たからもの
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肉!肉!と歌いながら私の隣を歩くルフィは、この島で使えるお小遣いをついさっきナミから貰ったばかり。ルフィのお金が何に消えるかだなんて聞かなくてもわかる。まるでデートとは言い難いけど、これが私たちの常だから。
だけど今日は、折角だし、恋人らしく彼氏に何か買ってもらいたいな、なんて、思ってみたりしたわけで。
「ねぇ、ルフィ」
「ん?どした?」
目的の肉を食べるお店に入る前に、思い切って声をかけてみた。別に、高い物じゃなくても良い。そう、例えば、そこの露店に並んでいるアクセサリーとかでも。
「あのね、ルフィ、私…」
「?」
「欲しいものが、あるんだけど…」
普段しない事をするって、随分勇気がいるものだ。
普通のカップルだったら、きっと彼氏が気を利かせてプレゼントなんてしてくれるんだろうけど、それはルフィに限ってはほぼないに等しい。
「欲しいもの?」
「うん。そこの、アクセサリー…欲しいかな、なんて…」
自分で言っててなんだか悲しくなるんだけど、でもそんな私なんて気にしないようにルフィは「ふーん、どれどれ」とその露店に近付く。
私もルフィに遅れをとらないようにそのあとに続くと、露店のお姉さんがにこりと笑ってくれた。
「ミア、欲しいモン決まってんのか?」
「えっ、うーん。どれがいいかな…」
ネックレスにリング、ブレスレットにピアス。キラキラと宝石箱の中みたいなアクセサリーを前にすぐに決める事なんて出来ない。
「なんだよ、決めてねぇのか?」
「ごめん、すぐ決めるから」
「買ったら飯屋な!メーシ!メーシ!」
隣で鼻歌を歌うルフィはきっとここを払ってくれる気なんてさらさらない。別に男に貢がせたいとかそういうんじゃないけど、“彼氏からのプレゼント”がどうしても欲しかったのだ。なんていうか、そう、”彼女の証”みたいな。
まぁ、しょぼい勇気しかない私はここまでが精一杯で、きっと私はまた、肉に負ける彼女になるんだろうけど。
今日の戦はここまでか、とばかりに、ルフィにわからないように気を落とす。だけどふと視線に気付いて顔を上げたら、露店のお姉さんとバッチリ目が合ってまたにこりと笑いかけられた。そしてお姉さんは意味深に私にウインクをすると、今度はルフィへと向き直る。
「ねぇお兄さん、この子お兄さんの彼女?」
「おう、あげねーぞ!」
いきなり話しかけられてこう答えるあたり、ルフィってやっぱり凄い。当たり前のようにそう答えてくれたルフィにちょっとだけ胸がほっこりして、口元が緩んだ。
「じゃあさ、お兄さんが決めてあげなよ?」
ふいに目の前のお姉さんがルフィにそう言って、ドキリと心臓が跳ねる。ちらりと、横目でルフィを盗み見た。
「おれが?」
「女の子は目移りしやすいんだよ?だから、お兄さんが彼女に似合うと思うの、選んであげなよ」
「なんでおれが?ミアはミアの好きなもん選べばいいだろ?」
「………あはは、そう、だね………」
自分が欲しいものを買え。
至極当然な回答に、私は思わず乾いた笑いで返した。
だよね。ルフィだもんね。
…そういうことじゃ、ないんだけどな………。
なんていう心の声はもちろんルフィには届かなくて、あからさまにしょぼんとしてしまった私を見たお姉さんは苦笑すると、すっと立ち上がってルフィの腕を引っ張って行く。
きょとんとする私とは裏腹にルフィは「なにすんだ」なんて言っているけど、お姉さんは構わずに私に背を向けてルフィと何やら話し始めた。
小声で喋っているから何を言っているかわからないけど、最初こそ不満そうな顔だったルフィだけど、麦わら帽子を指したり、驚いた顔をしたり、唸るような顔をしたりして、最後は笑顔になってこっちに戻って来た。
「なに話してたの?」
「まーいろいろだ!」
そう言うルフィの目は私ではなく目の前のアクセサリー。
仕方なく一緒に戻って来たお姉さんに目を向けると、またパチッとウインクを投げられる。同性だけどそんな仕草にドキッとしてしまった所で、隣でルフィが「これだ!」と叫んで意識を引き戻された。
「うん。これがいい。ミア、おまえこれにしとけ」
「えっ?ルフィ選んでくれたの?」
まさか、と思って見たルフィの指の先にあるのは、シンプルだけど細部にきらりと小さな石がはめ込まれている指輪。
「………可愛い」
「気に入ったか?」
「うん。じゃ、これにしようかな」
正直、ちょっと高そうな指輪だったし、他にもちょっと可愛いかななんて思うのがあったけど、不思議だ。ルフィが選んでくれたってだけで、他のどのアクセサリーよりも可愛く見える。
もうこんな事は二度とないかもな。
だったら奮発して買ってしまおうと、お姉さんへと顔を向けたとき、自分のポケットからベリーを掴み出したルフィがそれを全部お姉さんへと渡してしまって、素で固まってしまった。
「まいど!」
「え、ルフィなにしてんの?」
「なんだ、もしかしていらなかったのか?買っちまったぞ?」
いやいやいるけど。何でルフィが支払いしてんの?
「お肉、食べられなくなっちゃうよ…?」
「いーよ。肉は帰ってから食えば。」
シシシと笑って、お姉さんからそのまま指輪を受け取ったルフィは、ずい、とそれを私の前に持って来た。
「大事にしろよ」
現在進行形で起こっていることがいまだ信じられないけど、私の手を取ってその小さな輪をぐいと嵌めてくれたルフィに胸がきゅぅぅっと締め付けられた。嬉しいはずなのに、口がへの字になっちゃって、嵌めてもらった指輪をもう一度じっと見ながら、ルフィに「ありがとう」と伝えた。
「ルフィ、私大事にするね」
「おう!」
「すっごくすっごく大事にするね」
「そっか!」
「うん。私のたからもの!」
そう言ってたぶん今までで一番の笑顔を向けると、一瞬表情を止めたルフィは、その後凄く嬉しそうに笑った。
(にしても、おまえすげーな!)
(ね!言ったでしょ?)
(え、なになにルフィ??)
(このねーちゃん、おれがミアに買ってあげたものがおれの帽子みてぇになるって言うからよー)
(あ、たからもの?)
(そうそう。良かったね、買ってもらえて(にこにこ))
(へへ、ありがとうございます!)
(あ、でもルフィ。プレゼントはもういらないから)
(なんで?まぁもう金ねぇけど。)
(ふふ、たからものはひとつでいいのです(にこ))
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