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制御不可の感情につき


今回降り立った島は比較的治安もよく、特に問題もなく過ごせると思っていた。が、やはりここはグランドライン。多種多様な状況が楽をさせてくれるはずもない。

にぎやかで皆仲良く見えるこの街は、外の人間――特に海賊――には冷たく、決して口を開こうとはしなかった。ログの情報収集も含めて街の様子を見に行った先発隊のシャチ達が返ってきたのは先刻。一様にしょんぼりとして何の情報も得られなかったことに肩を下げていた。



「まぁ、歓迎されてないんじゃ仕方ないな。」



シャチの肩をポンと叩く。そのまま俺はローを見、目で判断を仰いだ。
ログの情報だけなら、潜入なんてしなくてもなんとかなるが、今回は次の島の情報も手に入れなければならなかった。嘘か本当かはわからないが、次の島は海軍支部の近く、それも今は中将クラスの奴らが会議に来ているらしい、との情報が入ったためだ。戦闘になるならそれはそれで構わないが、情報は多い方が有利だ。



「あまり派手な騒ぎは起こしたくねぇ」
「じゃあ街人に紛れて情報収集だな。」



海賊らしく無理矢理聞くか、海賊だとばれないように振舞い情報を得るかはいつもローの一言で決まる。
シャチは既に顔が割れているから行かせられない。船長が適当に他のクルーを捕まえ情報収集の指示を出している間に、俺はつなぎを着替えるため自室に向かった。














海賊だとバレないようラフな格好に着替え、愛用の帽子も部屋に置いていく。
早々に準備を済ませ、甲板で他のクルーを待っていると、ミアが小走りで俺の方へ駆けてきた。



「あ、ペンギン似合うー!」



ミアは俺の前に立つと、うんうんと頷き満足そうに笑う。



「帽子ないと不思議な感じね」
「まあな、少し落ち着かない気もするが…。それよりミアも行くのか?」
「うん。ロー船長直々の命令です!」



海賊のくせにビシッと敬礼をしてみせるミアに、心の中でローを詰る。
わざわざコイツにしなくても良かっただろうに。



「女の私がいた方が、もしかしたらいい情報貰えるかもしれないでしょ?」
「それはそうだが、大丈夫か?今回はバラバラでの行動だぞ」
「大丈夫よ。私が弱くないの知ってるでしょ」



にっと強気に笑うミアに、俺もつられて口角があがる。
それにしても、と、俺はミアの服装を確認する。潜入捜査なんだ。“女”の部分を使った方が情報は得られやすいだろうに、ミアはいつも通りのショートパンツにTシャツ姿だった。俺に気を使っているのだろうか。まあ、どちらにせよ、色気のいの字もないミアの格好に実際俺は安心しているのだが。

と、丁度そこへ他のクルーがやってきたので、俺たちは船を降り街へと向かった。
街に入る前で別々に分かれ、俺たちはそれぞれの方法で情報を得るため足を動かした。















「ペンギン、早かったな」
「ああ。他の奴らは?」
「まだだ」


欲しい情報も早々に入ったため、数時間で船に帰ってきた。
意外と簡単に手に入った情報に、俺一人でもよかったんじゃ、と思うが、俺が間違った情報を掴まされている可能性もあるので、意見はしない。



「ログは7日だそうだ」
「そうか。もうひとつの情報は?」
「ガセだ。海軍支部はあるらしいが、気にする程度ではない。見つからずに進む事も可能だろうな。中将たちも既に本部に帰っているみたいだ」
「そうか。」



ローにあと二言三言告げて、食堂へ向かう。
情報源の、あの甘ったるい女共のせいで、やけに喉が乾く。
苦めのコーヒーを淹れて、椅子に座り一息ついた。


疲れていたのだろうか。
本当は早く部屋に帰ってシャワーでも浴びたいところだったのだが、思いの外長くここにいたのだろう、食堂にいる間に潜入に行っていた他のクルー達も帰ってきた。



「ペンギンさん戻ってくるの早すぎっすよ!」
「流石だなぁ。結局ペンギンさんの情報の方が正確だし」



笑って手を振りながら食堂の前を通り過ぎるクルーに片手を上げて返事をする。これで、全員帰ってきた。ミアを除いて。


カップをシンクに無造作に置き、甲板へと戻る。
自分の部屋に帰るつもりだったが、ミアにしては、帰りが遅いのだ。


甲板に出ると、既に夕暮れ近くなっていて、街の向こう側に沈みそうな夕日にミアの顔が過る。
そこら辺の男に負けるような女ではないし、信用もしているが、万が一があるかもしれない。
―――迎えに、いくか?
だが、それは海賊としての自分を認めていないと、きっとミアは怒るだろう。男としてなら、迎えにいけない事もないが。


結局すれ違いになる可能性も考えた俺は、暗くなるまでは待つ事にした。
なんとなく、部屋には帰らず、船から町の方向を見つめる。


どれだけ待ったか、夕日が街の向こうで今にも消えそうな時、同じ方角からゆらゆらと女の影が向かってきた。

――やっと帰って来たか。

ほっと息を吐き、だんだんと近づくミアを見てぎょっと目を見開く。
ミアはそんな俺の様子にも気付かず、船の上へと身軽に降り立つと、ただいまー、と元気に駆けてきた。



「…おかえり。」
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「心配した」
「……ごめんなさい」



俺の言葉に少し驚いたようにミアは謝った。
心配したのは事実だが、今はもう一つ言いたい事がある。



「服、違うな」
「あ、これ?へへへ、似合う?」



身軽な格好で出て行ったはずのミアが身につけて帰ってきたのは、ふんわりと控えめなフリルが付いた淡い色のドレスだった。
くるりと俺の前で回って見せるミアは間違いなく海賊ではなく女の顔をしていて。面白くない思いがわき上がる。


俺はお前がなかなか帰ってこないのを心配してたのに、何着て帰ってきてるんだ。


にこにこと俺の前で感想を待っているミアを無視し、有無を言わさず抱きしめる。
すっぽりと自分の腕の中におさまったミアに彼女を近くに感じ、今度こそ安堵した。離してやる気もないので、俺はそのままミアへと話しかける。



「で、どうしたんだ?その服」
「うん、情報を貰ったおじ様に買ってもらったの」
「……………」
「怒った?」
「……少し」
「でもペンギンも甘ったるーーい香水の匂いするよ」
「、……………」



やっぱり先にシャワーを浴びておくべきだったな。
それにしても、コイツは俺の心を引っ掻き回すのが余程好きらしい。
いつもは冷静な俺も、今日はコイツ一人のせいで、心配して不安になって、最後は嫉妬か。
コントロールが効かない感情は、本当に厄介だ。



「頼むからミア、お前…、本当に。勘弁してくれないか、」



ぎゅうと抱きしめる力を強め、ミア の肩口で自嘲気味に呟いた一言は思った以上に弱々しかった。俺らしくもない。
そんな俺を見て、ミアはふふと笑い、俺に負けないくらい強く抱きしめ返す。




2人の姿は闇へと紛れ、空には星が瞬き始めていた。








(ミアが寝たら、このドレスは海に葬っておこう)








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