I got you
絶体絶命かもしれない。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってイゾウ!!おち、落ち着いてっ!」
「俺は十分落ち着いてるぜ?」
「うそ!ちょ、まじで、来ないでっ…!!」
じりじりと縮まる距離。後ろは壁。
何で行き止まりなんかに走りこんでしまったんだ。アホか私は。
あ、いや、待てよ。
きっと、ここに来るようにイゾウにコントロールされていたのかも。こいつなら、やる。うん。
そんな風に今の状況に妙に納得していたら、いつの間にか距離をつめられていて、バンッ、と頭上で聞こえてきた大きな音に身体が跳ねた。
「ヒィッッ!!」
人間とは実に正直である。
本当にびっくりしたときは、可愛らしい悲鳴なんて出てくれない。
笑顔のまま私の頭上に手の平を叩きつけたイゾウは、そのまま肘を曲げ腕を壁につける。
至近距離に広がるイゾウの胸板が妙に恥ずかしくて、上を向いたら、作り笑顔のイゾウと目があった。近くなったからもっと分かる。目が笑っていない。
「あの、イゾ、どい、どいて、くださ…」
「どくわけねぇだろうが」
「すみませんっ」
条件反射で謝ってしまった。イゾウの瞳はなんかよくわかんない力があると思う。
「で。さっきの話の続きだが…」
そのままの体勢で、私を見ながら私にだけ聞こえるような声を紡ぐ。
「ミア、お前さん、誰とどこに行くって?」
「だ、だから、エースと買い物に、」
「誰と、どこに、?」
「……エース、と、かいも、」
「誰の誘いを断って?」
「う、……だって、エースとの約束の方が先だったんだもん、」
先約があったんだ。仕方ないでしょ。
「へぇ。エースとは行くのに、俺とは行けねぇってか」
「違うって!そうじゃなくて、!イゾウとは、明日行くって、言ってるじゃん…!」
「今日だ」
「だから、無理だって、」
今更エースに無理って言えるわけないじゃん。私エースが楽しみにしてたの、知ってるし。
イゾウとだって行きたいけど、約束を破るわけにはいかない。
でも、全く折れてくれないイゾウに、このまま瞳を合わせていると有無を言わさず頷かされそうだったから、どうしたものかと下を向いた。
だけど次の瞬間、片手で私の頬を掴み上を向かせられ、またイゾウの顔が目に入った。
と同時に、イゾウの片足が私の足を割って壁に当たる。
「!!!!…や、ちょ、イゾ!?」
いきなりのことに頭が回らなくて、思わず着物の胸あたりをぎゅうと掴む。
「誰が俺から目を逸らしていいって言った?」
「は!?」
「勝手に下向くんじゃねェよ」
「ててててか、足っ!!」
「あ?…ああ」
にやりと口端を吊り上げたイゾウは、そのまま私の足の間にある足を上へと動かす。
「逃げれねェだろ?」
悪魔!悪魔だ!
てゆうか恥ずかしい!
「逃げない、から!ああああああし!どけて!!」
セクハラ的位置にイゾウの膝が迫っていて、すでに私は爪先立ち。
しかも相変わらず距離は近いもんだから、背伸びした分だけイゾウの顔が近づいて、
「キスでもしとくか?」
その言葉に私の顔は発火するんじゃないか心配になるくらい、赤くなった。
もちろん、思考回路は停止中である。
意地悪なイゾウなんて、嫌いだ!
(ミアと買い物〜!楽しみだぜ!ん?なんだこれ。手紙?)
((がさごそ))
(あれ、俺宛。ミアからじゃねぇか)
(………はぁ!?ドタキャンとかありえなくねぇ!??)
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