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今日も残業でマルコに会えなかった。
満員電車で揉まれて疲れ果てた身体を引きずり、駅からアパートまでの道を歩く。今日の曇り空は私の心を表しているようで、ため息が出た。



「……会いたいな、」



ぽつりと口から漏れた言葉は夜風に吸い込まれて、余計に虚しさを感じる。そんな感情を振り払うように、私は携帯を取り出してあの人の番号を押した。



「……」



無機質に鳴る音は、3コール目で大好きな人の声に変わって、ふっと口元が緩んだ。



『おう』
「おう、」
『仕事、終わったのか?』
「うん、今、帰ってるとこ」
『今日は忙しいっつってたのに、電話するなんて珍しいじゃねぇかよい』
「…実は、…、」
『…?なんだよい』



無性にマルコに会いたくて、あんたの声が聞きたくて、電話したんだよ。


なんて、

素直に私が言えるわけなくて、私は少し考えてこう答えた。



「夜道、一人じゃ怖くて」
『はぁ?』



間の抜けたマルコの声に、多少なりとも私は不機嫌になる。



「ちょっと。なにそれ失礼ね。」
『いや、だってお前、夜道怖がるようなタマじゃねぇだろう』



マルコの言うことはもっともだけど。
でも私だって女の子なんだから、好きな人にこんな言い方されたら傷つく。



「まぁ、そうなんだけど…」
『なんかあったのか?』
「別に、ないよ」
『じゃあなんで柄にもねぇこと言ってんだよい』



だって、本当は、



「マルコの声、聞きたかっただけだよ」
『………は?』
「えっ、!?」



やばい、と思った時には後の祭り。
普段こんなこと言わないから、思いもよらぬ失態に、心臓がばくばくして急に手汗が酷くなってくる。



「や、ちょ、今のなし。今日、エイプリルフールだし。さっきの、嘘だから。いや、マジで。」
『………』
「マルコ?さっきの嘘だからね?」
『………』
「…あれ?おーい??」
『…おれもだよい』
「え?」
『おれも、ミアの声聞きたかった』
「えっ、」



ドクリと心臓が跳ねる。



『つーか、今から行くから、家でおとなしく待っとけよい』
「え?、あっ、」



返事をする間も無くぷつりと切られた携帯からは、またも無機質な音が聞こえる。だけど、じんわりと耳に残るマルコの声が、胸に何度も響いて、曇り空から覗いた月がさっきよりも輝いて見えた。










(おう、)
(あ、本当に来た)
(どういう意味だよい)
(だって、エイプリルフールだし。来るってのも嘘の可能性が…)
(アホか。あいにく、おれは声だけじゃ満足できねぇんで(にや))


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