top
name change
hello baby





胃がむかむかして嘔吐が続くので、病院にいくことにした。気にするほどひどくもないし、ほっとけば治ると思っていたのだが、元気な身体とは裏腹に食後の嘔吐だけはなかなか治らなかったのだ。
医者といえば同棲している彼氏もそうなのだが、何で好き好んで彼氏に診察してもらわなきゃならないんだ。というか、吐いてるなんてローの前では言っていない。仕事でも見てるだろうに、彼女のゲロなんて見せられるか。
ということで、違う医者に診察してもらうためにローの勤めている病院へ行った。この辺の病院はそこしかなかったのと、結構大きい病院だったので、ローに見つかることはないと高を括っていたのだ。
でも来て早々、無理してでも遠くの病院へ行くべきだったと後悔した。



「………トラファルガー先生」
「なんだ」
「わたし、トラファルガー先生以外がいいってお願いしたんですけど」
「患者が医者を選べると思うな。図が高い」



こんな態度でよくクビにならないよな、とある意味病院側に感心してしまう。
ローに診てもらうのはあまり好ましくないけど、抗議に行くのも馬鹿らしいので、そのままローの前の椅子に腰掛けた。



「で。どうしたんだ」
「たぶん風邪。吐き気止めの薬ちょーだい」
「診断は俺がする」
「いちいち言い方むかつくよね。胃がむかむかするんですー」
「風邪だな」
「…ほんっとむかつく!」
「フッ、冗談だ」
「はぁ?」



一応診察するから、と言い、ローは私にいくつか質問をしてくる。
風邪の症状に対する質問とか、それ関係なくない?な質問とか。
でもカルテにいろいろ書いて仕事をしているローを見ると、なんだか新鮮だ。



「体位は上と下どっちが好きだ?」
「……だんだん関係ない質問してってるよなーと思ってたけど、さすがにその情報はいらないよね」
「既に知ってるしな。ミアは上派だよな。」
「だまれ勝手に作るな!」
「じゃー音聞くから脱げ」
「さらっと言うな!脱ぐか!」



明らかに状況を楽しんでいるローにどっと疲れが出る。
あ、吐き気もしてきたかも。ローがアホすぎて。こんなんが医者なんて世も末だ。



「もー、これ絶対ローからくるストレスだ」
「それだけ俺のこと考えてるってことか」
「これ以上セクハラすると医師会に訴えてやる」
「やってみろ。家の収入全部なくなるぞ。」
「……私も働いてるし。」
「その微々たる収入もなくなるって言ってるんだ」
「意味わかんない。」



なんで今日のローはこんなに意地悪なんだろう。
最近は家でもちょっとしたこととか手伝ってくれたり、意地悪もそんなにしないし、すごく優しくなったと思ってたのに。
仕事してるときはいつもこうなのかな。だったら問題だよな。



「理解できないのか。馬鹿だな」
「ロー今日意地悪だよ」
「馬鹿なお前にわかりやすいように教えてやる」
「はいはい」
「まず第一にお前は来る病院を間違っている」
「それは知ってる」



確かに、ローに診察してもらうべきじゃなかった。



「馬鹿か。意味が違う」
「だってこの辺この病院しかないんだもん」
「そして第二に、俺はお前の症状にずいぶん前から気付いていた」
「え、なのに薬もくれなかったの?それひどくない?」
「………。つまり、お前も気付いていると思っていた。で、いつ教えてくれるのか待っていた」
「…………え?」
「が、どうやら本気でお前は気付いていないらしいな」
「えっと、も、もしかして……」
「ミア、お前妊娠してるぞ」
「……っっ!」
「………なんだその顔」



鈍いと人に言われ続けて育ってきたけど、自分がここまで鈍いとは思わなかった。確かに、そういわれれば、微熱が続いたりしてた時期もあったかもしれない。



私とローの、子供がここに、。



そっとおなかに触れる。
言いようもない嬉しさが込み上げてくる。
同時に、感動の涙が沸きあがってきて、泣くものか、と必死に涙を押し込める。



「ごめん、変な顔してるのわかってるけど、やめられない」
「嬉し涙か?」
「あたりまえでしょ!」
「じゃあいいじゃねぇか」



ぎゅっと抱きしめられて、押さえ切れなくなった涙がボロボロと流れ出る。
それが薬品の匂いのするローの白衣に染みを作っていく。いいよね、洗濯するのどうせ私だし。

ぐすぐすと鼻をすする私を急かすことなく、ローはふんわりと抱きしめ、落ち着かせるように頭を撫でる。



「お前ん家、挨拶行かなきゃな」
「何て言うかな。子供出来たって言ったらきっと吃驚するね」
「まあその報告もだが、結婚の挨拶が先だろ」
「はっ!?」



さらりと発せられたそれに、勢いよく顔を上げてローを見る。



「なんだ、しないのか?」
「す、る、けど……」
「じゃあ問題ねぇだろ」
「も、もしかして、今のがプロポーズ…?」
「……そうなるだろうな」
「…………」
「…なんだ」



ずいぶん不満そうな顔をしていたらしい。
だって、ローだったらもっと雰囲気作ってきちんとプロポーズしてくれると思ってた。ついでのように言われて、嬉しいけど、複雑だ。



「子供出来たから結婚だと嫌だなと思って」
「あほか。結果は一緒だろ」
「…証拠!」
「家に帰って、俺の部屋の医学書が一番入っている本棚の右側に置いてある棚の上から3番目の引き出しに入っている白い箱あけてみりゃわかる」
「ごめん覚えられなかった」
「帰って待っとけ」
「何時?」
「定時」



くしゃりと頭を撫でられ、おでこにキスされる。
診察室だからいつナースさんが入ってきてもおかしくないのに、気にしないのは実にローらしい。
これ以上仕事の邪魔はしていられないから、今日はずっとローと一緒にいたい気分だけどそれもローが帰ってくるまでおあずけ。


ほくほくとした表情で病院を後にした私の手は、自然におなかへと触れていた。






(ローおかえり!!本当に定時だったんだねめずらしい!!)
(…元気だな。何してた?)
(言われたもの探そうとしたけど見つからなかったの。だから赤ちゃんグッズネットで漁ってた!)
(そうか。)
(はやくはやく!ローの部屋!(ぐいぐい))
((そんなに欲しいのか))
(どこどこ??)
(ここだ。)
(しろいはこ!頂戴!)
(だめだ)
(え!)
(ミアがこれからも一生俺といるとこれに誓えるならくれてやる)
(そ、れって、じゃあ…(ゆびわ?))
(誓えねぇのか)
(っ誓います…!!)
(…ほらよ)
(うわーーんぴったりーー(ごういんなんだから…!))
(ミアあいしてる)
(…!(ピタリ)わ、わたしも!!)










| TEXT |




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -