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甘い言葉で囁いて



バタバタと騒がしい音が聞こえて、俺の部屋にミアが飛び込んで来た。
まぁいつもの事なので気にしない。



「エース!エースも何か甘い言葉で囁いてよ」
「ぶほっ。………急にどうしたんだよ」



急な話題もいつもの事だが、今日のは予想外で、さっき食堂からくすねてきた肉を喉に詰まらせかけた。



「だってエースあんまり甘い言葉言ってくれないじゃん」



ん?ちょっと待て。



「つーか待て。エース“も”ってどういうことだ。」
「浮気じゃないよ!ナタリーと話してたの」
「ナタリー?ああ、サッチの」
「そうそう。でね、サッチ隊長ってば毎日愛を囁いてくれるんだって!」



うげ。
あのオッサン何やってんだ。
想像するだけで気持ち悪ィ。
で、こいつは何でそう言いながら頬染めてんだ。
まあでもミアは俺の大事な彼女だから、とりあえずは聞いてやる。



「………たとえば?」
「たとえば、俺はお前と会えて世界で一番幸せだーとか君の笑顔はどんな宝石にも敵わないよとか他にも…」
「もういい…」
「ねぇだからエースもなんか言ってよー」



キラキラとした目で見たってダメだ。
俺のキャラじゃねーよ。



「そんな気持ち悪ィこと言えるかよ。鳥肌たつぜ」
「ええぇぇぇー」
「不満か」
「不満なり」
「そうか」
「えっ、そんだけ?」
「この肉旨いぞ。食ってみろ」



すげぇ俺。
話題の逸らし方完璧。



「いらないよもー。エースの馬鹿」



あれ何でだ?俺ならすぐに食いつくのに(話題にも肉にも)。
話題逸らし失敗。



「…なんでそんな歯の浮く台詞言ってほしいんだよ」
「だってドキドキしたいし、乙女の夢だよ!」
「わかんねー」
「だろうね。まあいいや。」
「いいのか」
「うん、いい。エースに頼んでも無駄だとわかったし。サッチに頼んでなんか言ってもらう」
「は?」
「じゃ、またねー!」
「ちょ、待てお前っ!……………まじかよ」



ミアは俺の制止も聞かず、バタバタと部屋から嵐のようにでていった。
止めようとあげた片手が虚しく宙をさまよう。


くそ、もう知らねえ。











「エースただいまー」
「……」



また断りもなく人の部屋に入りやがって。
よくそんな何もなかったような顔して帰って来れるよな。
俺は不機嫌なの直すつもりもねーし、笑っておかえりなんて言ってやんねーぞ。



「なにそんな怖い顔して」
「で、サッチはなんて?」
「いや、てゆうかなんでそんな機嫌悪いの?」
「……お前のせいだろ」
「え、私?なんかした??」



むかつく。
何でこいつはいつもいつも俺の思い通りになんねぇんだ。


無言でミアの細い腕を引っぱり、バランスを崩した小さな体を俺の胸の中に閉じ込める。
ぎゅー、と抱きしめた。
手加減なんてしねぇ。ミアが苦しいって言おうが、離してやんねぇ。



「…他の男に頼むとかマジありえねーんだけど」
「……」
「すげー嫉妬してんだけど、お前これどうしてくれんの?」
「エ、エース…、」
「ミアの心音すげぇ早ぇ」
「だ、だって、どきどきしてるもん…」
「出来てんじゃん。ドキドキ。乙女の夢なんだろ」
「う、うん…」



なんだよ、別に甘い言葉なんていらねーじゃん。



「だったら他の男のトコなんて行くんじゃねーよ」
「うん。もうどこにも行かない。」
「よし」



とりあえずは、ミアの言葉に満足してやる。



「あのね、エース」
「なんだ?」
「実はね、サッチに甘い言葉言われても、全然ドキドキしなかった」
「そうかよ」
「うん。甘い言葉はなくても、やっぱりエースじゃないと私ダメだわ」
「…心配すんな、俺もだ。」



くそ、今夜は覚悟しろよ!!







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