甘い言葉で囁いて
![](//img.mobilerz.net/sozai/1641.gif)
バタバタと騒がしい音が聞こえて、俺の部屋にミアが飛び込んで来た。
まぁいつもの事なので気にしない。
「エース!エースも何か甘い言葉で囁いてよ」
「ぶほっ。………急にどうしたんだよ」
急な話題もいつもの事だが、今日のは予想外で、さっき食堂からくすねてきた肉を喉に詰まらせかけた。
「だってエースあんまり甘い言葉言ってくれないじゃん」
ん?ちょっと待て。
「つーか待て。エース“も”ってどういうことだ。」
「浮気じゃないよ!ナタリーと話してたの」
「ナタリー?ああ、サッチの」
「そうそう。でね、サッチ隊長ってば毎日愛を囁いてくれるんだって!」
うげ。
あのオッサン何やってんだ。
想像するだけで気持ち悪ィ。
で、こいつは何でそう言いながら頬染めてんだ。
まあでもミアは俺の大事な彼女だから、とりあえずは聞いてやる。
「………たとえば?」
「たとえば、俺はお前と会えて世界で一番幸せだーとか君の笑顔はどんな宝石にも敵わないよとか他にも…」
「もういい…」
「ねぇだからエースもなんか言ってよー」
キラキラとした目で見たってダメだ。
俺のキャラじゃねーよ。
「そんな気持ち悪ィこと言えるかよ。鳥肌たつぜ」
「ええぇぇぇー」
「不満か」
「不満なり」
「そうか」
「えっ、そんだけ?」
「この肉旨いぞ。食ってみろ」
すげぇ俺。
話題の逸らし方完璧。
「いらないよもー。エースの馬鹿」
あれ何でだ?俺ならすぐに食いつくのに(話題にも肉にも)。
話題逸らし失敗。
「…なんでそんな歯の浮く台詞言ってほしいんだよ」
「だってドキドキしたいし、乙女の夢だよ!」
「わかんねー」
「だろうね。まあいいや。」
「いいのか」
「うん、いい。エースに頼んでも無駄だとわかったし。サッチに頼んでなんか言ってもらう」
「は?」
「じゃ、またねー!」
「ちょ、待てお前っ!……………まじかよ」
ミアは俺の制止も聞かず、バタバタと部屋から嵐のようにでていった。
止めようとあげた片手が虚しく宙をさまよう。
くそ、もう知らねえ。
*
「エースただいまー」
「……」
また断りもなく人の部屋に入りやがって。
よくそんな何もなかったような顔して帰って来れるよな。
俺は不機嫌なの直すつもりもねーし、笑っておかえりなんて言ってやんねーぞ。
「なにそんな怖い顔して」
「で、サッチはなんて?」
「いや、てゆうかなんでそんな機嫌悪いの?」
「……お前のせいだろ」
「え、私?なんかした??」
むかつく。
何でこいつはいつもいつも俺の思い通りになんねぇんだ。
無言でミアの細い腕を引っぱり、バランスを崩した小さな体を俺の胸の中に閉じ込める。
ぎゅー、と抱きしめた。
手加減なんてしねぇ。ミアが苦しいって言おうが、離してやんねぇ。
「…他の男に頼むとかマジありえねーんだけど」
「……」
「すげー嫉妬してんだけど、お前これどうしてくれんの?」
「エ、エース…、」
「ミアの心音すげぇ早ぇ」
「だ、だって、どきどきしてるもん…」
「出来てんじゃん。ドキドキ。乙女の夢なんだろ」
「う、うん…」
なんだよ、別に甘い言葉なんていらねーじゃん。
「だったら他の男のトコなんて行くんじゃねーよ」
「うん。もうどこにも行かない。」
「よし」
とりあえずは、ミアの言葉に満足してやる。
「あのね、エース」
「なんだ?」
「実はね、サッチに甘い言葉言われても、全然ドキドキしなかった」
「そうかよ」
「うん。甘い言葉はなくても、やっぱりエースじゃないと私ダメだわ」
「…心配すんな、俺もだ。」
くそ、今夜は覚悟しろよ!!
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