重なる想い
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先日マルコさんと初デートを済ませた。
その島を出航してもう既に数日。
あれはもう両思いフラグ立ちまくりだと思ったのに。
船に帰ったら皆に報告してむふふだと思ってたのに。
「なんなのこの仕打ちぃぃぃ」
今私は甲板で昼寝をしているエースの隣でえぐえぐと泣きながら頭にキノコを生やしていた。
あんなに、あまーい雰囲気だったのに。
マルコさんからの半セクハラ発言もあったのに。
結局あれはからかっているだけだったのかな。
船に帰って来てからもマルコさんの私への態度は変わらない。
つまり、何もかも軽く流されている。
ふと、昼寝に入る前のエースの言葉を思い出した。
“あんだけ好きっつってんのに答えねぇってことは、もう無理なんじゃねぇの?”
“今のうちに諦めとけよ。後戻りできなくなるぞ”
すでに後戻りできないとこまで来ている気がする。
でもこれ以上胸が痛くなるのは嫌だ。あのデートの時みたいに、きゅんきゅんしたい。
“最後にマジで告白してだめなら諦めりゃいいじゃん”
エース曰く、私の告白は軽いらしい。
確かにもう何百回も告げているので、そう感じられてもしかたない。
じゃあ、エースの言うようにまじめに告白したら、マルコさんの本当の気持ちが聞けるのかな。
好きであれ、嫌いであれ、
マルコさんの本当の気持ちは聞いておきたい。
それに、面と向かって嫌いと言われたら、諦められる気がする、。たぶん。
きっと、それしか方法が無い。
ずっとうじうじしてるより、いいかもしれない。
ぐいっと涙を拭き、キノコをもぎ取り、エースの体を飛び越えて、私はマルコさんの元へ駆け出した。
*
この時間なら食堂にいるはず、と長年の片思いでの経験を活かし、足を動かす。
すると、示し合わせたかのようにそこにはマルコさんしかいなかった。
「マル、コ、さん」
きょろきょろと本当にマルコさんだけしかいないのか、食堂内を見渡す。
「ミア。丁度いいところに来たよい。コーヒー淹れてくれ」
「コーヒー、ですか」
「お前が淹れるのは旨いからねぃ」
勢いがそがれるとはこの事か。
肩の力がどっと抜けて、わかりました、とよろよろとキッチンに向かう。
こぽこぽとお湯が沸き始めるのを横目に見ながら、何て告白しよう、と考える。
いつも言ってるけど、いつもとは違う告白。
大事に育ててきた気持ち。
ぐるぐると考えながら、マルコさん好みのコーヒーを淹れる。
「どうぞ」
「ありがとよい」
ことりとテーブルに置いたコーヒー。
マルコさんの笑顔。
一瞬、この関係のままだったら、ずっとマルコさんとこうやって笑っていられるかもと考えがよぎる。
けど、すぐに、この関係が嫌でここまで来たんだと頭を振り考えを改めた。
マルコさんは礼を言うと、すぐに目の前の新聞に目を戻した。
コーヒーを口に運ぶ。私はその隣で動けなくなっていた。
どきどき。
今まで好きと伝えるのに、ここまで緊張していただろうか?
まさに、一世一代の大告白。
私、弱いし、可愛くないし、うるさいし、
いいところなにもないんです。
でも、マルコさんを好きな気持ちは、誰よりも、誰よりも、持っています。
妹のままでは、嫌なんです。
ぎゅっと目を瞑り、ありったけの気持ちを込めて、言葉に乗せる。
「マルコさん、…、すきです!」
自分の声が耳に残る。
どきどき。ばくばく。心臓の音がやけに大きい。
そっと、目を開けた。
「知ってるよい」
マルコさんは、こちらも見ずに、新聞へと目を落としながら一言そう呟いた。
ズキン。
ぎゅっと心臓を掴まれる。
締め付けられる心臓の痛みと同時に、私は理解した。
そうか、これが、この恋の終わりなんだな。
マルコさんを好きって気持ちをいっぱい込めた、最後の告白。
気付きもしなかった。振り向きも、しなかった。
そう思った時、ぽろり、ぽろりと制御できない涙が溢れてきた。
そんな私にも気付かず、新聞を読み続けるマルコさん。
――私、そんなどうでもいい存在だったんだね、。
「…、マルコさん、」
未だこちらを見ないマルコさんは、適当に相槌をうつ。
「もう、二度と、マルコさんには、告白しません。」
ゆっくりとマルコさんは顔を上げ、私を見ると眠たげな顔を驚きの表情へと変えた。
そりゃ、今まで一度も泣かなかった私が泣いてるんだもん。
「そのコーヒーも、今日で最後ですから!!」
これ以上いると、色々と追求されると思ったので、溢れる涙を抑えもせずに、マルコさんを睨みつけて食堂を全速力で出る。
こんなもんか、あっけなかったな。
後でサッチさんに美味しいスイーツでも作ってもらおう。
涙を拭いながらそんな事を考える。
ついにそこの角を曲がったら私の部屋、と言うところで、突然、左腕をすごい強さで引っ張られた。
勢いでバランスを崩すが、なんとか踏ん張って倒れるのは免れる。
こんなときに、誰、と思い顔を上げると、それは今自分の想いを告げてきた人で。だめ、混乱する。
「お前、走るの早すぎだよい…」
「まるこ、さん……な、んで…?」
「さっきの、なんだよい」
「な、なに、って…」
また言わせるの?
また苦しい思いしなければいけないの?
「コーヒー…」
「は…?」
「明日も淹れろよい」
「……むりです」
何の話かと思ったら、捨て台詞のコーヒー。
あの私の告白だって、きっといつもの告白のひとつと思っているんだろうな。だから、心の片隅にも、私の言葉は残ってないんだ。
私の告白は、コーヒーに負けた。
締め付けられる胸はそのままだけど、急に冷めていく頭に、涙も引っ込む。
「マルコさん、最低ですね」
「あぁ?」
「コーヒー、条件付きで淹れてあげてもいいですよ」
「条件?」
「マルコさんが私を彼女にしてくれたら、これからも淹れてあげます」
「わかったよい」
「でしょ、だから無理……え?」
さっき冷静になったはずなのに、また私の頭は混乱する。
マルコさんを見ても、至って普通の表情で私を見ていて、余計にわからなくなる。また、からかわれたのだろうか。
「ちょ、からかうの、やめてください」
「からかってない」
「、…」
いつもとは違う真剣な目に、言葉が詰まる。
けど、心はとても複雑で。結局私はコーヒーの付属品なのだ。
どこまでバカにすれば気が済むのか、そんなにコーヒーが好きか、と、今度は怒りが沸いてきた。
「…、コーヒーは、淹れます」
「……」
「けど、彼女にはなりません」
てっきりマルコさんはじゃあ問題解決、と食堂に帰るのかと思っていた。
けどマルコさんは眉間に皺を寄せたままこちらを見ていて、少し居心地の悪さを感じる。
すると、マルコさんは、はあ、と大きな溜息をついた。
「今までちゃんと向き合わなくて悪かったよい」
「……」
「条件は呑む。嫌ならコーヒーは淹れなくていいよい」
「………………わかりにくい」
「理解しろぃ」
言うだけ言って腕を離し、おそらく食堂に帰るのだろう、マルコさんは元来た道を歩き出した。
私の頭の中では、さっきのマルコさんの言葉が繰り返されていて。
回りきらない頭で、答えを導きだそうともがく。答えなんて当に理解はしているんだけど、それが信じられなくて、ゆっくりと考える。
条件は呑むけど、コーヒーは淹れなくていい。
つまり、彼女にしてくれるけど、コーヒーは淹れなくていい。
イコール、私はコーヒーの付属品じゃなくて、マルコさんの普通の彼女になれる
ぶわぁぁぁ、と周りに花が散ったように嬉しくなる。
胸がぎゅっとなって、さっきとは違う苦しさに戸惑う。
そこで、ふと気付く。
――マルコさんは私のこと好きなのかな。
シンプルだけど、一番重要な疑問。
これがわからなくて、さっきまで悩んでいたのだ。
彼女にするとは言ったけど、本当は好きでもないけど付き合う事にしたとか、もし後で知ったら絶対悲しみで死んでしまう。むしろ本当は、それこそコーヒー目的かもしれない。
ばっとマルコさんの姿を目で追い、小さくなっている背中に向かって叫ぶ。
「マルコさーーーーん!!」
くるりと振り返るマルコさん。ああ、好き!
「それって、…、両想いってことですかーー!??」
「っ、声が、大きいんだよい!」
顔を引きつらせて、俊足で私のところまで来て口を塞ぐ。
へへ、もう遅いですよ!
「だって、マルコさんの気持ちがわからないと、彼女になれません!」
「さっき言っただろうが」
「はっきり言ってください。不安になりたくありません!!」
「……さっきので、あってるよい」
「…両想いですか?」
こくん、と頷く。
正直少し不満だけど、今までのを考えるとすごい進歩なので、まぁよしとする事にした。
嬉しさがこみ上げてきて、食堂にいたときとは打って変わってにこにこと笑顔になる。涙の跡も乾いてしまった。
「えへへへ、マルコさん」
「なんだよい」
「私いますごく幸せです」
「それはよかった」
「コーヒー、冷たくなってると思うんで、淹れ直してあげますね!」
るんるんと軽い足取りで食堂に続く道を進む。
と、今日二度目の衝撃に体が傾いた。
どうやらマルコさんにまた腕を引っ張られたらしい。
デジャヴか、と思う間もなく、倒れるようにマルコさんの方へ体を寄せると、“言い忘れてた”と腰を屈めたマルコさんが耳元でこっそり私に囁いた。
―――――ミア、好きだ。
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