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嘘つき相合傘





「…ありえない」



嘘つき。
ハルタの、大嘘つき!!!!



朝家を出る時は、傘をささなくてもいいくらいの雨模様だった。
だから私は傘を持っていくか悩んでいて、ハルタはそんな私に午後から快晴だから持っていかなくていいよ、って言ったのだ。
それが今は本降りで。



「信じた私が馬鹿だった!」



駅までは屋根があったからよかったけど、駅から家までは頭上を守るものは何もない。ハルタの一言がなければ、確実に私は折りたたみ傘を持って行っていたから、余計に悔しい。



「…、仕方ない。コンビニで傘買うか。」



はぁ、と諦めを含んだため息を吐いた。それと同時にバッグの中で鳴る振動に気づいて携帯を取り出す。



「あ、ハルタ」



振動はハルタからの電話を知らせるもので、怒りの元凶からの電話に私は躊躇なく通話ボタンを押した。



「もしもし」
『うわ、声低いね。機嫌悪い?』
「うん。かなり。」



取り繕うこともせずに不機嫌をあらわにする私とは正反対に、ハルタは機嫌良さげに笑った。



「誰のせいで機嫌悪いと思ってんのよ」
『え、僕のせい?』
「あたりまえでしょ!ハルタが晴れるって言ったから傘持ってこなかったのに!」
『あはは、ミア、それ八つ当たりって言うんだよ』
「知ってるよばか!」



だから余計に悔しい。
天気なんて100%じゃないのは重々承知でハルタのせいじゃないこともわかってはいるんだけど。



『で、どうやって帰るの?』
「…コンビニで傘買って帰る」
『わざわざ?』
「だって濡れたくないし」



最後はふてくされたような声になってしまう。



『ふーん。まぁそれでもいいけど』
「それでも、って、タクシーお金かかるし他に方法ないじゃん。」
『なくはないけど』
「?どういうこと?」
『前見てみなよ』



言われて顔を上げてみる。
けど、なにもなくて、今度はキョロキョロと周りを見渡す。



「…なに?」
『バカ?こっちだよ』



受話器からと、直接耳から同じ声が聞こえて、すぐ隣を見ると、そこにはハルタがいて。



「え?!なんでここいるの?」
「迎えに来たんだけど。ほら、傘2本」



ね、と私とハルタの傘をくいっと上げて見せる。



「わざわざ、来たの?」
「まぁ帰りの時間知ってたし」



いつもは意地悪なハルタの優しさに、キュンと胸がなった。
やっぱりなんだかんだ言って、私はハルタが好きだ。



「ありがとうハルタ!すっごく嬉しい!」
「どういたしまして。ま、嘘ついたお詫びだけど」
「え?嘘?」



一気に上機嫌になった気持ちが一瞬で停止した。



「普通天気予報くらい見ると思うし、気付かないミアも悪いと思うけど。」
「ちょ、どういうこと、」
「今日、エイプリルフールでしょ。予報は昼から夜にかけて大雨だよ」
「なっ、なにそれーーっ」



にこっと悪びれもなく言ったハルタに、私は脱力する。
ひどい、と怒ることもできたんだろうけど、それが出来ないのはきっとハルタが今迎えに来てくれているから。



「うーん、まぁ、悔しいけど、許すよ」
「寛大だね」
「だって、エイプリルフールだしね。」



脱力ついでに怒る気もなくなって、呆れ顔で笑ったらハルタに「じゃあ帰ろうか」と私の傘を渡された。
だけど、せっかくのエイプリルフール。私の中にも少しだけ悪戯心が芽生えてしまって。



「ハルタ」
「なに?」
「私の傘、実はこの前折れちゃったんだよね。閉じてるとわからないけど」
「嘘でしょそれ」



あっさり騙されて相合傘をしてくれると期待してたけど、やっぱりハルタは一筋縄ではいかないようだ。
むぅ、と口を尖らせた私は、眉根を寄せてハルタを見上げた。



「もー。今日くらいは、私に騙されてくれないかなぁ?」
「あはは、じゃ、今日くらいは、ね」



優しく私を見下ろしたハルタは、私のより一回り大きい傘を広げてこちらに差し出した。



「ま、壊れてるなら仕方ないよね」



雨は変わらず激しく降り続いたけど、二人で帰る時間は、たとえお互いの肩が少し濡れていても一人の帰り道よりずっとあたたかかった。


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