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unusual occasion





「ぜってぇ声出すなよ?」
「エー、…っ、」



すっと大きな骨張った手を口に当てられる。
にっこりと笑ったエース隊長は、私が黙ったのを確認すると、ゆっくりと手を離した。



「声出したら、お仕置きな。」
「……っ、」



そんなこと急に言われたって、と、頭が混乱する。

12番隊の雑用の私にとって、エース隊長はほとんど縁のない方だ。いつだって話の中心にいるから、見る事はたくさんある。でも、直接話した事は、たぶん、ない。




混乱する頭に、声を出す事もままならなくて黙ったままの私を良いように解釈したのか、エース隊長は満足げに私の頭を撫でた。



「、??」



状況が、いまだ理解出来ていない。

私はいつも通り雑用なりに役に立とうと掃除をしていた。そしたら、通りかかったエース隊長に急に手を引っ張られて、近くの倉庫の中へと入って。それで今、鍵を閉められたドアを背に、エース隊長を目の前に、私はサンドイッチされている。


なぜこうなってしまったかなんて、私に分かるわけがない。



「お前、意外と素直なのな」



にやりと笑ったエース隊長に言葉を発しそうになったけど、隊長に意見するなんて恐れ多くて、やっぱり私は口を噤んだ。
それに気を良くしたらしいエース隊長は、私に両手を出すように促した。疑問に思いながらも、握っていた雑巾を床に置いて、無防備にも両手を差し出す。

次の瞬間、手の甲に鈍い痛みが走った。



「…っ!!!」
「………やっぱり、素直じゃん。かーわいー」



右の手はエース隊長の左手に、左の手はエース隊長の右手に捕まっていて、それを強くドアに押し付けられた為に、痛みが発生した、と理解するのに数秒かかった。



「エ、エースたいちょ、……んんっ!??」



流石にこの状況だと、咄嗟に声が出てしまう。でも、それを止めるかのように、エース隊長は自分の唇で私の唇を塞いだ。

キスを、した。



「ぜってぇ声出すな、…っつったろ」



数秒間の沈黙の後、エース隊長はゆっくりと顔を離してそう言った。


ぱちり、ぱちり、と2回程、スローモーションのように瞬きをして目の前の隊長を見つめる。


顔はいつものエース隊長。あの太陽みたいな笑顔なのに、どうしてだろう。どうしようもなく怖くなって、ぽろぽろと涙が溢れだした。



「あれ?泣いてんのか?」



一瞬、拘束されていた手が緩まったけど、それを離してくれる事はなくて、エース隊長はかわりにその少年のような顔を近付けて、私の涙を舐めとった。



「…ッッ、」
「……しょっぺぇ」



ぼそりとそう呟いたエース隊長は、再びゆっくりと舌先で私の頬を舐め上げる。


耳慣れない音が、近くから聞こえて、言いようのない不快感が心を覆う。


肝心の涙は、エース隊長のその行為に驚いて、どうやら止まってしまったようだ。最後に目尻をぺろりと舐めとったエース隊長は、そのまま私の耳元へと顔を移動させた。



「ちゃんと、我慢しろよ。」



低く囁かれたその声に、何故か私の背中はゾクリと粟立つ。
何故かは分からないけど、不快感の中で、ドクリと心臓が波打った。


そんな私の様子に、器用に口の端を吊り上がらせたエース隊長は、そのまま私の首筋に唇を這わせた。馴染みのない感覚に、全身がぞわぞわする。
だけど、しばらくするとそれは何とも言えない高揚感に変わって。
エース隊長の、吐息が、熱くて。



「…………っ、」



なんか、おかしい。


相変わらず、エース隊長の唇は私の肌を這っている。ゆっくりと、まるで舐め回すように。ふいに、耳たぶを噛まれて、ヒュ、と息を吸った。それに、エース隊長は、ふ、と笑って、私は無意識に身体を捩る。



びっくりして、嫌で泣いたはずなのに、今は何かが違う。
身体がさっきよりも熱くて、エース隊長に握られている手が、指先まで脈を打ったように感じる。



「………カワイイぜ、」



エース隊長の温かい舌が、耳たぶを濡らして、そのままキスをするように音を立てた。



「…っ!」



恥ずかしい。


途端、変な声が出そうになって、思いっきり下唇を噛む。
ばくばくと鳴る心臓が煩い。



「ククッ、やっぱ素直。」
「…………、」
「でも、お前の唇が切れるのは避けてぇな」



自然と、本当にごく自然に、エース隊長が左手の拘束を解き、そのままその手でするりと私の唇を撫でた。


瞬間、既にはち切れそうな心臓がばくりと飛び跳ねる。



解放された左手は重力に逆らう事なくだらりと私の身体の横に垂れ、きゅ、と塞がれた唇は、エース隊長に撫でられて、少しずつ緩くなっていく。



「ほらな。痕ついてら。」



噛んでいた下唇が解放されて、エース隊長の指に捕まる。乱暴さなんて欠片もない、むしろ心配するように優しくふわりと撫でられて、羞恥心が襲った。


さっきまで部屋の外で騒ぐクルーの声が聞こえていたのに、今はそれすらも聞こえなくて。
聞こえるのはやけに大きい自分の心臓の音と、目に入るのは知っているようで知らない男の人。



「名前、何だっけ」
「あ、わ、わたし、…っ」



ふいにそう問いかけられ、反射的に口を開く。
けど、急ににやりと笑ったエース隊長は悪魔のような笑顔でこう言った。



「声出すな、っつったよな?次出したら、声しか出せねぇようにするからな」



この状況で、キスまでされて、言っている意味が分からないなんて言える程私は子供でもなくて。
だから声は出すまいと、必死に首を縦に振る。

エース隊長は相変わらず面白そうにそんな私を眺め、空いている手で私の髪を弄りだした。



問題は、いつの間にか不快感なんて微塵もなくなっていて、今この状況に、私自身嫌悪感が全くない事と、エース隊長に触れられている場所を物凄く意識してしまう事。









ミア。名前くらい知ってる。
そりゃ、ずっと見て来たから。
でも、どうせなら
ゆっくり
焦らして
ひとつひとつ
自分の口から言わせたい。







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