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飲みほされたアイスティー





仕事の帰りによく寄るカフェがある。
駅の近く、メイン通りに面しているが、中は静かで落ち着きがあり、なによりそこのコーヒーが上手い。店員も余計な会話はしない。


窓側の席を取り、店員が持って来たコーヒーを一口だけ口に含み、ふぅと息を吐いた。ガラス越しに外を見ると、誰も彼も皆忙しなく足早に通り過ぎる。かく言う自分も先程まではあの中のひとりだったのだ。大都会という人ごみの中で生きるというのも楽ではない。だからこうして、一息つける時間を作っている。



「……、」



ポケットの中の携帯電話が震えてメールの受信を知らせる。仕方なくそれを取り出しディスプレイを光らせると、送信元はあの女。前に一緒にメシを食った時に無理矢理アドレスを聞かれたのだ。それ以降、ちょくちょくとメールを寄越すのだが、それに返事をした事は一度もない。どうせろくな事を書いていないのだろうが、今回も一応目を通す。



“どうせ今日も返信くれないんでしょ?ところでコーヒー美味しいですか?”



読んだ瞬間ドキリとした。
同時に窓ガラスが軽く音を立てて顔を上げるとそこに女が立っていた。むぅ、と不満そうな顔でこちらを見ているが、たぶん俺はそれ以上に嫌そうな顔をしている。
数秒こちらを見ていた女は、急に方向を変えて歩き出す。向かう先は店の入り口のようだ。面倒な事になりそうな予感に、意識せず溜息が出た。



「ローさん久しぶり!」



早速店内に入って来て元気よく笑顔でそう言った女は断りもなく俺の前の席に座る。



「今日は化け物メイクじゃねぇのか?」
「うん。今金欠だから彼氏に会えないの」



相変わらず、こいつの基準は可笑しい。
だがそれを言ってもコイツには通じねぇから、俺は「そうか」と相槌だけ打ってもう一口コーヒーを啜った。



「てかローさん、返事くれないの酷くない?」
「返事するような内容でもねぇだろ」
「そう言う問題じゃなくて、全く返事くれないって人としてダメでしょ」
「お前にダメだしされたくねぇよ」
「…ずっと思ってたんだけど、ローさんにとっての私って結構酷いポジションだったりする?」
「わかってんじゃねぇか」



ニヤリと笑うとミアはあからさまにしょげてみせた。
正直面倒くせぇ女だと思うが、金目当てに群がってくる媚びた女共よりはマシだ。馬鹿には変わりねぇが。



「友達って思ってるのは私だけかぁ…」
「知り合いだろ、知り合い。いや、顔見知りか」
「ちょっとそれ酷くなってる」



ぶふ、と、下品とは言えねぇが可愛いとも言えない笑いをして、先程運ばれて来たアイスティーを口に含む。



「ちゃっかり飲み物頼んでんじゃねぇよ」
「いいじゃん。ローさん暇でしょ」
「暇じゃねぇ」
「うそ!?じゃあ急いで飲むね」
「……。」



馬鹿じゃねぇの。
そう思うくらい、ごくごくと勢い良くアイスティーを飲む目の前の女が、今まで俺が見て来たどの女とも重ならなくて、ただただ、深く溜息を吐いた。










(だけど、まぁ、…悪いとは言わねぇ。)






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