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強く、ただ強く。





「おまえさ、なんでそんなに頑張ってるんだ?」



そう言葉を発した能天気そばかす人間を、私は複雑な思いで凝視した。



「…強くなりたいからですよ」



鍛錬で流した汗をタオルで拭って、そう答える。
女っていうだけで抱えるディスアドバンテージは、男には決してわからないものだ。私はこの海賊団にいることが誇りで、その名に恥じないような海賊でありたいと思っている。



「ミアは十分強いと思うけどな」
「エース隊長はもっと強いですけどね」
「そりゃあ、隊長だからな」



ニカッと屈託のない笑みを向けるエース隊長が、私にはとても不快に映った。
強くなろうと思っても、一生懸命頑張っても、男の人っていうのは私の努力を簡単に乗り越えていく。同い年の周りの女の子が恋にお洒落にはしゃいでも、私はその時間を鍛える事に使って。だけどそれでも性別の差は大きい。踏みにじられた私の努力は、また努力を重ねる事でしか挽回出来ない。



「ミアはなんでそんな強くなりたいんだ?」
「親父の名に恥じないように、強くなりたいです」
「それはおれも同じだけど、よぉ…」



いつになく歯切れ悪くなったエース隊長を不審に思って、私は水分補給していた手を止める。



「…なんですか?」
「いや、なんつーか…」
「?」
「もうちょっと、他の奴みたいによ、お茶とかオシャレとか、・・・あ!女らしく?してもいいんじゃねぇ?」
「……!」



その言葉にカッとなる。
隊長にはわからない。どんなに努力したって、男である隊長達には追いつけない壁があるってこと。それがどんなに悔しいことかってこと。負けるたびに、差を見せつけられるたびに、血の滲むような努力なんて意味がないんだって言われているように感じる事も。

それを。女らしく?
だから、女らしく?



「エース隊長には!わかりませんっ…!」



思わず声を荒げて、そう言ってしまった。瞬間、後悔の念が襲って来てキュッと唇を噛むけど、ムカムカとする気持ちはおさまらなくて、態度が悪いのはわかっていたけどそのまま何も言わずにくるりと背を向けて歩き出した。
だけど、それはエース隊長に手を掴まれた事で阻止されて、私は隠す事もなく顔を歪めた。



「気に障ったなら、謝る。悪ィ、」
「………いえ、」
「おれが言いたかったのは、なんつーか、もっと気を抜いてもいいんじゃねぇかってことで。あー、その、えーっと、…ワリ、いい言葉が浮かばねぇ…」
「…………」



筋肉質の私よりも頭1つ分大きな男が、わたわたとする様子に、かっとなった私の心も幾分か沈む。



「…すみません、隊長。失礼な事、言ってしまって」
「いや、おれも。馬鹿だからよ、気が利いた言葉言えねーんだけど」



へへ、とバツが悪そうに笑ったエース隊長は、何にも悪くない。少し落ち着いた心で、自分が相当余裕をなくしていた事に気付く。



「なんつーか、ミアが頑張ってる事は、皆ちゃんと知ってっからよ。この船で一番努力してるのもミアだし。でもさ。っつーか、だからよ、おまえはもっと気ィ抜いてこーぜ」
「……はい。」



不思議だ。
さっきまで凄くイライラしていたのに、エース隊長の言葉が今はすんなりと心に入ってくる。
見ていてくれてた、って言うのが、思った以上に嬉しかったのか、胸がじわりと震えた。



「じゃあ、エース隊長、鍛錬に付き合ってください!」
「…………え」
「?」
「……あ、おう……。」



きっと一人で悶々と考えながら鍛錬していたのがいけなかったんだ。気を抜いてって言うのは、きっとそういうことだったんだ。と、そう気付いて今度はエース隊長を誘ってみる。ちょっとびっくりしたみたいな顔だったけど、エース隊長はその後の鍛錬にも付き合ってくれて。


まだまだ私は隊長にはかなわないけど、とりあえずはどの女の人にも負けないくらい強くなることを目標に、明日からも頑張ろうと心に誓った。












(この流れでおれは息抜きにミアをデートに誘うつもりだったんだが何で鍛錬になるんだ…?おれが馬鹿だから理解出来ないだけなのか?)







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