視線の先の幸せ
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ローさんって言う人と知り合いになった。
きっかけはよくあるものではなかったけど、どうやら同じ駅を利用するらしく、その後もちょくちょく会った。
「来ないなぁ…」
また例の如く、待ちぼうけをくらっている私は、ローさんと会った日の事を思い出す。あの日もこうして彼氏を待っていて、暇を持て余していたローさんに声をかけられたのだ。
あの時は、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ参っていた。
都合のいい女だって頭ではわかっているけど、ドタキャンに浮気に、一人で待っている時間が虚しくて、落ち込んでいた。頭ではわかってても、好きなんだから仕方ない。どんな理不尽な事も許してしまうし、こうやって今日時間通りに来てくれないことだって、私が彼の機嫌を損ねてしまったからだと思っている。私にとっては彼が一番で絶対なのだ。
だから、あの時は、ちょっとだけ救われた。ローさんの暴言にはカチンときたけど、気が紛れて、…楽しかった。
「あ、ローさんだ」
ぽつりとそう呟いた先には、いつもメールを無視するローさんで。
私が彼と待ち合わせしていた場所から少し離れた所をローさんは歩いて来た。まさに今考えていた人に会えるなんて。その偶然に自然と笑みが漏れて、1歩踏み出して声をかけようとして、それから、足を止めた。
「………、」
数歩離れた後ろから、大人っぽい女の人が小走りで駆け寄りローさんの腕に自分の腕を絡めて隣を歩く。
なんだ。彼女いたんだ。
日曜日に遊びに連れて行ってもらえないとわかった子供みたいな気持ちになって、無意識に口を尖らせた。
ローさん彼女いないって言ってたのに。嘘吐かなくても、いいじゃん。
「私の彼氏は、いつ来てくれるのかなぁ」
人の幸せそうな場面を見て、自分も早く同じになりたいと願う。
かれこれ、待ち合わせ時間から3時間半。急に現実を叩き付けられたような気持ちになって、ずん、と心が重くなった。
だけど。
「ワリ、待ったー?」
へらりと悪びれのない聞き慣れた声に、パッと心が上昇する。好きな人の力って、凄い。待っていた3時間半なんて、彼がいてくれるならなんでもない。
「全然待ってないよ!来てくれてありがとう」
にこりと今日一番の笑顔を見せて、私は彼の元へと駆け寄った。
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