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もやもや





「………エース今あの子の脚見てたでしょ」
「ぅえ!?」
「それに胸腰お尻顔!」



ぎょっとした顔のエースが私の不満顔を捕らえる。



「すみませんねぇ。見惚れるような肉体を持ち合わせていなくて。」



ぷいっとエースから視線を外して、私は頼まれていたお遣いをすませるために足を先へと伸ばした。

エースは女好きだ。大好きだ。浮気性とかそういうんじゃないけど、脚線美だとか巨乳だとか、そういう“いかにも”なモデル体型女が好きだ。そりゃあ、男だし多少は仕方ないとは思うけど。
対する私はそんなエースの彼女でありながら、巨乳の巨の字にすら土下座で謝りたくなるほど貧乳であり、可哀想になるくらい脚は短い。いや別に真っ平らではなくて、それなりに、ふんわり丸みを帯びているくらいに胸はあるし、普通の人並みに脚の長さもある。ただそれは、歩くだけでたぷんたぷん揺れてるその辺の美人巨乳と比べたり、色気漂う美脚ナースさん達と比べられたらそれはそれは貧相なものであって。



「ちょちょちょ、待てってミア」
「………」



焦って私の後を着いて来たエースも無視して、黙々と歩を進める。
それに更に焦ったのか、エースは横をついてきながら必死に私の気を引こうと話しかけてきた。



「さっきのは誤解だって!ミアが隣にいんのに他の女見るわけねぇだろ?」
「…ふーん。完全に目で追ってたけどね」
「違うんだって!ホント、見てねぇから!」
「へぇー、ガン見だったのにね」
「マジで!怒んなって、!……おれ、本当に、別にあんな、見てねぇし、」
「エースって平気で嘘吐く人だったんだね」
「……………ごめん、ちょっと見た……。」
「ほらやっぱり」



無表情で返答していたらついにエースが折れる。
しゅーんと反省の色を見せ始めたエースに、それでも私の胸の中のもやもやは取れなくて。



「ごめん。確かにモデル体型美人が好きなのは認める。けど、好きなのはミアだけだし。マジで。」



真剣に謝るエースに、言いようのないもやもやは募る一方で。



「私、別に怒ってないけど」
「いやでもおまえ機嫌悪いっつーか…、」



機嫌が悪いのは、このもやもやのせい。エースに怒ってるわけじゃない。

好みの人とか美人の人がいて、その人を見るくらい、別にいい。浮気じゃないなら、気にしない。私だってかっこいい人がいたら見るくらいするし。


むしろ、エースの好みになれない自分が申し訳ないくらいで。
モデルみたいにスタイルの良くない私を何でエースが彼女にって選んでくれたのかはわからない。
美人じゃないからって浮気をするわけじゃないし、エースが私の事を好きでいてくれているのは十分に伝わっている。


だけどさぁ、そうじゃなくってさ、。



「別に、他の子見るくらいいいけどさ」



私だって、なれるもんならエース好みのスタイルになりたい。



「そのくらいで、怒ったりはしないけど…」



胸の大きさや脚の長さ、ましてや顔を変えるだなんて物理的に無理だからこそ、このもやもやが私の中に出来るんだ。
見た目なんてどうしようも出来ないし、仕方のない事だってわかってる。
でも、もやもやと出て来ちゃうものは仕方なくって。
消化の仕方もわからなくって。



「でも、私だって出来るもんならエース好みの体型になりたかったよ…」
「え?」



ぼそりとそう呟いた私に、きょとんとしたエースが映る。
そのアホみたいな顔に少しだけ悔しくなって、私はそのままエースの目を見て叫んだ。



「でもなれないんだから、やっ、ヤキモチくらい妬かせろーっ!」



もやもやを全部出してしまいたくって、勢い任せにそう叫んだら、ぽかんと口を開けたエースがいて。だんだんと冷静になっていく頭に自分が発言した事が恥ずかしくなって、私はそのままエースを置いてお遣いへと駆け出した。
ラッキーな事にエースはその後私を追いかけては来なかったけど、その後時間のかかるお遣いが終わるのを外で待っててくれたエースは、帰り道はよそ見せずにずっと私の手を握って歩いてくれた。









(あーおれもう他の女とかどうでもいいわ、マジで。)
(男だしやっぱり理屈ではわかってるし仕方ないし全然見てもいいけどでもやっぱり見て欲しくなくて、ってああもう矛盾だらけ…)









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