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潮の香りのプレゼント





明日は仕込みで早く起きなくちゃならねぇし、ミアも船には帰ってこねぇしで、おれはすることもなく早めにベッドに入った。
いくら自分の誕生日だからって一番祝って欲しいヤツがいねぇんじゃ起きてたってしかたねぇからな。

と、そう思っていたのだが、真夜中の訪問者におれは無理矢理起こされる羽目になった。



「…ってぇな…!なんなんだよったく、!!」
「サッチ、誕生日おめでとう!!」
「あ?………は!?ミア!??」



気持ちよく寝ていたおれの腹にダイブを決め込んだのは、今この船にいるはずもないおれの女で。うまく動かねぇ寝起きの頭でおれは必死に状況を飲み込もうとする。



「ちょ、ま、……ミア来週まで帰ってこれねぇんじゃなかったのか?」
「うん。でもサッチの誕生日には間に合いたくて、ちょっと頑張っちゃった」



えへへと照れ笑うミアは本当に今船に帰ってきたばかりのようで、着ている服は湿っぽく少しパサついた髪からは潮の香りがした。
時刻は午前3時過ぎ。



「おまえ……、アホ…。」



いろいろと状況が読めてきて、今度は逆にミアのこの行動に感情が追いつかず、言葉に出来なかったそれは愛情を持った暴言として口から飛び出す。

おれのために無理して帰って来るとか、本当にアホだ。
今何時だと思ってんだ。
あんま危ねぇことしてんじゃねぇよ。


言いたいことは山ほどあったが、年甲斐もなく嬉しくてたまらないサプライズにおれは緩む頬を隠そうともせずミアの頭をくしゃりと撫でた。



「ふふ、すごいパサついてるでしょ」
「ずっと外にいたのか?いつもは潮風に当たりすぎるのは髪によくねぇって船内にいるくせに」
「仕方ないじゃない。一番にモビーに帰って会いに来たかったんだから」
「ミアちゃん可愛いこと言うねぇ。襲っていい?」
「だーめ」
「なんだよ、いいじゃねぇか。プレゼントだろ?」
「ばか」



そう言ってミアはからからと笑った。そしてそのままダイブしたおれの横からベッドの端へと移動する。
おれはそんなミアの行動に寂しさを覚え、先ほどまで撫でていたミアの髪を軽く自分の方へと引っ張った。



「ちょっ、サッチ痛いよ」



案の定、びっくりした顔のミアが振り返る。



「どこいくんだ?」
「なに?さびしいのー?」



にやりと意地悪く頬を緩めたミアは少しだけまたおれに近づく。
的を射すぎているミアの言葉におれは珍しく肯定で答えると、ミアは少しだけ動揺した表情を見せた。



「おう。寂しいからここにいろ」
「えっ…!ちょ、サッチ…」
「なんだよ」
「……べつに…、…一度部屋に帰るだけだから…。」
「なんで?いろよ」
「なんでって…。シャワー浴びて、着替えてからまた来るから」
「…だめだ」



なんだよ、そんなことかよ。

それがおれの本音で。
特別重要な用事でもねぇみてぇだから、おれはこいつを逃すまいと素早くミアを腕の中に閉じ込めた。



「ちょ、ちょっとサッチだめってば、!」
「なんで」



ぐっと近くなった距離に潮の匂いがミアの身体から先ほどよりも強く香る。



「私、本当に今くさいから!髪も服も潮臭いから!」
「あばれんじゃねぇよ」
「せめておふろ、」
「おれは海の匂い好きだぜ」
「そういうことじゃないっ!」



おれは全然気にしねぇのに、女って本当難しいよな、なんて思うけど、ミアに合わせるつもりは今日だけは毛頭ない。



「ミアちゃん今日は諦めて」
「やだお風呂入りたい…!」
「あとで一緒にはいろうぜ」
「今がいい」
「なんで?」
「サッチに抱きしめられる時は綺麗な時でいたいから」
「………でも今日はダメ」
「なんで!?」
「おれのために帰って来たんだから、今日くらいおれのわがままに付き合って」


そう言って少し腕の力を強めたら、ミアは少しだけ抵抗を緩めた。



「ミアちゃん大好き」
「………私もサッチ大好きだよ」



諦め混じりの、でも愛しさを感じるミアの声に、おれは思わずもう一度「好きだぜ」と笑った。











(なぁ、もう一回言ってよ)
(なに?)
(今日だけの特別な言葉)
(……お誕生日おめでとう?)
(…おう、それ。)
(…サッチ、お誕生日おめでとう)
(おう、ありがとな、。)






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