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オレンジ色のボトルを手に取って中身を手のひらに出す。
それと同時にふわりと飛び出した柑橘系の香りが鼻腔をくすぐり、何も身にまとっていない私の体を包んだ。



「いいにおい」



無意識に出た言葉の音から、自分が上機嫌であることを再認識する。
私はそのまま、手のひらの液体を泡立てて自分の髪へと持っていく。
ごしごしと、柔く丁寧に洗うのはいつもの事だ。そう、たとえ、背中に浴びる視線を無視してでも。



「おれ、のぼせそう」



投げかけられたのは、だらしのない気の抜けた声。だけど、大好きな声。浴室の中で響く声はいつもより少しだけ色っぽい。



「ふふ、もう少しだけ待ってね」
「ミア、さっきからそれじゃねぇか」
「だって、エースが私のこと待ってでも一緒に入りたいって言うから…」
「そりゃ、言ったけどよー…」



不服そうな声をあげたエースは、随分と前に頭も身体も洗い終わって、今は湯船に浸かってる。
半身とはいえ、お湯に浸かったままのエースはいつもよりは覇気がない。そんなエースも、可愛い。なんて思ってるのは、エースが好きな私くらいだろうけど。


シャワーから出るお湯を浴びながら、身体につたう泡を横目にエースをチラリと見やれば、本当に退屈そうに浴槽に身を委ねている。



「そんなにヒマなら、いつもみたいに外で待っとけばよかったのに」
「……」



エースは私の言葉に返事をする代わりに、むっと唇を寄せて不満を顔に出した。
そんなエースが可愛い、って、ついまた思っちゃって、緩んだ口元を見られないように私は再びエースに背を向けて、今度はトリートメントを髪に馴染ませた。



「べつに、」
「ん?」



ちょっと拗ねた声を出したエースに先を促すように相槌を打つ。



「外で待っててもよかったんだけどよ」
「うん」
「今日はなんとなく、ミアと離れたくなかったんだよ」
「え……」
「…」
「………」
「……んだよ、風呂までついてきて、…気持ち悪ぃとか思ってんだろ」



今度は少し照れが混じった声で、ぶっきらぼうに言うもんだから、好きと嬉しいが混ざってごっちゃになった顔を見られたくなくて、私は俯きながら頭からお湯をかぶり急いでトリートメントを洗い流す。
もう少し、トリートメントつけたまま置いておきたかったけど、仕方ない。



「んだよ、…無視かよ」



完全に拗ねた声。
見なくてもわかる。きっとそっぽを向いて唇をとがらせてる。


あぁ、早く。
全部を洗い流して。
泡も、にやける口元も、紅潮する頬も。



きゅっと水気を取り、くるりと手早く髪をまとめる。



「気持ち悪いとか思ってないよ」
「うそつけ」
「ふふ、ほんとだって。私もエースと長くいれて嬉しいし」
「……」



あ、ちょっと照れた。
そんな些細な変化を感じ取れるくらいに私はエースの事を知っている。



「てことで、そちらにおじゃましてもよろしいでしょうか?」
「えっ、お、おう」



なんで今更動揺してんのよ。
なんて、意地悪な言葉は言わない。

早く、エースの近くに。



ふっと軽く息を吐いて勢いよく振り返ると、私は大好きな人がいる浴槽へと飛び込んだ。






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