ピザ事件
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書庫のドアが開いて知った気配が入ってくる。おれは口角をあげて、手の中にある本に羅列されている文字を目で追うふりを続けた。今日はどんな突拍子もない事を言うのだろうか。
「サボー!あ、読書中ごめん」
おれの目の前に飛び出したミアは大きな声を上げてしまった事を今更ながら後悔したようだ。急にしゅんとしぼんだ声はおれを笑わせるには十分で。
「ばーか、ここで本読む意外にする事あんのかよ?」
「うへ、ごめ、」
パタンと閉じた本をこつんとミアの頭に乗せると、ミアは変な声を出してまた謝った。
「で?どうした?」
「あ、うん!ちょっとサボに言ってもらいたいことがあるんだけど」
「言ってもらいたい事?」
こくん、と頷いたミアは、おれの隣の空いていた椅子に腰を下ろした。ミアならどんな顔も表情も好きだけど、このわくわくした表情はおれを笑顔にさせてくれるからもっと好きだ。
「いいけど。なんて言えばいいんだ?」
「へへへ、うん。あのね、ピザって10回言ってみて?」
「ピザ?」
「うん!」
にこにことするミアを疑問に思いつつも、ご希望通り“ピザ”を10回口にする。
「……ピザピザ。10回言ったけど?」
「ありがと!じゃあ質問ね?ここは!?」
そう言って自分の肘を指差したミア。
「…肘?」
「………!!!」
なんとも形容し難い顔でおれを見るミアに何か間違った事を言ってしまったかと一瞬たじろぐ。
だけどすぐにこれはミアの欲しかった答えとは違う事に気付いて。先にピザと言わせていたのは、きっと肘を“膝”と答えて欲しかったからだ。引っかけ問題に上手く引っかからなかったおれに、しょんぼりしながらミアは「正解でーす」と告げる。そんなミアに心の中で謝りながらも、おれは別の言葉をミアに向けた。
「じゃあ、今度はミアの番」
「私?」
「そう。“好き”って10回言って?」
「えっ、自分がやるのはドキドキするなぁ…」
「いやならいいけど」
「ううん、する!」
負けず嫌いなのはミアの長所だと思っている。
気合いを入れて言葉を紡ぎ始めたミアを横に、おれはその紡ぎだされる言葉を心地良く耳に流す。
「……好き、好き、好き!言ったよ!」
「うん。ありがとな。」
「質問は!?」
さあこい!と、絶対に騙されまいと気合いが入っているのが見え見えのミアにふっと笑いが漏れる。だけどそれは次のおれの言葉であっけなく崩れる計算だ。
「質問はねぇよ。おれもミアのこと好きだしな」
ボッと顔を赤くさせたミアは口をぱくぱくと動かしていて。
そんなミアが余計に可愛くておれはその柔らかい髪をくしゃりと撫でた。
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