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家族の条件


しゅっしゅっしゅっ
しゃっしゃっしゃっ



カンナで丁寧に木の表面を削る。
新しく出てくる木の表面からふんわりと香る匂いに鼻歌を歌いながら作業を進めていく。



「おーミア、今日は機嫌がいいなぁ」
「なに作ってんだ?」



自分の作業台に行くついでに私の所まで来て声をかけてくれたのは同じ船大工のビリーとレーガン。この船の船大工のほとんどが私の倍ぐらいの年齢だからか、はたまた私が船大工チームの紅一点だからか、よく気にかけてくれるのだ。



「ふたりともおはよー!ふっふふー、これはね、補強用だよ」
「補強?どこの?」
「特に補強が必要なとこはなかったと思うが…」
「砲列甲板の端っこの方さ、ちょっと気になってて」
「ああ、あそこならまだ大丈夫だと思うけど」
「うーん。分かってるんだけど、モビーが痛そうで気になっちゃって」
「はははは、まあ気になるところ直すのは悪いことじゃねーしな」
「がんばれよ」



がしがしと大きな手で頭を撫でられ、返事をしようと2人に笑顔を向けたら、親父の部屋のあたりからどっかーーんと大きな音がした。
三人とも無言で顔を見合わせる。



「……またあいつか」
「毎度毎度懲りねぇよな…」



あきれた顔で言うビリーとレーガンに、なんでこの人たちは怒らないんだろうと思う。
毎回船を壊される度に修理しているのは私たち船大工なのだ。
本当は、何で怒らないかなんて分かってるけど、私はそこまで大人になれない。大好きな船が意味も無く壊されるのを見るのは嫌だ。

先程の音の犯人も、顔を見なくても分かる。
どういう経緯か、最近この船に乗ったスペード海賊団の船長だ。
親父が許したことなので、文句を言う家族は誰もいなかったが、今日は、ついに私の堪忍袋の緒が切れた。
こいつがいると、毎日船のどこかが傷つくのだ。(間接的に親父も関わってるけど、あいつが馬鹿なことしなければそもそもこうはなっていないんだ)



「私、一言言ってくる。」
「は?え、おいミアちょっと待て!」
「お前早まるなって!!」



二人の言葉などもはや私の耳には届いていなくって、私愛用の大のこぎりを肩に担ぎ、音のした方へと走り出した。


















半壊した甲板の端、親父の部屋からここまで飛ばされたのだろう、スペード海賊団の船長、火拳のエースはモビーに背中から突っ込んだ格好のまま動かなかった。
既に周りには何人かの家族が遠目に見ていて、いつものこと、と苦笑している。
ぼろぼろと崩れているモビーに心が痛んだ。火拳の周りなんて少し焦げている。ごめんね、痛いよね。すぐ直してあげるね。



「おい火拳!!」



顔を下げたままだった火拳がゆっくりと顔を上げる。
こちらも相当機嫌が悪そうだったが、私の怒りとモビーの痛みに比べたらなんてことない。



「あんた!いい加減にしてよ!」
「……だれだお前」
「誰だっていいでしょ!いい加減、暴れるのやめて」
「…俺の勝手だ」
「あんたの勝手で、モビーを傷つけないでって言ってるの!!」
「……」



いつになく喧嘩腰の私に、周りで見物していた家族もひやひやとした表情にかわる。
火拳は壊れているモビーに身体を預けたまま、こちらからは目を逸らそうとしない。



「……モビーって誰だ」
「…、あんたの乗ってる、この船よ」
「…なんだ。船かよ」



プチン、と私の中の何かが切れる音がした。
私たちの大事なモビーを、家族を、軽視された気がして、怒りが頂点に達す。
一気に間合いをつめて担いでいた大のこぎりで火拳の身体を肩から斜め切りにする。刃の先端がモビーに触れる直前でぴたりとそれを止めた。
案の定、火拳はめらめらと炎を出して体の原型を戻し始めた。私は覇気が使えないから、こうなることは分かってたけど、少しだけ気持ちがすっとする。



「…にすんだよ…!」



ぎろりとこちらを睨む火拳からはまだちろちろとした炎が出ている。



「直るからって、壊していいわけじゃない」
「あ?」
「あんただって、ロギアで死なないから、斬られても撃たれてもいいってわけじゃないでしょ!今みたいに斬られたら、気分悪いでしょうが!」
「……」
「モビーだって、直るからって、あんたの勝手で傷つけないでよ…!」



お互いを見る目は逸らさない。
一瞬のようで永遠のような沈黙。
先に目を逸らし、弱々しくも沈黙を破ったのは火拳だった。



「うるせぇよ。お前に俺の何が分かんだ」



なんでこの人はこんなに自分をいじめてるの?
なんでそんな顔するの?
何をそんなに苦しんでるの?
あんたのことなんて、



「わかるわけないでしょ!」
「…!」
「何も話してくれないのに、分かってくれるなんて思わないでよ!」



思った以上に叫んでしまったみたいだ。
でも、肩で息をしながらも私の勢いは止まらない。



「この際だから言わせて貰うけど!あんたが何抱えてるか知らないけどね、何か言いたいことがあるなら、悩んでる事があるなら、はっきり言いなさいよ!私は無意味にモビーを傷つけるあんたのことなんてどうでもいいけど、この船にはあんたのこと気にかけて分かろうとしてくれる優しいやつ等もいるんだから!それに、今の私みたいに、ちゃんと言ったら、気持ちは伝わるでしょ、…。……これでわからないなら、本当の馬鹿だよ。」



どうしても、これだけは分かってほしくて、火拳に近づき、一歩手前に座って目線を合わせる。
火拳が息を呑んだのが分かった。



「あんたが船壊すたびに、私たち大工が文句も言わずに最近船が賑やかだなって修理してるの。あんたが怪我するたびに、手当てさせてくれないってナースたちが心配してるの。あんたが馬鹿するたびに、こいつら家族が飽きねえなぁって笑って見守ってんのよ。わかるでしょ?全てはあんたの気持ち次第。私たちの準備は出来てるの。親父は偉大だから、あんたの海賊団のクルーも一緒に皆家族にしてくれるって言ってる。…そろそろ、足掻くのやめたら?かっこわるいよ。家族にならないなら、出てって」



それだけ言って立ち上がる。
火拳は、消え入りそうな声で、「何で…」と言ったけど、その後の言葉が続かなかったので、聞こえなかったことにした。


言いたいことは言った。
背を向けてその場を後にする。


あ、


あと一つ、一番大事なこと言ってなかった。
くるりと振り返り、大のこぎりを火拳に向ける。



「言い忘れてたけど、私は、船と家族を傷つけるやつを家族とは認めないから」



暗にこれ以上無駄に暴れるなという意味を込めているのだが、この馬鹿に伝わっているかは分からない。
なんせ、はっきり言葉にしないと理解しないやつらしいのだ。




けど、数時間後、レーガン達とこの馬鹿が壊した跡を修理しに来たら、モビーの残骸が申し訳程度に横に積まれていて、抑えきれずに笑みが漏れた。













(…おじゃまします)
(……火拳…。あんた家族になったらしいわね)
(おう…。)
(私が注意してからこの5日の間に何があったか知らないけど、船2回壊したわね(回数は減ったけど))
(ごめんなさい(ぺこり))
(やけに素直じゃない)
(おう。船壊したのは悪かったと思ってる)
(……(どういう風の吹き回し?元は素直な子なの?))
(俺も、自分の船は好きだったからさ(にっ))
(そう!この船も好きになってくれると嬉しいわ)
((…笑うと、意外に可愛いな))
(それにしても、その顔どうしたの?)
(ここに入る前に大工のやつらに殴られた)
(は?なんで??)
(お前を怒らせたから。あとお前に惚れんなって殴られた)
(はぁ?ありえないでしょ)
(まーな(気の強ぇ女は嫌いじゃねーけど)あ、そうだ。ミア)
((どきん!)(な、なまえ…)な、なに?)
(俺のこと、今度からちゃんと名前で呼べよ!)
(……え、えーす?)
(おう!船も家族も、もう傷つけねーからな!約束だ!)
((…太陽みたいに、笑う人……))







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