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非日常的な朝食をあなたと


特に可愛くもなくダサくもない制服をいつものように袖に通す。
今日も、退屈な一日が始まるのだ。
つまらない授業を受けて、興味のないことを勉強する。いい成績を取らないと親がうるさいから、なんとなく毎日それをこなしている。まるで機械みたい。
そんな風にすごしてたら、地味で面白くない子というイメージがうまく出来上がってしまって、クラスでも居るか居ないかの存在。別に、お化粧して可愛くはしゃいでいる子みたいになりたいわけではないけど、どこでどう人生を間違えてしまったんだろう、と思うことがないわけでもない。


用意された朝食をいらないと断り、足早に家を出る。
家に居ても、学校に居ても、どちらも同じ。
まだ人のまばらな道を、澄んだ空気を吸いながら進んでゆく。


比較的近い距離にある学校には、まだほとんど人の姿は見当たらなかった。
誰も居ない朝の教室。実は結構好きだったりする。
だから私は早起きも厭わず毎日朝早くに学校にくるのだ。


静寂に包まれる教室へと入り、運よくくじ引きで当たった窓側の自分の席にかばんを置く。
そして、空気の入れ替えにと窓を大きく開けた。
入り込む冷えた空気を肌で感じる。すると、向かいの校舎の屋上に、何か赤いものが見えた気がした。


……気のせい?


見間違いだったかもしれない。
でも、毎日同じ日々の中の異質に、ただ興味が沸いた。
屋上は立ち入り禁止だけど、登校時間までまだあるし、誰もいないはず、と自分に言い聞かせて、携帯だけを片手に向かいの校舎へと向かった。



立ち入り禁止の屋上に近づくなんて入学してから初めてで、悪いことをしているような気分にどきどきする。
慎重に扉まで近づくと、ガチャリと鍵を開け、ゆっくりと扉を開けた。



「あ」



聞こえるはずもない人の声が扉の奥から聞こえ、飛び上がるくらい驚いて反射的に扉を閉める。
だけど、扉が閉まりきる直前に、ちょっと待て閉めんな!という声が聞こえ、躊躇した。
恐る恐る、先ほどよりも慎重にゆっくりと扉を開けると、扉から少し離れたところに、学年でも有名な不良のユースタス君が居た。
教室からチラッと見えた赤色、それは自己主張の強いこの髪の色だった。
クラスの子ともそこまで話したことないのに、こんな怖い不良が目の前にいるなんて。逃げ出したい意思とは反対に、身体は石のように動かない。
ユースタス君は、驚くこともなくこちらを見たまま、手に持っているタバコを吸った。



「タバコ…」
「……あ?」



怖い!今まで正しいと言われていることしかしなかったし、悪いことなんてほとんど出来ないチキンだったから、非日常な、未成年がタバコを吸っている光景に、意思に関係なく言葉が出てきた。そして瞬時にそれを後悔する。



「……、からだに、悪いですよ」



何か言わなきゃ、と続けて出てきた言葉は、またも状況にそぐわない言葉で。
固まった身体のまま、頭だけはぐるぐると思考を繰り返す。この状況だけは切り抜けたい。今まで可もなく不可もなく平凡に生きてきたのに、こんなところで人生躓くわけにはいかない。
朝の私の人生に対する批判は既に私の中ではなかったことにされたようだ。

ユースタス君はじっと私を見た後、屋上の床でタバコの火を消して立ち上がり、私の方へと向かってきた。

ああ、だめだ。
今すぐにでも走って逃げたいのに、肝心な時に限ってこの足は全く動こうとしない。

目の前まで来たユースタス君は、怖い顔で私のことを見下ろす。
遠くからでも怖かったのに、近くで見る彼は思った以上に背も高くて大きくて、恐怖心を煽る。



「お前、名前は?」
「……っ!」
「下の名前」
「あっ、…、ミア、です」
「ふーん、ミアな」


いきなり名前を聞かれて大きく揺れた私の肩を見、ユースタス君は顔をしかめた。怖かったので仕方ないとはいえ、ここまでおおっぴらに怖がられると、ユースタス君もいい気はしないだろうな、と少し罪悪感が出る。でも怖いのだ。



「授業まであとどのくらいだ?」
「え、あ、あと、1時間ちょっと、くらい、です」



てっきり授業時間なんて気にしない人だと思っていたので、あまりに予想外な質問に少し気が抜けた。
けど、そんな雰囲気も次の一言で吹っ飛んでしまう。



「ミア、お前今から付き合えよ」
「え!?」
「朝飯」
「え、???」
「おごる」
「ええぇ!??」



状況についていけず、会話というより一音しか発していない私は見開いた目でユースタス君を見上げる事しか出来ない。
初めて会話した相手を朝食に誘うとか、全くもって理解できない。しかもあの不良のユースタス君が、おごる、といっていた。



「あの、…ちょっとよく、状況が……??」



勇気を振り絞って、ユースタス君へ問いかける。
すると、はあーと息を吐き目線を逸らした。



「礼だよ」
「……お礼?」
「お前、ここのドア開けただろ」
「……」



確かに開けたけど…、と思ったと同時に、この扉には鍵がかかっていたのを思い出した。



「……ってことは、ずっと閉じ込められてたんですか!?」



外なのに閉じ込められるという表現はおかしいかな、と思ったが、あのユースタス君がこんな状況になっていたのだ。そんなこと気にしていられない。
あまりにも彼にそぐわない状況に、じろじろと見つめてしまったからか、ユースタス君は気まずそうにこちらを睨んだ。不思議だけど、今はなぜかユースタス君が怖くない。



「…悪いかよ。」
「いえ、悪くないですけど…」
「昨日ここで寝てたら、寝すぎちまって…。たぶん見回りのおっさんに鍵閉められた」
「それからずっとここにいたんですか?誰かに連絡とか、」
「携帯の充電切れた」



あまりにも、な状況に、くすくすと笑いがこぼれる。
怒られるかと思ったけど、ユースタス君はばつが悪そうにしているだけだ。
そんな状況になったら躊躇無くドアを蹴破るくらいすると思っていたが、もしかしたら偏見だったのかもしれない。
思ったより、ユースタス君は怖い人なんかじゃなくて普通の人なのかも。そしてちょっとぬけている。



「寒くなかったですか?」
「まぁなんとか」
「風邪引かないといいですね」
「…。早く行くぞ。腹減った」
「…、はいっ!ご馳走になります」



最初は断る、というか、逃げる気満々だったけど、思ったよりユースタス君は怖くない、とわかったので、素直に後をついていく。
それにしても、一晩一人で屋上とか、不憫すぎる。想像してまたくすくすと笑いが漏れた。笑ってんじゃねーよ、とじろりとユースタス君が睨んでくるけど、それもまたおかしくて。
まだまばらな校舎内を出て、二人で近くのファミレスへと駆け込んだ。



あれ、そういえば私、
学校でこんなに笑ったのはじめてかも!








(キッド君思ったより面白いね)
(あ?)
(いーえなんでもありません。美味しかったです。ご馳走様!)
(おう。まさかお前も朝飯食べてなかったなんてな)
(基本朝は食べないから)
(ふーん。それにしては食いすぎだったよな)
(……(じろり))
(まあどうでもいいけどお前授業遅れるぞ)
(あ!やばい!キッド君も急ご?)
(何言ってんだお前。俺は帰って寝る)
(え……)
(じゃーな(すたすた))
(…………(あ、てことは、授業までの時間聞いたのって、私のため…?))








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