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はじまり


あの日から、俺は少しおかしいと思う。



あの日、名も知らない海賊船が身の程知らずもいい事に我らがハートの海賊団に攻撃を仕掛けてきた。
戦闘自体はあっけなく終わったが、その日は朝から海王類が出てきたり、海軍に見つかりそうになったり、サイクロンが来たりと皆止まる事なく動いていたから、夜は宴なんてなるはずもなく、皆死んだように眠っていた。

俺はなかなか眠りにつけず、寝酒を取ってこようと食堂へと足を進めた。
そのとき、一瞬女の泣き声のようなものが聞こえてきて、顔を歪めた。シャチなんかが聞いたら幽霊だと騒ぎ立てそうだな。
足を止め耳を澄ますと、確かに聞こえる。自然と足がそちらへと向かった。



声はミアの部屋からだった。



紅一点のこの船だ。少し考えたら、これはミアのものだとすぐにわかっただろうが、正直、仲間としか思っていなかったし、ミアの泣くところなんて一度も見た事がなかったから、今でもこの声の主がミアだなんて、些か信じがたかった。幽霊だった方が信憑性があったかもしれない。

なんにせよ、仲間が泣いているのだ。声をかけた方がいいか、とノックしようと腕を上げる。が、すぐにミアの声によって、俺の手は宙に浮いたまま動きを止めた。


「う、ひっく…。ごめ、ん…、ペン、ギン…」


聞き違いでは、ないと思う。
なぜ、俺の名を呼ぶのか。なぜ、俺に謝るのか。

瞬時に今日あった事を頭の中で反芻する。
何度考えても、謝られるようなことなどしていない。


「、ひっく、ぐずッ…、つ、強く、なるから…」


もしかして、今日の戦闘のことなのか?
確かに、ミアの方に数がいっていたから、助けに入ったが。
そんなの、仲間なんだから当たり前だろう。

一瞬、あ、とミアに言った言葉を思い出す。
“お前、さっきの危ないからやめろ。力で劣るんだから、受け流して攻撃にかえる方がいいだろう”
“え、あ、うん。そうだよね、わかった!ありがとう”
へにょりと困ったように笑い礼を言ったミア。
別に怒ってるわけではなかったし、あんな危ない戦い方で怪我なんてさせる訳にはいかなかったから、戦闘後に注意しただけだ。
俺の性格上、確かに怒ってたように聞こえたかもしれない、が。そんなの気にした事もなかった。



「……ック、まだ、この船に、いたいよ…」





なんだよ、俺たちがお前をこの船からおろすと思ってるのか?
船長もシャチもベポも他のクルーももちろん俺も、お前の事仲間だと認めてるのにか。
弱くたって女だって、今更ミアをこの船からおろすなんて、誰一人考えていない。


イラッとして今度こそドアへと手をかけようとした。


「…、ペンギン……ヒック、」


心臓が、跳ねた。

なんだ、名前を呼ばれただけなのに。
ただ、いつもの元気で生意気な声とは違っていただけ。少し女を感じさせる声で呼ばれただけなのに。
どくりどくりと脈打つ心臓の音がやけに大きく聞こえる。


今までなかった感情に戸惑い、ミアに気付かれないように、ドアから手を引き、急いで自室へと戻った。






そう、あの時から俺はきっと気付いていたんだ。
おかしいのは、あの時俺を呼んだミアの女を思わせる声が頭から離れないから。
あの日から、気付いたらミアを目で追っているのは、気のせいなんかではない。


そう、俺はあの日からこの女を仲間ではなく“女”としてしか見れなくなってしまったんだ。






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