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カウントダウン





もう丸2日、エースと口をきいていない。
喧嘩した理由はなんだったか。たぶん、些細な事だった。エースとまともに顔もあわせていないこの状況の方が私には堪えていて、正直今は喧嘩の理由なんてどうでもいい。



「はぁ……」



甲板の隅で膝を抱えて溜息を吐く。下を向いて、潮で色の変わってしまった床を見つめる。涙なんて出てないけど、他と違うその床の色は私の心の涙が溜まったようにも見えた。


謝るべき。それはわかってる。だけど、私が悪いわけじゃない。
かといって、エースが悪いわけでもないけど…。いや、両方悪いのか。

ちょっとしたすれ違いに、売り言葉に買い言葉。
お互いに意地を張って、ここまで来てしまった。



「……エースのあほちん…」



むっと唇と尖らせてぽつりと呟く。そして、ずきりと痛む胸。
悪口言ってすっきりするかと思ったけど、それは予想外のブーメランで私の胸に突き刺さった。





あーあ。上手い事、神様が2日前に時間を戻してくれないかな。
なんてそんな調子のいい事をぼーっとする頭で考える。

だけどその時。



「アホで悪かったな。まーおまえに言われたくねーけど。」



隣から急に声が聞こえて来て顔を上げると、そこにはそっぽを向いて隣に立つエースがいて。



「……エース」
「なんだよ」



予想外の人が隣にいて思わず名前を呼んだけど、不機嫌そうにじろりと私を見下ろしたエースに、喧嘩の名残か、私はイラッとしてしまった。



「それこっちのセリフなんだけど。何の用?」
「ああ?……べつに。ミアに用なんてねぇよ。うぬぼれんな」



あー。突き刺さる。グッサグッサとエースの暴言がこの柔な胸に。


じゃあ何で隣にいんのよ。話しかけんなよ。
なんて、色々と言いたい事はあったけど、痛んだ胸のせいで私はエースにカウンターを与えてやる事が出来なかった。



「…………おれは謝んねぇからな」
「……私だって謝らないし。勝手にすれば。」



私の反撃がなかったのが予想外だったのか、少しの沈黙が流れたあとにまたエースが口を開いた。今度は私もそれに言い返して。だけどそれはまた強がりの塊で、口から出た後にげんなりとなった。

これではまた、二の舞じゃないか。
この2日間で懲りたんじゃなかったのかよ、と自分を殴り飛ばしたくなったけど、意地ってなかなかに手強い。



「あっそ。じゃあ勝手にするけど。」
「別に私には関係ないし」
「………そーかよ。」


ぎゅう、と膝を抱いてそっぽを向く。

アホだ。本当にアホだ。あー、自己嫌悪。

わかっているけど難しい。そんなに上手く割り切れる程大人でもない。
逸らした視線はエースとは反対方向で。
そのままエースはどこかに行っちゃうのかなと思ったけど、予想に反してエースは溜息を吐きながら私の隣に座った。



「………なに…、」
「…べつに…、おれの勝手だろ」
「…勝手だけど、……」



ちらりとエースの方を見ると、エースも向こうを向いていて。嫌ならここにいなくてもいいのに、とむっとする。そしてまた、自分の思考に“どんだけ子供だ”と落胆した。


また少しの沈黙。
むすっとした態度を崩さないエースに、私も若干居心地が悪い。でもだからと言って、先にここにいた私が離れるのも負けたみたいで嫌だ。


そんな事を考えていたら、胡座をかくエースの隣にだらりと投げ出された手が目に入った。目に入ってしまえば気になってしまうもので。



「…………」



私はまたそっぽを向きながら、その手にそろりと自分の手を重ねた。


振り払われたら確実に泣く。
その自信はあったけど、エースはそんな事はしなくて。
エースの方を見ていないからエースがどんな表情をしているかなんてわかんないけど、色んな意味で胸がドキドキとして、同時にきゅうっと締め付けられた。



「………なに?」



一拍置いて、エースが感情を抑えたような声で聞いてくる。
それに私は同じように感情を抑えた声で返した。



「………別に。…私の勝手でしょ、」
「…勝手だけど、よ、」



さっきの私と同じ反応をして、だけど若干言葉を濁したエースは、少し間を空けて“じゃあこれもおれの勝手だ”とそう言って私の手をぎゅうと握り返した。
同時に、私の心臓もぎゅっと握られた気がした。








あの言葉まで、
あと3秒。











ねぇ、
あのさ、





「「…………ごめん、」」












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