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起きて目を開けたら何も見えなくて、まだ夢を見てるのかと思った。だけどそれは間違いで、私の目には何か布のような物が当てられていて、首にはいつも感じない違和感を感じた。
思わず利き手を動かしてまずはこの鬱陶しい布を取ろうとしたが、誰かの手にぎゅ、と手を掴まれ、ヒ、と息が漏れた。



「おはよう、ミア」
「ハ、ルタ……?」



全く気配を感じなくて、手をいきなり握られたので、とても驚いた。でもすぐにこの手の先にいるのはハルタだと認識してほっと息を吐く。
それなら、話は早い。



「あ、それ取っちゃダメだよ」
「え?」



早速布に手をかけてその邪魔な物を取り去ろうとしたら、ハルタにそれを止められてしまって、はてなマークを浮かべながらハルタの声がした方を向いた。



「それ、ミアへの罰だから。」
「ばつ…?」



いつも通りの声のはずなのに、なんとなくプレッシャーを感じて冷や汗が出る。なんとなく、目の前のハルタにはいつものあの笑顔が張り付いている気がした。



「ば、罰って、私何かしたかな、?」
「へぇ、そういう態度?まぁいいけど」



やばいまただ。布越しに見える想像上のハルタは、にっこりとあの嘘くさい笑顔を浮かべている。
どうしようどうしよう。心当たりがない、。
と、過去の自分を超特急で振り返っていると、ハルタは私の右側の髪を撫でるようにすくい、ゆっくりと耳にかけた。



「当ててみなよ?ミアが何をして僕を怒らせたか」
「う、え、…………や、っぱ、怒ってるの、?」
「それなりにはね」



声は怒ってないのに、怒ってるのを感じる。
まずい。これは、非常にまずい気がする。



「…………サッチが隊長達に用意してたケーキ、ハルタの分食べちゃった、から…?」
「食べたの?」
「た、べました。ごめんなさい、。」
「美味しかった?」
「うん。すごく、」
「なら、良かったね。でも不正解」



そう言って、ハルタは無防備な私のパジャマの一番上のボタンをプチリと外した。



「へ!?え、ちょ、!!」
「間違ったから罰。当然でしょ?」



当然じゃないアホか!なんて今の私には言えるわけなくて、代わりに頭の隅々まで思考を巡らせる。だいたい寝起きにこんなに頭を使わせるなんて、鬼だ。



「え、と、…じゃあ、………昨日島でハルタのお財布盗ったから…かな、」
「………。」
「…………、ご……、ごめ、」
「あれ、ミアだったの。おかしいと思ったんだよね。絶対持ってたのに、帰ったら部屋にあるんだもんね。でも、不正解。」



さっきよりも一段と冷えた空気に、プチリと外された2番目のボタン。
私、詰んだ。
両手は自由なのに、ハルタっていう存在に拘束されてる。2秒もあれば、この目隠しだって剥ぎ取れるし、首の周りの違和感が何かっていうのもわかる。



「なんでそんなことしたの?」
「え、と、」



ハルタが知らない子と仲良さげにしてたからだよ。
と、素直に言えずに言い淀むと、ハルタは3番目のボタンを容赦なくプチリと外した。



「ハ、ハルタが、………、知らない子と、仲良くしてて、…ふたりでどっか行きそうだったから…」



視覚が奪われている分、より鮮明に昨日のシーンが思い出される。それに影響されて、最後は弱々しくなりながらも、私はそう訴えた。



「ふーん…。」
「ごめん、なさい。」
「僕がミアを置いてどっか行くと思ったんだね」
「う、…でも、他の子と仲良くするの、嫌だったの…。」
「……ま、素直に言えたから、全部許してあげなくもないけど」



そう聞こえて、無意識に下を向いていた顔を持ち上げた。



「そうだね。そのまま、僕にキス出来たら、許してあげる」
「キス?わかった!」
「でも、…失敗したら、目隠ししたまま抱くよ」



即答で返事をすると、ハルタの意地悪な声が聞こえて来た。
キスなんて、いつもしてる。たとえ目が見えなくても、ハルタにキスが出来ないわけない。
そんななんの根拠もない自信が私を押す。



「キス、出来るよ。だから、もう怒らないでね」



なんで怒ってるかなんて全く見当がつかないけど、そんなものはあとで聞けば良い。

そろりと前へ出した手は、ベッドの上に座っているであろうハルタの膝に触れる。そのまま、ひとつひとつ確かめるように、手の平をハルタの身体に這わせて、腹の上、胸の上と移動し、ついに両手でハルタの頬を押さえた。
ハルタの高さに合わせるように、膝立ちになって、親指の腹でハルタの唇を撫でてその存在を確認する。指の先からハルタの唇が弧を描いているのがわかって、視覚がない分他の五感が働くのか、いつも以上にその存在が意識された。



「……動かないでね」



静かにそう告げて、ゆっくりと顔を近付ける。いつもキスするみたいに。でも今日はいつもよりもっと気持ちを込めて。


あと、数センチ。



「……ッ!!?」



そう、あとほんの少しの感覚だったのに、急に首を絞められたかのような予想外の感覚に、ケホ、と数回咳が出た。
首の違和感。どうやらこれがその正体のようで。反射的にそこに手をやると、革のような感触。首輪だ、と脳が瞬時に理解した。



「ハ、ハルタ、これ、なに」
「あともう少しだったのにね、残念」
「え?え??」
「僕は何もしてないよ。鎖の長さがほんのちょっと足りなかっただけ」
「くさり、?」

「キス、して欲しかったのにな。ホント残念。」



私の言葉なんて尽く無視して、ハルタは耳元で意地悪く「ま、約束だからね」と囁くと、ボタンの外れたパジャマの片側をするりと流れるようにはだけさせ、外気に触れた肩筋にキツく、キスをした。


さっきまで寝ていたベッドに逆戻りする瞬間も、私は完全に状況を理解出来ていなくて、見えない目の奥ではエンドレスにハルタのあの、弧を描いた口元を見ていた。











(ハルタの、ばか…)
(悦んでたくせにね)
(う、うるさい……。)
(しょうがないから今はまだ寝かせてあげるよ。でも外には出さないから。)
(こんなんで、出れるわけないじゃん、)
(うん。よくわかってるね。えらいえらい。)
(……結局、なんで怒ってたの?)
(昨日、ミアが他の男と仲良くしてたから)
(え………(……やきもち(照)))





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