねぇよ?それとよ、ナース達と仲良くした覚えもねーけど。」
「…怪我したわけじゃないのにエースが何回も医務室に来てたの、私知ってるよ」
「え、気付いてたのか!?」
「…気付くよ……。いつもナースさん達と楽しそうに喋って帰るじゃん。私には一回も会に来てくれないのに…」



エースは手で顔を覆いながら溜息をついたあと、私に来いと手招きをした。
エースの意図はわかりかねたが、従わないと先が続かなそうだったので素直にエースに近付く。
ん、と両手を広げられたけど、抱きついていいものか戸惑う。先に痺れを切らしたエースが私の手を引っ張った。ぎゅうと抱きしめられて、久しぶりだった感覚にじんわりと瞳が濡れる。



「拗ねんなよ」
「…すねてない」



おずおずとエースの背中に手をまわした。



「ナースと何話してたか聞いてたのか?」
「ききたくない」
「ほぼお前の話」
「…うそ」
「うそじゃねぇ。聞いてみろよあいつらに」



顔をうずめたエースの左肩が、涙で濡れていく。



「あと、会いに行かなかったのは、お前ががんばってんの邪魔したくないから」
「エースならいつでも来ていいのに」
「おう。今度から遠慮しねぇ」



とくんとくんとエースの心音が聞こえて心地いい。
きっと、エースにも私のが聞こえているはず。



「…俺も、嫉妬してた」
「え?」
「船の奴ら、ミアのこと可愛いって言ってた。目がハートだったからぶん殴ってやったけど」
「…私は嬉しいけど」
「俺はやだ」



私だけじゃなかったんだ。
エースがそんなこと思ってたなんて、ちょっと嬉しくなる。



「俺は、思ってること素直に言ってるけど」
「?」
「ミアはなんもねーの?」



いっぱい、心に置いてきたことはあった。



「…嫌いにならないでね」
「ならない。つーかありえねぇ」



一息置いて、ぎゅっとエースを抱きしめて、口を開く。
今まで言えなかった事を言うのは、勇気がいるのだ。



「ナースさんのこと好きにならないで」
「家族以上にはならねぇよ」
「いつも私が一番がいい」
「いつもミアが俺の一番だ」
「もっとお話したい」
「いつでも」
「もっとエースと一緒にいたい」
「ミアがいいならずっと傍にいる」
「寂しい」
「もうそんな思いさせねぇよ」
「…わがままでごめん」
「俺はミアの我侭嬉しいぞ」
「……きらいにならないでね」
「なるかバーカ」



ぽろぽろとこぼれる涙がエースの肩から背を伝う。
そっとこめかみにエースがキスを落とした。



「今度から思ってることちゃんと言えよ」
「…うん」
「抱え込むのなし。」
「うん」
「はー。マジ焦った」
「…?なんで」
「ミアに嫌われたかと思った」
「なんで、??」
「笑わねぇし態度悪いしハグしねーし目合わせねぇし、とどめに面倒なら別れろって言うし」
「ご、ごめんなさい…。…でも別れろとは言ってない、」
「意味一緒だろ」
「だってエースが面倒だって…」
「それ、俺に対してだから。お前のことじゃない」
「?」
「つーかこの話はもういいだろ!」


ふわりと身体が宙に浮く。
私を抱き上げて、エースはそっとベッドにおろした。



「なんもしねーけど、今日は離さねぇから」



ごろりと横になり、ぎゅうぎゅうと私を抱きしめる。



「だから、今日だけは暑いからあっちいけって言うなよ」
「!、…だ、だってエース熱いんだもん」
「口答え禁止。愛の言葉だけ許可」
「……、」
「……なんか言えよ」
「…だいすき。ずっと離して欲しくない」
「頼まれても離さねーよ」



くすくす笑いあって、ちゅっとキスした後、二人で幸せな眠りに落ちた。








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